誰でもLINEスタンプを制作・販売できる「LINE Creators Market」。このプラットフォームが立ち上がったことで、これまでの企業主体のLINEスタンプには見られなかった、個性豊かな「クリエイターズスタンプ」が数多くリリースされています。

この連載では、人気を集めているオリジナルのLINEスタンプを生み出したクリエイターたちに、スタンプのコンセプトや制作時の具体的な作業量、そして売り上げなどを聞いていきます。今回は、ゆるいタッチで描かれた豚の「ぶたた」がLINEのやりとりで使いやすい言葉を代弁してくれるスタンプ「ぶたたのメッセージ」を手がけたdecosmithさんにお話をうかがいました。

――最初に、プロフィールと普段のお仕事内容について簡単にお教えください。

decosmithと申します。趣味で携帯メール用絵文字などの小さい画像を制作しています。そこで声をかけていただき、有料のデコ絵文字サイト様に納品もさせていただいております。

――プロフィールに付随して、スタンプや普段のイラスト制作時の作業環境についてお教えください。

パソコン:セミオーダーで組んでもらったもの
使用ソフト:スタンプはIllustrator CS5 絵文字はPhotoshop CS5
使用デバイス:現在はIntuos5 medium PTK-650。制作時はFAVO CTE-640でしたが調子が悪く、スタンプの収入を得たこの機会に思い切って買い換えました。

――「Line Creators Market」でスタンプを制作・販売しようと考えたきっかけは?

きっかけは、たまたま読んだクリエイターズスタンプのニュースです。実は、それまでLINEを使ったことがありませんでした。でも、自作スタンプが使えるならLINEも使ってみたい、自作スタンプが使えるようになればいいのになあ……と常々思っていたので、迷うことなくすぐにLINEのIDを取得しました。

そもそも(携帯メール用の)絵文字を作り始めたのも、自分で作った絵文字が使いたかったからなので、時代が変わって自然な流れで取り組んだという感じです。

――リリースされたスタンプのコンセプトをお教えください。

ぶたたは、もともと絵文字のために生まれたキャラクターです。「絵文字サイズで分かりやすい」、「gifアニメ画像として動かしやすい」を前提にデザインされています。

大きなイラストのためにデザインされたキャラクターを絵文字サイズにすると、どうしても元のかわいさを表現しきれない部分があるので、それなら最初から絵文字ありきでキャラを作ろうと思ったわけです。なので、とてもシンプルなデザインになっています。

「ぶたたのメッセージ」の一部

スタンプ制作にあたり、キャラクターに迷うことはありませんでした。ぶたたはdecosmithの看板こぶたとして愛着がありますし、持ちキャラがぶたたしかいないので。コンセプトは「日常で使える言葉入りで、とりあえず基本的なものを」という程度の簡単なものです。

――ラフ段階では全部で何案ほどスタンプ用のイラストを制作されましたか?

いきなりIllustratorで描き始めるので、ラフ段階というほどのものがありません。思いついたことをメモしておくノートはあるのですが「ぶたたのメッセージ」に関しては2ページほどにまとまりのないメモが書いてあるだけです。作りながら、これがうまくできたから次は……と、無計画な感じで制作しています。

――スタンプを作るにあたって、イラストを描く時とは異なる工夫をした点を教えてください。

もともと絵文字などガラケーのメールで使える小さなgif画像ばかり制作していたので、スタンプの370×320pixelというのは、自分にとってとても大きな画像でした。なので、大きい分いろいろ表現できる・容量制限がゆるい・アニメーションさせなくていいから描くのは1枚でいい、とラクになったことばかりです。

ただ、今までは表現をアニメーションしていることに頼っていた部分もあるので、静止画でも動きが想像できるような躍動感が出せたらいいなあと意識しています。それから、とにかく絵も文字も分かりやすく読みやすく。わざわざ読まなくても、ぱっと目に入って理解できるくらいのものが理想と思って制作しました。

――利用した人から「これは便利!」と言われるスタンプの絵柄は?

