今年に入り、関西の大手私鉄の中でもホットな話題を提供し続けているのが京阪電気鉄道だ。8月20日、同社初となる座席指定の特別車両「プレミアムカー」がデビューし、翌21日から全車両座席指定の列車「ライナー」が運行開始した。京橋~七条間ノンストップの快速特急「洛楽」は、今年から平日にも運行されるようになった。

有料の「プレミアムカー」と「ライナー」が登場してから約1カ月。利用者は京阪電車の新たな"目玉"をどのように受け入れているのだろうか。先日、樟葉発淀屋橋行の「ライナー」、淀屋橋発出町柳行の快速特急「洛楽」、出町柳発淀屋橋行の特急の「プレミアムカー」に乗車する機会を得たので、3回にわたってレポートしたい。

8月21日から運行開始した「ライナー」は京阪8000系を使用。「鳩マーク」はなく、車両方向幕に「ライナー」と表示される

「ライナー」は車内でリラックスして過ごせる乗り得な列車

8月21日から運行開始した「ライナー」は、平日朝ラッシュ時の快適な通勤・通学輸送を目的としており、全車両座席指定の列車として運行される。使用車両は片側2ドアの8000系で、6号車には「プレミアムカー」が連結されている。

「ライナー」のダイヤはシンプルかつ斬新といえる。平日の朝、枚方市発淀屋橋行と樟葉発淀屋橋行の2本のみである。2本とも始発駅(枚方市駅または樟葉駅)を出ると、JR大阪環状線やJR東西線・学研都市線(片町線)などと接続する京橋駅まで止まらない。京橋駅からは天満橋駅と北浜駅に停車し、終点の淀屋橋駅に到着する。

枚方市発・樟葉発「ライナー」に乗車する際、乗車券とは別に300円の「ライナー券」が必要。「ライナー」列車の「プレミアムカー」に乗車する場合は、乗車券とは別に400円の「プレミアムカー券」が必要となる。「ライナー」列車の「ライナー券」「プレミアムカー券」はウェブもしくは枚方市駅・樟葉駅の臨時発売所で購入できる。

筆者は「ライナー」が発車する30分前、朝7時50分に樟葉駅に着いた。大阪府枚方市北部に位置する樟葉駅は、特急も停車する京阪電車の主要駅。この日も多くのビジネスパーソンが改札を通り過ぎていった。

朝8時、樟葉駅1階の改札口奥に「ライナー券」の臨時発売所が設けられた。しかし、立ち寄るビジネスパーソンはまばら。8時10分頃、ようやく「ライナー券」を購入する女性数人の姿を見ることができた。改札口にあるパネルを見ると、樟葉駅を8時20分に発車する「ライナー」の席は余裕があったが、その25分後、8時45分に発車する特急の「プレミアムカー」は残りわずかになっている。大々的に宣伝された「プレミアムカー」と比べると、「ライナー」はまだまだ沿線住民に浸透していないかもしれない。

8時10分、淀屋橋方面のホームに立つと、すでに3番線ホームに8000系「ライナー」が入線している。筆者は最後尾の車両(1号車)に乗車した。

8時16分、隣の4番線ホームに6000系の特急淀屋橋行が入線した。特急は立席が目立つ大混雑で、ホームではしきりに「ライナー」を案内していたものの、特急から「ライナー」に乗り換えようとする人はあまり見られなかった。「ライナー券」を購入するには一度ホームを降り、臨時発売所へ行かなければならない。南海電鉄の特急列車のように、ホーム上に「ライナー券」を販売する自動券売機を設置すれば、状況が変わるかもしれない。

京阪8000系(一般車)の車内。ドア間の座席は転換クロスシート、車端部の座席はハイバックのロングシート(写真は5月19日の報道公開で撮影)

8時20分、定刻に「ライナー」は樟葉駅を発車した。筆者が乗車したのは8000系の一般車で、実に快適だった。車内の座席はドア間にクロスシート、車端部にロングシートを配置し、クロスシートはねずみ色をベースにしており、シックな雰囲気を醸し出している。窓側に肘当てもあるため、窓側の席に座っても比較的楽な姿勢で過ごせる。ロングシートはハイバックシートとなり、フラッグシップ車両にふさわしい本格仕様に。京阪8000系のロングシートは日本で一番豪華なロングシートではないだろうか。

車内は樟葉駅発車後の自動放送を除き、京橋駅到着まで目立った放送はなし。京橋駅までノンストップのため、車内は本当に静かだ。乗客はリラックスした表情で、「ライナー」車内でのひとときを過ごしているようだった。2号車では、ロングシート付近にベビーカーを持ち込んだ女性を見かけた。朝ラッシュ時の電車にベビーカーを持ち込むのは至難の業。その点「ライナー」は座席指定で京橋駅までノンストップなので、気兼ねなくベビーカーを持ち込める。「ライナー」は女性や子供にもやさしい列車だといえるだろう。

「ライナー」をより手軽に利用するため、期待することは…

樟葉駅から快調に飛ばしてきた「ライナー」は、枚方市駅手前で20km/h程度に減速した。8時26分、枚方市駅をしずしずと通過。多くの利用者がいる主要駅を通過するのは少し気分が良い。「大量の乗客が車内に入らない」と思うだけでも、精神的に楽だ。

8時36分、複々線区間のスタート地点にあたる萱島駅を通過。ここから速度を上げるのかと思いきや、複々線区間に入っても加速と減速を交互に繰り返す。8時42分に守口市駅を通過した後、京橋駅までの直線区間で一気に加速した。

8時46分に京橋駅に到着し、中之島行に接続する。京橋駅からは乗車券のみで「ライナー」を利用できる。そのためもあってか、中之島行の電車から「ライナー」に乗り換えてくる利用者のほうが、樟葉駅からの利用者よりも多く感じた。次の天満橋駅で大半の乗客が降り、終点の淀屋橋駅には8時54分に到着した。

全車両座席指定「ライナー」は今後定着するか(写真は5月19日の報道公開で撮影)

「ライナー」は樟葉~淀屋橋間を34分、枚方市~淀屋橋間を28分で結ぶ。その魅力は速達性というより「確実に座れる」という安心感と静粛性だろう。現状では「ライナー」の知名度は低いといわざるをえないが、安心感と静粛性を前面に出せば、確実に利用者は増えるのではないか。そして発車5分前のホームであっても確実に「ライナー券」を購入できるしくみを構築すれば、もっと手軽に「ライナー」を利用できるはずだ。