今回は人事の大切な仕事の一つである「社会保険」について解説します。安心して働くことのできる環境づくりのために、制度の基礎をしっかりと頭に入れておきましょう。

生活を守る仕組み

「社会保険」という言葉にはいくつかの意味がありますが、もっとも広義の場合は社会保障制度のことを指します。病気やケガ、労働災害、障害、失業、高齢化、介護といった幅広い暮らしのリスクに備えた保険で、実際に困った事態が起きたときには、現金または現物支給で保障が受けられるようになっています。社会保険は一定の基準を満たした会社や個人が、必ず入らなければいけない義務が発生する保険であり、国や地方公共団体といった公の機関が管理・運営しています。

会社員の場合、大きく分けて「健康保険」「厚生年金」「雇用保険」「労働者災害補償保険(労災保険)」に加入する必要があります(正社員でない場合は、労働日数・時間によって加入条件が異なるので注意が必要)。

狭い意味での「社会保険」は、「健康保険」と「厚生年金」のことを言います。ちなみに「雇用保険」と「労災保険」は「労働保険」と呼ばれています。

リスクに応じた保険制度

会社員が加入する「健康保険」「厚生年金」「雇用保険」「労災保険」のそれぞれについて見ていきましょう。

「健康保険」は、私たちが最も利用しているであろう保険制度です。病気やケガの治療を病院で受けたとき保険証を出しますが、これは、健康保険の加入者であることを示しているのです。健康保険が適用されると医療費の自己負担額が3割になります。保険の適用範囲は社員一人だけでなく、その家族にもおよびます。

「厚生年金」は、民間企業に勤めている労働者が加入する公的な年金制度です。原則として25年以上加入し、満60歳などの条件を満たした場合に受給資格が得られます。65歳以降に支払われる老齢年金や、障害者に対して支給される障害年金、公的年金加入者が死亡した場合に遺族に支払われる遺族年金などの種類があり、これらをまとめて厚生年金と呼びます。

「雇用保険」は、労働者の生活および雇用の安定を図るために、失業給付を行ったり、雇用安定事業や能力開発事業を行うことを目的としています。なんらかの理由で失業状態となった場合に、一定期間、所定の給付金を得られる制度であり、失業保険とも呼ばれています。

「労災保険」は、就業中または通勤中に起きた災害によって負傷したり、病気になったり、障害が残ったり、あるいは死亡した場合に保険給付を行う制度で、社会復帰の促進および遺族の援護を目的としています。労働者を一人でも雇っている事業主は、必ず労災保険に加入しなければなりません。

社会保険の管理業務

人事担当者は、従業員の入社時あるいは退職時に、こうした保険制度の資格取得や資格喪失の申請手続きをする必要があります。労働保険(雇用保険と労災保険)は管轄の公共職業安定所に、社会保険(健康保険と厚生年金)は社会保険事務所または健康保険組合に届け出をします。また、健康保険証の発行や離職票の手配、扶養家族の増減申請なども、関連手続きの中に含まれます。

また、保険料を納付する業務も忘れてはなりません。労災保険は事業主が全額負担、社会保険と雇用保険は事業主と社員がそれぞれ負担します。社員負担分は給与天引きで事業主が徴収し、まとめて支払います。

労働保険の運営は国が一元管理しており、保険料額はそれぞれの保険料率により定められています。保険料率は事業の種類によって決められており、たびたび改定されます。労働保険は年度当初に概算で申告・納付し、翌年度に確定申告した上で清算することになっており、事業主が雇用保険分と労災保険分を一緒に納付します。

社会保険の運営は国だけでなく、健康保険組合や厚生年金基金を設立した企業や業界団体が行っています。社会保険料はそれぞれの団体の保険料率により決められた額になり、保険料は月単位で事業主が納付します。

いずれの業務も、複数の書類や細かい数字を扱う事務作業が中心となります。ミスの無いように注意してあたりましょう。