近頃のデジカメは高感度モードを持つものが多い。これは、どちらかというと「ブレ」防止に使われるためだが、感度を上げて撮影することはブレを防ぐだけでなく、夜間撮影でも威力を発揮する。暗いところではフラッシュを使用することが多いが、フラッシュで撮影した写真には何か違和感がないだろうか? 夜景など夜の表現をなるべく、見たままに撮影したいはずなのに、何か違う感じの仕上がりになることが多いはずだ。さらには、肉眼で見た時の色がデジカメで撮影すると、どうも見たままで撮れてないということも多いだろう。この連載では数回にわけて夜間撮影のコツと、できるだけ見たままのイメージに近く撮影する方法、夜間表現の方法について解説したいと思う。

筆者が最近、少し危惧しているのは、そろそろ時代として「高感度」の意味が通じなくなりつつあるのではないかということだ。これは皆さんの中でも私などと同年代の方なら経験済みかもしれないが、「レコード針」が通じないとか「レコード」が通じないのと同じことで、フィルムの概念を知らないユーザが増えると、もともとの高感度の意味がわからなくなってしまうためである。もっとも、最近ではレコードはDJが使うから若年層でも知っている。これと同じように一部ではフィルムカメラに対する復古運動!? が起こっており、フィルムの良さを見直そうという動きや、表現手法としてのフィルムが使われ始めているので、あまり心配するようなことではないのかもしれない。

高感度とは英語では"High-Speed"という。直訳すると「高速」なのだが、高速度撮影とは意味が違うので混同しないように。ちょっと変な表現ではあるが、フィルムが高速に感光する、すなわち短い時間で感光するからHigh-Speedと思っていただければいいだろう。

フィルムは感度によって売られているものがいくつかある。一般的なコンパクトカメラや一眼レフカメラで使われるものがISO 100という感度のもの。基本的にこれが標準と思ってもらえばよい。ところがフィルムの改良とサービス版程度のプリントにしか使わないのであればアラが目立たないということで普及したのがISO 400の感度のものだ。このため、割と普通に売られているフィルムという点ではISO 100または400のものということになる。

『写るんです』を始めとするレンズ付フィルム(使い捨てカメラと言ってはいけない)は独自の進化をとげているので、ちょっと事情が異なる。売られている製品を見ればわかるがISO感度でいうと1,000や800といった高感度で、しかも(絶滅したかと思われた)APSのものがあったりする。コンパクトなカメラでしかもフラッシュ付であるが、レンズが暗くても描写範囲を広げたりフラッシュが届きやすいようにというわけで、高感度が比較的当たり前に使われている製品なのである。

さてここでまず知っておきたいのがこのISO感度。デジカメの場合でもスペック表を見るとISO 100/200/400/800相当、といった記述がなされているはずだ。

基本としてISO 100を基準に考えよう。数字の倍数はそのまま感度の高さになっている。例えばISO 400はISO 100の4倍感度が高い。800なら8倍感度が高いことになる。

フィルムの場合にはもともとの特性から感度が高いものが用意されていないこともあり、以前だとせいぜいISO 1000程度までしか売られていなかったのだが、最近ではフィルムでも超高感度のものが市販されておりカラーネガでISO 1600まで市販されている。

ご承知の通り、フィルムは現像という処理が入るため、この現像処理時間を調整することで感度を調整することも行われ、感度を下げる操作を減感現像、上げる操作を増感現像と呼んでいる。一般のDPEではあまり馴染みのない処理だが、プロラボなどに依頼すればやってくれる。対応可能なフィルムに制限があるので、これを使う場合には注意を要するが、例えばフィルムカメラにISO 400のフィルムを入れ、DXコードを無視させ手動でフィルム感度を1,600にセットして撮影する。そうすると、カメラはISO 1,600のフィルムが入っているつもりで処理するので、1,600に適した露光量で撮影される。現像に出す際には「2段増感」(写真では2倍増えることを「1段」という。これは露光量が1段あたりで2倍の量になるため。3段というと光の量では8倍違う)の指示をつけて出すと1,600相当で現像されるという仕組みだ。

デジタルカメラでもISO感度設定は1,600までしか持っておらず、それ以上の設定は増感扱いになるものもある。例えばニコンのD80は1,600以上は1/3段単位で増感設定が可能だ。

