誰でもLINEスタンプを制作・販売できる「LINE Creators Market」。このプラットフォームが立ち上がったことで、これまでの企業主体のLINEスタンプには見られなかった、個性豊かな「クリエイターズスタンプ」が数多くリリースされています。

この連載では、人気を集めているオリジナルのLINEスタンプを生み出したクリエイターたちに、スタンプのコンセプトや制作時の具体的な作業量、そして売り上げなどを聞いていきます。今回は、クリエイターズスタンプの人気テーマ「猫」の中でも、絶妙な表情とシュールなポーズで人気を集めているスタンプ「ねこですよ。」の作者・岩元大輔さんにお話をうかがいました。

――最初に、プロフィールと普段のお仕事内容について簡単にお教えください。

都内の広告会社でアートディレクター兼デザイナーをしています。ポスターやパンフレットのような紙媒体のデザインが専門分野です。

仕事でイラストも描いていますが、猫の絵に挑戦したのは今回が初めてです。スタンプの制作は帰宅後に自宅で行っています。

――プロフィールに付随して、スタンプや普段のイラスト制作時の作業環境についてお教えください。

パソコン:iMac 21.5インチ(自宅用)
使用ソフト:illustrator CC
使用デバイス:Magic Mouse
その他:iPhone、iPad miniでも色味をチェックしています。

――「LINE Creators Market」でスタンプを販売しようと考えたきっかけは?

スキルを生かした活動を模索していた時に「Line Creators Market」のニュースを見つけました。普段から挿絵のようなイラストには慣れていたので着々と準備を進め、オープン初日にはリリースできました。

――リリースされたスタンプのコンセプトをお教えください。

コンセプトは「猫好きによる猫好きのためのスタンプ」です。それまでLINEを使ったことがなかったのですが「自分のような猫好きは沢山いるはず」という安易な理由で作り始めました。

海外での販売も意識していたのでできるだけ文字は使わず、猫らしいしぐさや表情だけでコミュニケーションが取れるように構成しました。

「ねこですよ。」に登場する白猫は、いわゆるファンシーなキャラクターとは異なる表情や等身で描かれているのが特徴

――ラフ段階では全部で何案ほどスタンプ用のイラストを制作されましたか?

日常会話で使えることを大事にしつつ、文字を使わなくてもパッと見てわかりやすいネタを選定しました。描き始める前に「威嚇」、「寝る」など言葉によるアイデア出しから始めたので、実際に描いたスタンプは40案ちょうどです。

ただ、普段から猫の絵を描いているわけではなかったので、どんな絵がコンセプトに合うか、表情やタッチをかなり検証しました。

――スタンプを作るにあたって、イラストを描く時とは異なる工夫をした点を教えてください。

購入画面に進んだ時に、ユーザーが使い方を想像できるようにスタンプの構成を工夫しました。具体的には、ストアでの表示は4個×10列で、購入後に使用する際は4個×2列ずつで表示されますが、その並びで個々のテーマにまとまりが出るよう、常に40個並べながら制作していきました。

――利用した人から「これは便利!」と言われるスタンプの絵柄は?

便利かどうかはわかりませんが、にぼしで「YES」と答えているスタンプはユーザーさんからの評価が高く、それが決め手で購入した方もいたようです。全体的にどうとでも取れる絵柄が多いので、いろいろな意味合いで使ってもらっているようです。

――ご自身で特に気に入っているスタンプの絵柄はどれですか?

トイレで踏ん張ってるスタンプがお気に入りです。耳が後ろに向いてる感じが猫の集中力をよく表現できたと思います。使い所はあまりなさそうですが…。

――クリエイターズスタンプで多くのクリエイターがテーマとしている「猫」(特に白色の)ですが、「ねこですよ。」は独特の表情づけや、ややリアルめのキャラクターデザインが印象的です。いわゆる「かわいらしい」猫ではなく、こうしたデザインにした狙いは?

個人的には猫の自分勝手で媚びのない、自然体の姿が好きなんですが、そういった絵柄は当時ストアにはありませんでした。自分の中の猫像がどれだけ受け入れられるのか知りたくて作ったのが「ねこですよ。」です。

特に、男女問わず使いやすいものを目指したので「かわいい猫のキャラクター」にならないようにすることは強く意識しました。作り始めはもっと写実的な顔つきだったんですが、文字を使わずに喜怒哀楽を表現するには工夫する必要が出てきたので、最終的にはリアルの中にも感情豊かな表現ができたと思います。

利用者からの人気が高いにぼし文字の「YES」スタンプ(左)、岩元氏自身のお気に入りだというトイレ中の猫のスタンプ(右)

――スタンプを作ったことで変化したことはありますか?

何度かWebニュースで取り上げていただいたり、雑誌「ねこのきもち」の編集の方からイラストのお仕事をいただいたりと、新しい経験が増えました。登録も本名だったので、親戚や仕事で付き合いのある方から「スタンプ買ったよ」と報告を受け、LINEの影響力の大きさを感じました。

――これまでのスタンプの売り上げをお教えください。

去年の夏にクロアチアへ10日間の新婚旅行に行きましたが、その時かかった旅費の全てが補えるくらいの売り上げには、3カ月で到達できました。

――最後に、これからスタンプを作るクリエイターに向けて、ひとつだけ「スタンプ作りのTips」を教えてください。

私のスタンプは特別上位にいたわけではないですが、その割に何度か大きなWebニュースで扱われたり仕事のお誘いをいただけたりと、プロ受けは良かったように思います。単純な売り上げだけではなく自分の活動をPRする場所としても、かなり効果的だと感じました。