人生における青春時代。その成長過程のまっただ中を、女子校・男子校で過ごした方も多いのではないだろうか。今回そんな女子校・男子校についてお話しいただいたのは、恋愛に悩む人をサポートする「失恋ホスト」などの活動を行う桃山商事の代表 清田隆之氏と、早稲田大学講師としても活躍するライターのトミヤマユキコ氏。青春時代の6年間を男子校・女子校で過ごしたお二人に、当時の学校生活を振り返っていただき、それぞれの学校の特徴や卒業後のキャリアに活かしていることなどを伺った。

左からトミヤマユキコさん、清田隆之さん

同性のなかで女役割、男役割が存在?

――例えば、女子校内で人気のある先輩が、後輩から「格好良い!」と言われるようなことはありましたか

トミヤマさん:ありましたよ。女子ばかりの環境にいると、なんとなく"男役割" "女役割"が決まっていくんですよ。例えば、重い荷物を運ぶのは、スポーツが得意な子や体格のいい子、みたいな。とくにショートカットで運動能力の高い"ハンサム系女子"はモテてました。バレンタインにチョコもらったりとかしてましたね。

――男子校ではどうでしたか

清田さん:そこまでじゃないけど、同じサッカー部に顔がかわいくて肌もモチモチで女子みたいな感じの男が一人いて、そいつにルーズソックスをはいてもらって「女子高生みたい!」って盛り上がってたことはありました。実に童貞くさい、中学生の頃の思い出です……。

――お二人は"男役割"・"女役割"どちらの役割だったと思いますか

トミヤマさん:私は男役割でしたね。私の学校では、中学から高校に上がる際、先輩が後輩に制服やリボンをゆずる伝統があったんです。ハンサムな先輩はやっぱり人気が高いんですけど、私には関係ないことだと思っていたら、後輩から「リボンください」と言われて。その時に「あ、私って男役割だったんだ!」と気づきました。

清田さん:今思えば、自分は男子校のなかで女役割だったのかもしれません。ただ、それは「かわいくてモテる」といった意味ではなく、「周囲の人の感情をケアする役」といった感じです。みんなで遊びに行ったり、誰かの家に泊まりに行ったりということがよくあったけど、企画を立てたり、連絡係を担当するようなことが多かったですね。

トミヤマさん:世話好きの母親みたい(笑)。そういう男子は各クラスに一人いるの? 男子校特有の現象な気がしますが……。

清田さん:一定数いるかも。より"おかん"っぽくて、「ちゃんとゴミ捨ててください!」みたいなことを言うヤツもいました。僕の場合は母親っぽいというより"人間関係調整係"って感じ。特に高校生のときは童貞のくせに友達の恋愛相談によく乗ってて、失恋した友達に授業中まわし手紙をして励ますなど、メンタルのケアをしてました。当時から恋バナに興味があったのかもしれない(笑)。

トミヤマさん:今の仕事に繋がってるね、すごい……!

学校内と外ではON/OFFを切り替え

――女子校の教室はどんな感じでしたか

トミヤマさん:実は結構ひどいんですよ(笑)。学外だと、人に見られているという意識があるからきちんとするけど、学内だと"人に見られていない"ってことになっちゃう。スカートの下にジャージを穿いて、足を開いて座っていると、先生に「女の子なんだからやめなさい!」って叱られるとか、そういうのはしょっちゅうでした。男子校と女子校の両方で教えたことのある先生が「女子校のほうが荒れてて汚い」って言ってましたね(笑)。

――学校内で女子がそういう感覚になるのは、なぜだと思いますか

トミヤマさん: ONとOFFの差が激しいんだと思います。学校の中にいるときは気が抜けているんですが、一歩校門を出たら"女スイッチ"が入るんです。

――男子高でも、学校内外でONとOFFの違いはありますか?

