特急車両8000系に連結されて8月20日から運行開始し、いま京阪電車の中で最も注目を集めているのが座席指定特別車両「プレミアムカー」。その実力はいかほどのものか。実際に乗車した体験をもとに探りたいと思う。

「プレミアムカー」を連結した8000系の特急が「鳩マーク」と「プレミアムカー」デビュー記念の副標を掲げ、京阪本線を走行

6号車の「プレミアムカー」は1扉車となり、外観デザインも他の号車とは異なる(写真は5月19日の報道公開で撮影)

関西ではこれまでに近鉄と南海電鉄が有料・座席指定の列車を運行しており、京阪電気鉄道は関西大手私鉄の中では3社目となる。ただし、京阪電車は昔から「テレビカー」やダブルデッカー車両を登場させており、新たに「プレミアムカー」を導入するとのニュースを聞いても、個人的にはさほど驚きはなかった。

「プレミアムカー」へ乗車するには、乗車券とは別に「プレミアムカー券」が必要となる。「プレミアムカー券」は淀屋橋駅から樟葉駅まで400円、樟葉駅以遠は500円となる。営業キロは淀屋橋駅から樟葉駅までの27.7km、淀屋橋駅から出町柳駅まで51.6km。一方、南海電鉄の特急「サザン」の特急券は一律510円、近鉄の41~80kmの特急券は900円となっている。そう考えると、南海や近鉄の特急券と比べて京阪電車の「プレミアムカー券」は割安な設定といえるのではないだろうか。

「プレミアムカー券」はウェブもしくは特急停車駅の駅窓口で購入できる。筆者は今回、ウェブから購入した。飛行機の「eチケット」を購入する感覚で、簡単に「プレミアムカー券」を入手できた。ただし、ウェブで購入する場合、支払いはクレジットカードのみ。領収書は発行されないので、経費で落とす場合は注意が必要かもしれない。

筆者が乗車した列車は、平日の出町柳駅10時59分発、淀屋橋行の特急。「プレミアムカー」の扉付近でアテンダントによる丁寧な出迎えを受け、大阪方1人席の14Cに座った。デビュー以来好調という「プレミアムカー」だが、平日昼間の始発駅ということもあり、車内は空席が目立っていた。

その後、1人の乗客が「プレミアムカー券」を購入せずに車内に入ると、アテンダントがすばやく対応していた。後でアテンダントに尋ねると、空席があれば車内でも「プレミアムカー券」を販売するという。とはいえ、やはり「プレミアムカー券」を購入してから乗車するのが基本のようだ。

片側2ドアの特急車両8000系の6号車に連結された「プレミアムカー」は、座席数を計40席に抑えており、客室内は横3列(1列+2列)のリクライニングシートが並ぶ。ドア横にはスーツケースにも対応できるラゲッジスペースがあった。「プレミアムカー」にはアテンダントが常駐しているので、盗難の心配は少なさそうだ。

「プレミアムカー」の客室内は横3列のリクライニングシート(写真は5月19日の報道公開で撮影)

大型ヘッドレストを備えた座席でゆっくりくつろげる(写真は5月19日の報道公開で撮影)

車内に入り、座席に座った。「プレミアムカー」の座席の第一印象は「重厚」の一言。厚みがあり、しっかりと背中が支えられているように感じた。座席の段が深く、腰と背中が自然と座席にフィットする。そのため、リクライニングしても違和感がない。

座席のテーブルは広く、10kgの荷物まで対応できる。ノートパソコンを使った作業も快適にできるだろう。肘置きにコンセントが付いているので、パソコンやスマートフォンも充電できる。なお、筆者が座った14Cは進行方向の車端部のため、テーブルは通常より小さかった。ノートパソコンを使いたい場合、車端部は避けたほうがいいかもしれない。

「プレミアムカー」の座席でもうひとつ、印象に残ったのが足もとの広さだ。「プレミアムカー」の座席の前後間隔は従来車両と比べて100mm広いという。そのため、足元がかなり広く感じるのだ。足を伸ばしても窮屈さは感じられない。「プレミアムカー」には足置きがないものの、快適に過ごせる。

至れり尽くせりの「プレミアムカー」だが、もうひとつ注意点として、「プレミアムカー」にはトイレが設置されていない。約1時間の所要時間を考えるとトイレは必要ないかもしれないが、「プレミアムカー」で飲食する場合は注意が必要だろう。

10時59分、淀屋橋行の特急は出町柳駅を静かに発車した。あまりにも静かだったので、車両が動き出した瞬間は驚いた。じつはこの静粛性も「プレミアムカー」のポイント。日本の車両では珍しく、「プレミアムカー」は扉が1カ所しかない。筆者が座った14Cは、扉から最も遠い座席だった。それもあってか、14Cの座席に座っていると、車外の音はほとんど聞こえてこない。

列車は七条駅で出町柳行の上り特急とすれ違った。出町柳行の「プレミアムカー」を見ると、中高年観光客の姿が目立った。また、「プレミアムカー」を連結した特急が駅に停車すると、ホームにいる人が「プレミアムカー」に注目している。デビューして1カ月以上経過したが、確実に知名度が浸透しているように感じた。

特急は七条駅を出ると、丹波橋駅・中書島駅・樟葉駅・枚方市駅の順に止まる。特急停車駅に止まる度にホームはにぎわいを見せるが、ホーム上の喧騒はほとんど聞こえてこない。静かな車内でリラックスできる。

宇治線との接続駅、中書島駅を発車すると、アテンダントが車内を回った。ただし、アテンダントは検札を行わず、iPadのような携帯端末を使って座席のチェックを行っていた。ところで、静かな車内で目立つのが自動放送以外の肉声放送だ。「プレミアムカー」のみアテンダントによる放送にすると、上質な空間がより保たれるのではないだろうか。

「プレミアムカー」を連結した特急は日中時間帯に毎時3~4本程度運行される

くつろいでいる間に、特急は淀屋橋駅に着いた。出町柳駅からの所要時間は54分だが、非常に短く感じた。ワンコインでハイレベルな座席に座れる「プレミアムカー」。一度、観光やビジネスで乗車されてはいかがだろうか。