ニコンD80の高感度設定の例。Ho.7はISO 1,600からの2/3段増感の意味

このような感度の高い領域を使って撮影することを高感度撮影という。では、明確にどこからどこまでが高感度かという定義はないのだが、一般的なデジカメの場合では実用領域のISO感度は100~800程度。あるいは機種によってはISO 400程度まで。なぜこの範囲を実用領域というのかといえば、感度がISO 400や800を越えると撮影画質が急に悪くなるカメラが多いからである。

感度と画質はトレード・オフ

高い感度で撮影できるなら、最初から高感度にしておけばいいじゃないか? と思われるかもしれない。高感度での撮影の場合のデメリットは大きくふたつある。

まず画質の問題。フィルムもデジカメもそうなのだが感度が高いほど画質は悪くなる。この理由は簡単で、もともとフィルムや撮像素子が受け取る小さいエネルギーをいかに増幅するかが高感度撮影であり、少ないエネルギーを処理したり増幅したりすると当然、ノイズのような外乱の影響を受けるからだ。一般的にフィルムでは高感度になるほど画質が粗くなり粒状感が増す。デジカメではノイズが多くなったり画像エンジンの後処理によって、べたっとした仕上がりとなる。

もうひとつの問題点は高感度すぎると明るい場所では撮影できなくなってしまう点。シャッター速度も絞りもどちらも上限があるが、この上限で使ってすら適正露出が得られなくなってしまうのだ。例えば感度を最大にしておくと、晴天昼間では撮影できないというケースが発生してしまう。この問題は意外とやっかいで、安価なデジカメの場合には高速度シャッターが切れないものがある。そうすると明るい屋外では露出オーバーになってしまい撮影できないことがあるのだ。

一般的に晴天時昼間の露出であればISO 100時にはF8で1/250秒が基本となる。この条件でISO 1600を使用すると露出は1/16にしなくてはならないので、F32で1/250秒となるが、コンパクトデジカメなどではF値は8や、あっても16まで。となるとシャッター速度で調整しなくてはならないのだが、1/4000(250×16)秒という高速シャッターが切れる機種は少ない。

つまり、いたずらに高感度にするのではなく撮影する目的や状況に応じて感度を調整しましょう、ということなのである。フィルムカメラでは状況に応じて、フィルムを交換しなくてはならなかったがデジカメならば簡単に感度設定を変更できるので、状況に応じた撮影はお手の物ということになる。

手ブレ補正機構が夜間や室内撮影を容易に

高感度撮影機能の搭載とあいまって、夜間の撮影を容易にしたのが手ブレ補正機構だ。ただしこれは機械的(レンズ式やCCDシフト式)な手ブレ補正機構を搭載するものに限るので注意。

夜間撮影では撮影時の感度を上げるだけでは不足なことも多く、これまでは三脚を使わなければ撮れないものも多かった。ところが、現在の手ブレ補正機構は性能の良いものならば3段分はブレ補正が効くといわれている。

これがどれほどすごいものかというと、一般にブレの起こる下限のシャッター速度はレンズ焦点距離の逆数とされており、例えばfが50mmならばシャッター速度が1/50秒以下になると手ブレが発生するというわけだ。もし、ここで3段の手ブレ補正が行えるカメラがあったとすると、この値から3段分、すなわち1/6秒(1段で1/25,2段で1/12.5)程度までのシャッター速度ならば手ブレせずに撮れてしまうことになる。こうなると、ちょっとした夜間撮影ならば三脚なしでも十分に行えることになる。

このことは室内での撮影でも威力を発揮する。屋外の撮影と比較すると、屋内では光の量はかなり少ない。このため屋内での撮影では自然とシャッター速度も下がり、手ブレが発生しやすい。かといってフラッシュを使うと、せっかくの室内の照明は台無しになりベタッっとしたつまらない写真しか撮れなくなってしまうわけだ。

高感度撮影と手ブレ補正をうまく組み合わせることによって、夜間や屋内での撮影に、その場の明かりを使って効果的な映像を得ることができるのである。

ただし、当然ながらシャッター速度が遅い条件下では被写体のブレは起きるので注意。ブレの種類を理解することは逆にブレをいかに効果的に使うかにも繋がる。

ライトアップされた庭園を撮影。シャッター速度は実に1/3秒。感度はISO 1600で撮影している。拡大してよく見るとノイズも多いしノイズリダクションによる悪影響も出ているが、このような写真も撮れてしまうのが高感度+手ブレ補正の良いところ。
カメラ:Nikon D80
レンズ:AF-S VR NIKKOR 24-120mm F3.5-5.6G
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