清田さん:女子校みたいな極端さはないですね。ナルシストのヤツは学校の外でも教室の中でも常に髪型を気にしていたり眉毛を整えたりしていたし、ズボラなヤツは毎日アートのような寝癖をつけて登校してたし。

トミヤマさん:えー!そうなんだ!女子校の中、まるで"女湯"のようだよ。みんな油断してるというか。でも、放課後が近づくと、スカートを折って長さを短くしたり、化粧をしたり、そわそわしだすの。

清田さん:それって多分、女子にのしかかるジェンダー規範の方がキツいからだと思う……。女子は世間や社会から常に「女性らしさ」を求められていて、それを知らず知らずに内面化してしまっているような気がする。女子校における"女だらけ"の環境って、そういう規範がゆるまっている状態で、だからOFF=リラックスモードになれるってことじゃないかなあ。

トミヤマさん:確かにそうだね。だから"女湯"状態になって先生に叱られたりするんだなあ。

清田さん:別に女子が寝癖つけて外を歩こうと、大声出して笑おうと、本来なら「好きにさせてくれよ」って話だもんねえ。そういう話を聞いてると、つくづく男の方がジェンダー規範がゆるいなあって実感します。そう考えると、共学の人ってどうなんだろう。校内でもジェンダー規範が働いちゃうと思うので、OFFでいられないのではないかな……?

トミヤマさん:確かに共学の人はON/OFFの差があまりなさそうな印象あるな。ちなみに私は、女子校生なんだけどON/OFFの切り替えをしないタイプで……というかずっとOFFだった。そのせいか、学外を友達と歩いているときに、みんなが私から離れていったことがあったな。校則通りに制服着てたからダサかったんだと思う(笑)。

清田さん:そういう感じは男子校でもあったかも。特にウチの学校はわりと都心にあって、高校生の頃なんか、服を買いに行くときとかは意識的にオシャレなヤツを誘ってた(笑)。「イケてるグループだと思われたい」という下心で……。

共学出身者との違いは? 

――共学では男女双方との関わりがありますが、女子校・男子校ではそういった経験がないため、恋愛に対するハードルが高かったりするのでしょうか

清田さん:女子の目にさらされる機会がないので、特に中学生の頃は、特有の「中2病」が純粋培養されちゃって「俺はモテる」と思い込んでました……。

トミヤマさん:共学の人はやっぱり異性との関わり方を学ぶ機会が多いですよね。一方、女子校や男子校の場合はそのステップを踏まずに社会に出ることになります。私の場合、兄弟もいなかったので、男性との関わり方は大学に入るまで知りませんでした。高校時代、地元の小さな塾に通っていたんですが、個別指導だったので出会いとかないわけですよ。だから予備校に通ってる子が男友達をバンバン作ってるのを見てショックでした。「予備校にそういう"使い方"があるのか!」と思って(笑)。

清田さん:僕も高2で予備校に入り、初めて女子が隣の席にいるという状況で授業を受けたんだけど、緊張して手汗が止まらなかった。あと、「自分から変な音とかニオイは出ていないだろうか……」という妄想に取り憑かれ、まったく勉強に集中できなかった(笑)。1ミリもモテないどころか、女子のことが何もわからないわけです。そんな感じだったのに、大学では"女子が8割"という文学部のフランス語クラスに入ってしまい、真逆の環境に。そこから彼女たちの恋バナをひたすら聞き、女子の生態と思考回路を学ぶ日々が始まりました。

トミヤマさん:でも、その経験が桃山商事の仕事に活かされてるよね。私も実はダサくてモテなかった経験が今の仕事に繋がってるんですよ。自分は見た目で得するタイプじゃないし、モテとか一切関係ない仕事がしたいと思った。自分にとってそれは"書く仕事"でした。でも、ライターとして人前に出る仕事もあったりするので、見た目関係あるじゃんという話なんですが……(笑)。でも美醜にあまり左右されない仕事ではあるので、それは大変ありがたいですね。