【コラム】
前回予告したとおり、今回は『IP電話』を取り上げる。前回は企業向けのVoIPがどのようにして通信コスト削減に寄与するかを説明したわけだが、それを個人向けのVoIP=IP電話として普及させるためには何が問題なのか、今回はその点を中心に説明を行っていきたい。
■問題1:VoIPゲートウェイの置き場所
もちろんIP電話と言うからには、送信側で音声をIPパケットに変換し、また受信側でそれを音声に戻すという基本的な技術は企業向けのVoIPとなんら変わらない。ただ個人向けでは、その相互変換を行うための装置である「VoIPゲートウェイ」をどこに設置するかが問題になる。技術的には普通のPCでもVoIPゲートウェイの機能は実現できるし、また専用ルータを使う手もあるが、どちらにせよ現時点ではまだ完全なメンテナンスフリーというわけにはいかないため、今のところ一般家庭に広く普及させるには難がある。それに前回も書いたが、これまでダイヤルアップ環境が一般的だった日本では、わざわざ家にVoIPゲートウェイを設置して通話するぐらいなら普通に電話した方が早いし安い、という状況もあった。
そのため現在『IP電話』と呼ばれているものの主流は、電話局の局内にVoIPゲートウェイを設置し、ユーザーは通常通り電話機からダイヤルするだけ、というタイプのものになっている。国際電話の世界では97年頃から当時のAT&T Jens(現JENS)やKDDコミュニケーションズ(現KCOM)などが同種のサービスを行っている。また国内通話に関しては今年4月にサービスを開始したフュージョン・コミュニケーションズが先鞭をつける格好となったし、最近はぷららなども同種のサービスをスタートさせている。
もちろん、家庭内にVoIPゲートウェイを置くタイプのサービスもないわけではない。dialpadやただTelなど、サウンド機能を内蔵したPCにマイクとヘッドホンをつないで通話するタイプのものはこのコーナーの読者にもご存知の方も多いだろうが、専用電話機型にも千代田産業の「気にしナイス」などが登場しており、開発は確実に進んでいる。
■問題2:アクセスチャージ
ただ、電話局内にVoIPゲートウェイを置こうが、家庭内に置こうが、通話する相手が個人の電話の場合、一般の加入電話や携帯電話などがほとんど。そうなると今のところどうしても避けて通れないのが、NTT東日本/西日本に支払うアクセスチャージ(事業者間接続料金)だ。アクセスチャージというと、よく新聞報道では「3分何円」と書かれていることが多いため、実際の計算方法もそうなっていると思っている方が多いようだ。しかし実際には「1通信につきいくら+通話時間1秒につきいくら」という計算方法になっており、その計算は実際に某通信会社にいた筆者から見てもかなりややこしい。そこで実例を挙げて説明しよう。
例えば一般家庭から最寄りの電話局までの間の線(加入者線)を借りるために電話局の加入者交換機に接続した場合を考えると、NTT東日本の接続約款によるとアクセスチャージは「1通信あたり0.35761円+1秒ごとに0.023033円」となっており、単純に3分間通話したとすると、それだけで0.023033×180+0.35761=4.50355円の費用が発生することになる。
しかも、これはあくまで加入者線の片方だけを借りる場合の話。電話局にVoIPゲートウェイを置くタイプの場合は発信側・受信側双方に対してアクセスチャージが発生するため、NTTに支払う料金はそれだけで単純に倍となるし、実際にサービスを提供するためには電話局の交換機に接続するための工事費なども発生するから、それらの費用を支払うことを考えるとおのずと料金の下限も決まらざるを得ない。というわけで現状を考えると、電話局にVoIPゲートウェイを置いた場合の料金は、フュージョン・コミュニケーションズの「3分20円」あたりが限界になってしまうのだ。
■問題3:電話番号
IP電話が本格的に既存の電話に取って代わるにはもう一つ問題がある。それは「電話番号」の問題だ。
一般に電話番号に関しては総務省(旧郵政省)が番号指定の権限を持っており、今もNTTを始め多くの事業者が指定を受けているが、実はIP電話に対する番号指定についてはようやく総務省内でも検討が始まった段階で、まだIP電話にどのように電話番号を割り振るかは決まっていないのだ。従って家庭内にVoIPゲートウェイを置く場合は、今のところそのIP電話は電話番号を持つことができないため、必然的に「一般の電話からの着信が受けられない」ことになってしまう(なお電話局にVoIPゲートウェイを置く場合は、既に電話番号を持っている既存の電話から発着信するので問題はない)。
一般家庭向けにIP電話を普及させるためには、費用はもちろんのこと、機能的にも既存の電話網に見劣りしないサービスを提供できることが最低条件なのに、「着信ができない」というのでは一般ユーザーは使ってくれない。ただこの点について総務省やNTTなどは、既存の電話網が全てIP電話に移行した場合のことを想定して「IP電話へ電話番号を割り当てるためにはIPv6が普及することが前提」という姿勢を取っているため、IPv6がまだ普及していない現状ではしばらくこの状況が続くだろう。
結局まとめると、IP電話が個人向けになかなか普及しない背景には「既存の電話網との相互接続性」をいかに確保するか、という問題があると言えるだろう。新しい技術が登場する際にはある意味避けられない問題ともいえるが、IP電話にさらなるコスト削減を期待するユーザーは多いだけに、電話会社や総務省などの関係者にはより一層の努力を期待したい。
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