スマートフォンが普及し、オフィスにもPC設置が標準となった現代、「JPEG」に触れたことがないという人はまずいないのではないだろうか。この媒体に掲載している写真やイラストも「JPEG」形式で保存されている。

だが、あまりにも生活に浸透しすぎていて、「JPEG」そのものについて意識する機会はあまり無かったのではないだろうか。

そこで今回は、JPEGを作った団体に所属し、画像処理の研究を行っている拓殖大学の渡邊修准教授に、「世界一身近な画像圧縮技術」と言って差し支えない地位を確立した「JPEG」について、誕生の経緯から普及の流れ、そしてこれからリリース予定の次世代規格までお話を伺った。

拓殖大学 電子システム工学科 渡邊 修 准教授


ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 1 (JPEG) メンバー。画像処理、特に画像圧縮とその応用に関する研究が専門

――JPEGは写真用途だけでなく、イラストのほうでもたくさん使われています。マンガ、イラスト風のもの。作品を保存する際にJPEGにすべきか、PNGにすべきかというFAQを散見し、基本的にはセルアニメ調ならPNG、水彩画調ならJPEGと判断されているようなのですが、技術的に見てどうなのでしょうか?

はい、その使い分けで技術的にもほぼ問題ないと思います。

――使用されている色の数などが関係するのでしょうか?

色の数ではないです。ざっくり言えば、JPEGはどんな大きなものでも8画素×8画素という小さなブロックに分割して、それごとに圧縮のプロセスが進んでいきます。その時に、そのままじゃなくて、ある変換をかけます。

簡単に言えば、8×8画素にしたって、いろいろな模様が写っているじゃないですか。でもこの8×8=64個のパターンですべてをあらわそうとするんです。もちろん、本当は表せないんですよ。JPEGが前提としている画像は,自然画像といって,変換後の8x8画素の左上の方に値が集まって、右下ほうに小さな値が集まる画像です。小さい値は0にしてしまって、圧縮率を稼ぎます。

セルアニメ調の絵は、この前提から外れているんです。細くシャープな線が多いので、右下のほうにも必要な情報が多いんです。特に輪郭線は肌色からいきなり黒に変わりますし、そういうところの処理は苦手です。こういう部分を綺麗に残そうとすると,どうしても圧縮率が落ちます.

――確かに、そういったイラストをJPEGで圧縮すると、場合によって輪郭線がぼやけて見えるようなときがあるようです。

黒の輪郭線と肌色の塗りという部分が多くなるので、目標とする圧縮率にもよりますが、それによってパターンが適合せず、ぼやぼやとしたラインになってしまう、モスキートノイズが現れます。くっきりとした肌色の部分に黒いノイズが乗るので余計に汚く見えてしまうんです。

逆に、水彩画みたいな塗り方のものでは、JPEGが前提としている自然画像と近いので、そこまでノイズが気になることはありません。写真に近い色使いのものは再現度が高くなります。

最近のイラストは色数も多く、輪郭線も淡い傾向があるのでJPEGでも圧縮しやすくなっていますが、それでも輪郭線と塗りの境界は苦手だと感じます。なので、イラストの場合はPNGのほうが圧縮形式として適していることが多いかと思います。

なぜJPEGが写真、すなわち「自然画像」だと効率よく圧縮できるかと言うと,人間の視覚特性を考慮しているからです。

例えば、ある日会社の同僚がすごく細かいチェック柄のシャツを着てきたとして、翌日にそのチェックが白と黒の位置が入れ替わったものを着てきたとしたら、昨日と同じ服を着てきたと思いますよね?

――確かに、見分けられないと思います。

その一方で、ある日白いシャツを着てきた人が、翌日に黒いシャツを着てきたとしたら、それははっきり見分けられるじゃないですか。それは何かというと、人間の目は細かい模様の変化をあまり気にしないようにできているんです。

それを使って、JPEGは細かい模様のような部分は省略してデータを小さくします。ですが、先ほど申し上げた通りいわゆるアニメ風の塗り方の絵は細い線が大切で、JPEGのモスキートノイズが発生するとかなり気になってしまいます。

――それにも関わらず、イラストの保存にJPEGを使っている人は多いようです。

とはいえ、先ほど申し上げたようなノイズは高い圧縮率をかけないようにすれば、そこまで画像が荒れることは起きないはずです。JPEGのいいところは、圧縮効率がほどほどによく、誰でも見られるところですので、広く使われているのではないでしょうか。

次回は、Googleが開発しているWeb用画像フォーマット「WebP」についてJPEG策定にかかわる渡邊教授からみた考察を語っていただきます。