そういえば「便利」とは言われたことがないような気がします。「ぶたたのメッセージ」は当たり障りのない文言ばかりですので、特にこれが便利というほどのこともないのではないでしょうか。

便利!ではないですが、面白いと言ってもらえたのは、魔方陣でぶたたが呼び出されている絵柄です。

――ご自身で特に気に入っているスタンプの絵柄はどれですか?

「急いで向かってます」の、ぶたたがかたつむりに乗っているところです。これはぶたたの愛車で、かたつむりさん1号という名前がついています。

「おつかれー」のカレー部分もかなり気に入っています。40点の中で一番気合を入れて描いたのがこのカレー部分です。左奥からバターチキン・サグパニール・マトンマサラ…と料理名も決まっています。

「面白い」と評されたという、魔方陣でぶたたが呼び出されている絵柄

ご自身が気に入っているという2種のスタンプ。カレー部分は実際のメニューを想定して描きこまれている

――「LINEで使いやすい言葉いろいろ」というテーマ通り、やりとりの中に頻出しそうなフレーズや表情が多いですが、この「使いやすい言葉」はどうやって40点候補を出し、決められたのでしょうか?

基本的には「自分自身が使えそうな言葉」なのですが、当時はLINEを使い始めたばかりな上に、トークの相手も同じくLINE初心者である家族だけだったので、どういう言葉が使いやすいのかイマイチ分かっておりませんでした。

なので、会話なんだからあいさつは必要だよね、チャットみたいなかんじかな、そういえば待ち合わせに便利だと聞いたことがある……そんな感じで知識を総動員しました。了解系の返事はよく使うと思ったので3つも入れてあります。

――使いやすい言葉をただ書くだけでなく、それをコミカルなシチュエーションに落とし込まれていますが、特にここはこだわった!という絵柄や文言の系統(お礼系、謝罪系など)ありましたら教えてください。

それほど何もこだわらなかったので答えに窮しています。顔の見えないやりとりなので、誤解を生むようなトゲになる要素はなるべくないように、単純明快に伝わるように、その上でちょっと笑ってもらえたら嬉しいなー、くらいは考えていました。その「笑ってもらえたら」というところが表現できているようでしたら幸いです。

――スタンプを作ったことで変化したことはありますか?

ドライアイがひどくなりました。LINEを使っていくうちに、こんなのが欲しいあんなのも欲しい、と欲しいスタンプも増えてきて、PC画面を凝視する時間が大幅に増えたからです。

朝起きて目を開ける時点で既にパッサパサという状況で、先日ついに眼科に行きました。しかし全然たいしたことないと診断されて驚きました。今もパサパサのシバシバです。

――これまでのスタンプの売り上げをお教えください。

――最後に、これからスタンプを作るクリエイターに向けて、ひとつだけ「スタンプ作りのTips(豆知識)」を教えてください。

スタンプが利用されるときはたいていひとつずつであり、受け取った人はそのキャラクターの知識はない。ということを念頭に置いておくといいのではないかなあと思います。

スタンプ売り場ではタイトル&説明文があり、40個が並んでいるので統一性やストーリー性もあります。例えば「重曹くん」という白い粉のキャラクターを作ったとして、タイトルを知ってから絵を見れば「なるほど、膨らましたり油汚れを取ったり脱臭したり、重曹の効果を生かしていて面白いな」と思うかもしれません。でも、そのスタンプをひとつだけ送られた相手にとってはワケのわからないキャラクターであり、なんで油汚れを取っているのかも分からないのです。

そう思ったのは、お店でかわいいシールを見つけて購入、いざ一枚だけはがして使ってみるとたいしたことない、というかなんの絵なのかよくワカラン……という経験を何度もしたことがあるからです。ただの赤い丸いシールも、おにぎりが並んだシールシートの中に散らばっていれば梅干しに見える。でも、単品で使ったらただの赤い丸。おにぎりと並べて使わなくちゃ分からない。絵文字を作るときもこのことはいつも念頭に置いていましたが、スタンプでも同じだと思っています。