従来の終身雇用制度では、就業年数に比例して役職がアップしていきましたが、実力成果主義の現代では思うように出世することが難しいといわれています。そのため、がんばってはいるものの役職が変わらないということは珍しくありません。出世するには、どうがんばればいいのでしょうか。

会社員時代に出世を経験し、人材教育のセミナーなどを行う齊藤正明氏と常見陽平氏に、「出世する人」と「いい人で終わる人」の違いをテーマに語っていただきました。

2段階上の職位の視点で考える

『「自己啓発」を私は啓発しない』著者の齊藤正明氏

――出世する人といい人で終わる人の特徴を教えてください。

常見氏「いい人で終わるのは、いわれたことしかやらない人や、実績を出せない人。出世するには、自分で仕事を作ることができ、実績を残すことが求められます。

実際に、部長になれる人は課長になった時点でわかるんですよ。それは、2段階上の視点で見ることができるからです」

齊藤氏「これはマグロ漁船でも同様ですね。船の上では、自分が船長だったらどう行動するか、つねに考えています。なぜなら、船長がいなくなったからといってそこにとどまることはできないから。たとえば船長が死んでしまっても、船を動かさなくてはなりません。そのため、船員たちの危機管理能力は高いですね」

――実績さえあれば、出世することは可能でしょうか?

常見氏「残念ながら、能力や実績だけでは出世できないことも多いです。自分を引き上げてくれる人の有無も重要。たとえば、どんなに演奏力の高いバンドでも、自分たちを応援してくれる人や支援してくれるレーベルがいなければ、売れっ子にはなれないのと同じですね」

――齊藤さんは会社員時代、出世が早かったそうですが、何か工夫されたことはありますか?

齊藤氏「出世するには成果を出さなくてはなりません。幸いにもぼくは実績を出せたので出世することができましたが、無茶な上司のプレッシャーがハンパなかったこともありますね。またマグロ漁船に乗せられるのは嫌ですから(笑)」

常見氏「何回も乗せられたらたまりませんね(笑) 成果や評価は出世に欠かせない要素ですが、管理職になるには『評判』も重要。結果だけを考えるのではなく、プロセスも大事にしていきたいですね。そのためにも、周りの人に感謝の気持ちを表現することはいいと思います。

ぼくはバレンタインデーなんかどうでもいいと思っているのですが(笑)、ホワイトデーは有効に利用していますよ。こういうイベントがあると、さりげなく感謝の気持ちを伝えやすいんですよね」

出世とは自分のためだけのものではない

人材コンサルタントの常見陽平氏

――最近の若手世代は、出世に消極的だといわれています。給料アップや名声以外に、出世することで得られるメリットはありますか?

齊藤氏「仕事において、『できること』が増えることですね。たとえば、ドラクエなら最初は使える武器や呪文が少なく、スライム程度の敵としか戦えません。でも、レベルアップとともに使える呪文が増えて、戦い方のバリエーションが増えますよね。仕事も同じことで、出世すればいろんなことに挑戦することができるのです」

常見氏「出世すると、視界が違いますよね。ぼくは出世するのは後輩のためだとも思っています。とくに女性は先輩が出世するのを見れば、自分もそうなれるかもしれないと希望を抱くことができますから、チャンスがあるならぜひ出世を目指してほしいです。

また、若手が出世すると会社も盛り上がります。最年少役員が誕生すると、会社が若返ることがあるほど。ですから、出世とは自分のためだけではなく、周りの人や社会のためと考えてほしいです」

齊藤氏「出世するといろんなことができるようになるので、人に喜ばれる機会が増えるのもメリットですよね。また、簡単なことしかできないと、仕事もおもしろくありませんから、出世は自分のためにも必要なことだと思います。ゲームだって、スライムとしか戦えなかったらつまらないですから」

小さなことからコツコツと

――出世するためには、どうしたらいいでしょうか?

齊藤氏「目の前の仕事をしっかりこなすことが、じつは近道なのかもしれません。いまはたとえ、会社で飼っている魚のエサやりなどの雑用しか与えられなかったとしても、それをしっかりこなすことが大事。

エサのやり方を工夫したり、エサそのものを見直したりして、上司に言われたことに対し、100%以上の成果を出すことを目指します。そうすれば信頼度が増しますし、必ず次のステップに進めるようになりますから」

常見氏「与えられたことに対し、少しでもいいから成果を上乗せできるといいですよね。やり方を変えてみたり、新しいトライができるか考えてみたり。目の前の課題から仕事を創造できるといいと思います」

齊藤氏「出世するには、自分からのし上がるというイメージを抱く方もいるかもしれませんが、地道にコツコツやることに尽きると思います。山を下から築くようなイメージですね。どんなことでもコツコツとこなしていけば、『こいつ、便利だな』と思われて引き上げてもらいやすくなります」

常見氏「とはいえ、出世するためには仕事や作業ができることが前提ではありますよね。野球でいうなら素振りをしっかりやるように、若手のうちは仕事に対する基礎体力をしっかりつけてほしいです」

<プロフィール>
齊藤正明氏(左)
1976年生まれ。人材コンサルタント・研修講師。大学卒業後、バイオ系企業の研究所に就職。業務命令によりマグロ船に乗船することに。マグロ船という閉ざされた空間に適したコミュニケーション術や仕事観に感銘を受ける。その後、マグロ船流コミュニケーションを人材育成に取り入れた研修を行うネクストスタンダードを設立。講演業界で最高峰と言われる年200回以上の講演をこなし、全国を飛び回る日々。著書に『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』(マイナビ新書)ほか多数。http://www.nextstandard.jp/
常見陽平氏(右)
人材コンサルタント、著述家、実践女子大学・武蔵野美術大学非常勤講師。1974年宮城県仙台市生まれ。北海道札幌市出身。北海道立札幌南高等学校卒業後、一橋大学社会学部に入学。執筆・講演の専門分野は就活、転職、キャリア論、若手人材の育成、若者論、サラリーマン論、社畜論、ノマドワーク、仕事術など。就活、キャリアに関する著書多数。最新作は『「すり減らない」働き方』(青春新書INTELLIGENCE)。http://www.yo-hey.com/

『「自己啓発」は私を啓発しない』
マイナビ新書から4月23日発売。齊藤正明 著。新書判216ページで定価872円。
【内容紹介】上司との人間関係に悩み、すがるように購入してしまった150万円の教材、そこから始まった自己啓発セミナーに通う日々……。 気がつけば数年間でセミナーや教材に600万円以上のお金を使い、上司以外との人間関係もおかしくなってしまい……。
自己啓発にハマった笑いあり涙ありの日々から齊藤氏が気づいたことを語る、「自己啓発」との付き合い方がわかる本。