いまや当たり前のように家庭に存在する各家電製品にも歴史があります。本連載では、誰もが知っている家電製品の初代や初期モデルなどを紹介していきたいと思います。

現代の家庭用ルームエアコンと言えば、室外機と壁掛け式の室内機が別々になっているのが主流です。一般財団法人家庭電気文化会のホームページによると、そんなスタイルが世の中に登場したのは1959年に遡ります。

そして、そのセパレート型エアコンに"ラインフローファン"と呼ばれる横長の筒状のファンを世界で初めて搭載して、現在のルームエアコンにつながるスタンダードとなったのが、今もブランド名として続いている三菱電機の「霧ヶ峰」です。

霧ヶ峰初号機(1968年)

同社のルームエアコン第1号機は1954年に発売。その後、1959年に初の家庭用エアコンが発売となり、1966年にセパレート型エアコンが誕生。そして、翌1967年に新開発の壁掛型エアコンとして「霧ヶ峰」の愛称で発売されました。

戦後、ほとんどの電化製品において、アメリカの技術をベースにしたものが市場を占めるようになった一方で、アメリカとは住宅事情が異なる日本の一般家庭では適合しないものもありました。その一例がエアコンです。

三菱電機の資料によると、従来のアメリカ式のエアコンは廊下や窓、壁面に取り付けるものなどがありましたが、室内機と室外機は一体型で大きく、60キロ近い重量があり、日本の住宅に据え付けるのに苦労していたそうです。

そこで、当時の三菱電機の技術者が、日本の住宅にマッチするエアコンとして、セパレートエアコンを開発したのです。今や最も一般的な「壁掛型」の他に、窓にはめこむ「窓掛型」、家具感覚で床に置ける「床置型」、テレビのように足を付けて見映えをよくした「棚置型」といった4種類のセパレートタイプが開発されたとのこと。

TVのような足つきの「棚置型」(1967年)

「霧ヶ峰」以外に「軽井沢」「上高地」もあった!

現在、同社のルームエアコンとして残っているのは、壁掛け型の「霧ヶ峰」ですが、当時は窓掛型の「軽井沢」、床置型の「上高地」「志賀」も発売されていました。実は、発売された1967年当時は空前の別荘ブーム。避暑地に別荘を所有することが憧れのライフスタイルで、そんな風潮を反映して、どれも長野県のさわやかな高原からネーミングされたそうです。

「軽井沢」

「上高地」

その後、他のタイプは商品の生産終了とともに消滅し、唯一残ったのが「霧ヶ峰」。現在もそのまま進化を続けています。ちなみに、「霧ヶ峰」の知名度アップに貢献したとして、長野県諏訪市から三菱電機へ感謝状が授与されています。

エアコンと言えば、いまや当たり前のように天井付近の壁に室内機が取り付けられているものですが、このスタイルが日本の住宅事情に合わせて定着したものと知り、驚きとともに納得です。

また、今のエアコンは冷暖房の機器ですが、そもそもはクーラーと呼ばれており、部屋を冷やすための空調機器でした。もとは日本の狭い住宅事情に合わせて考え出されたスタイルですが、暖かい空気は上へ、冷たい空気は下へ移動する原理から考えても、天井近くに設置するほうが効率もよく、別の意味でも理にかなった進化であったと言えますね。

取材協力・画像提供:三菱電機