現在、さまざまなタイプのエコカーが開発・発売されている。その中でも、「古くて新しいエコカー」といえるのがディーゼルエンジンを搭載した乗用車。日本ではマツダが新世代クリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」を開発し、「CX-5」に搭載して大ヒットした。新型「デミオ」にも搭載される。

マツダ「デミオ」にも、「SKYACTIV-D」搭載車が設定される

しかし、ディーゼルエンジンと聞いてあまり良いイメージを持たない人、あるいは疑問を持つ人も多いかもしれない。というのも、日本ではディーゼルエンジンを搭載した乗用車が、実質的に市場から締め出された時期があったからだ。

2000年代に入り、東京都などいくつかの自治体が条例でディーゼル車を厳しく規制した。これを受けて自動車メーカーはディーゼルエンジン乗用車の販売を取りやめ、結果的に一部の地域だけでなく日本中でディーゼルエンジン乗用車が姿を消したのだ。厳しい規制はディーゼルエンジンの排気ガスを根絶するためだったから、この時点で「ディーゼルは環境に悪いエンジン」と考えた人が多かったように思う。

それがなぜ、いまになって「環境に良いエコカー」とされているのか? そこにはもちろん技術の進歩があるのだが、実際のところ、ディーゼルエンジンはずっと以前から環境に良いエコなエンジンだった。理由は簡単で、燃費が良いからだ。燃費が良いということはCO2排出量が少ないということであり、CO2の削減は現在の環境対策の最重要課題になっている。

それなのに、なぜ日本でディーゼルエンジンが厳しく規制されたかというと、人間に重大な健康被害をもたらすPM(ディーゼル排気微粒子)やNOx(窒素酸化物)も排出されるから。つまり、「環境には良いが人間には良くないエンジンだった」といえる。数年ほど前、「日本で姿を消したディーゼルエンジンがヨーロッパでもてはやされているのはなぜ?」という疑問を持つ人が多かったが、その答えもここにあるだろう。ヨーロッパではCO2の排出量が少ないことが評価され、日本ではPMとNOxが問題となった。

もっとも、ヨーロッパでPMやNOxによる健康被害が無視されたわけではない。しかし、日本の大都市では渋滞がひどかったため、とくにPMの影響が非常に大きかった。国による規制が進まず、自治体が独自に規制を行った結果、メーカーが対応できない唐突な規制になってしまった面もある。

NOxを低減させる最新技術で、ディーゼルエンジンが生まれ変わる

PMとNOxの問題を解決する方法はいくつかあるのだが、かつては触媒による排気ガスの後処理が主流だった。しかし、後処理は高価な貴金属などを使用するため、コストが高くなるという欠点があった。

「SKYACTIV-D」を搭載したマツダ「CX-5」。同社の新世代商品第1弾でもある

マツダの「SKYACTIV-D」では、圧縮比を下げるという、より根本的な対策で、現在の厳しい排ガス規制をクリアすることに成功した。圧縮比を下げることで、ディーゼルエンジンのもうひとつの弱点である振動も大幅に低減され、トラックのような車体の揺れやエンジン音も改善される。エンジンの各パーツの強度と耐久性も下げられるため、軽量でコンパクトなエンジンにできる。従来のディーゼルエンジンでは難しかった小排気量のエンジンも、低圧縮なら無理なく作ることができる。

圧縮比を下げることで、排気ガスをクリーン化できるだけでなく、ディーゼルエンジンの他の欠点もことごとく解決できるのだ。ちなみにディーゼルエンジンの圧縮比を下げることは、ここ数年の技術的なトレンドでもある。マツダ以外でも研究が進められ、実用化もされている。ただ、「SKYACTIV-D」が達成した圧縮比14.0はライバルより抜きん出ており、その意味では現在、最先端のディーゼルエンジンといえる。

圧縮比を下げるにはさまざまな技術的課題があるのだが、最も問題となるのは、冷間時のエンジン始動が困難となることだ。「SKYACTIV-D」ではこの問題を解決するため、排気バルブに可変バルブ機構を採用。燃焼ガスの一部をシリンダー内に逆流させることで、急速に温度を上昇させ、着火の安定性を向上させた。

「SKYACTIV-D」を搭載した「CX-5」のヒットで、日本でもディーゼルエンジンのイメージが大きく回復した。同じく「SKYACTIV-D」を採用した「デミオ」は、「2014-2015 日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど評判が高い。今後はハイブリッド車や電気自動車らと並び、ディーゼル車がエコカーの大きな柱となる可能性もありそうだ。