IoTとビッグデータを活用する

時流に即したセッションとして、今回はハイライトセッションが3つ設けられたが、その1つ目が「IoTとビッグデータの活用」である。ここでは、最初に工場全体の装置や作業員などのリソース配分についてビッグデータを用いたバックプロパゲーション・ニューラルネット(BPNN)よるマシン・ラーニングの成果を台湾の清華大学およびその卒業生によるベンチャーが共同で報告した。リソース配分に関する論文は以前からあったが、今回はビッグデータとBPNNを用いて精度向上を実現した事例の紹介である。台湾では、従来より産官学あげて、ファウンドリのビジネスモデルや工場運営を最適化するための研究が行われている。

次に、実際の半導体チップ製造における歩留まり向上を目的とした講演として、膨大なデータ量の故障マップの解析についてディープラーニングを用いて高速に処理する技術が東芝から紹介された。ディープラーニングは人工知能(AI)分野で注目されている技術であり、今後の半導体製造でも活用が進む重要な技術となるであろう。このほか、東京エレクロン(TEL)からは、モーションセンサを用いた装置メンテナンスの工学的なアプローチについての講演がなされた。これは他産業で注目されているヘッドマウントディスプレイを用いたものづくりの半導体製造版ということで注目された。

このように今後、画像や音声、さらには技術文書などのデータ活用が半導体製造においてもますます進んでくると思われるが、それらは非構造化データといわれるものであり、装置データや歩留まりデータなどの構造化データに比べるとデータ量が多いという特徴がある。パナソニックからは、そのような非構造化データを扱うことを念頭に置いた分散型システムについての講演があった。また、オランダASMLからは露光装置のビッグデータ活用について、歴史的な経緯とその事例紹介があった。加えて、技術文書データ解析に関わる講演も2件行われた。1つはパナソニックによるもので、技術文書を活用してFDC(Failure Detection and Classification)やAPC(Advanced Process Control)の精度向上を目指した講演。もう1つは東芝からで、膨大な技術文書から技術者にとって有益な知見(例えば、ある新しい半導体物質のキャリア移動度やバンドギャップ値)を迅速に抽出することを目的にした検索システムの紹介であった。

ISSM 2016の会場風景 (提供:ISSM)

高信頼性のデバイスプロセスを確立する

2つ目のハイライトセッションは、車載や医用の高信頼性デバイスプロセスがテーマだったが、ここでは、ルネサスセミコンダクタマニュファクチャリングが、グループ企業、日本大学、首都大学東京と共同で、デザインの複雑さを考慮したテストカバレッジ向上技術について発表し、最優秀論文賞を受賞した。 ジャパンセミコンダクタは、パッケージレベルテスト(バーンイン時)における不良検出の新たな手法について発表した。今後の高電圧大電流アプリへの信頼性向上としては、早稲田大学から、Niナノパーティクルによる実装時の熱抵抗向上について、台湾のアジア大学からは、LDMOS(横方向拡散パワーMOS)特性向上についての発表が行われた。

レガシーファブを活用する

3つ目のハイライトセッションである「レガシー(200mm以下)ファブの活用セッション」では、オーストリアamsや米GLOBALFOUNDRIES(GF)のシンガポール子会社が200mmレガシーウェハファブの有効活用について、体験に基づく形の講演が行われたほか、独Fabmaticsもレガシーファブの自動化事例の紹介を行った。SEMIによると200mm以下のファブの生産能力が世界で一番大きいはずの肝心の日本からは、200mmファブ活用に関する話は聞けなかったのは残念である。ちなみに、このセッションの後半では、荏原製作所やフジミからCMPプロセス・材料最適化に関する報告も行われた。

製造管理分野

製造管理分野では、台湾Winbond Electronicsより制約理論と発見的問題解決法を用いた「QBD(Q-time Bottleneck Dispatching)」が紹介された。QBDはRTD(Real Time Dispatching)に採用され、前処理からの制限時間超過であるQ-time警告回数を月平均で31%減少させるとともに、Q-timeに関連する工程のサイクルタイムを23.4%改善、WIP(Work In Progress:仕掛品)も41%削減させたという。また、筑波大学から、多品種受注生産において共用される複数種の治具と製造設備の最適割付方式についての発表が行われたほか、受注・見込混合の多品種生産においてリソース・時間の2軸連動で最適化する生産負荷計画についての提案も行われ、量産工場での効果事例が示された。

超クリーン化分野

超クリーン化セッションでは、東芝がNANDメモリのデータ書き込みパターンを工夫することで、メモリデバイス内における可動イオンの拡散挙動をToF-SIMSを用いて3Dマッピングとして可視化することに成功したことが発表された。また、栗田工業は、純水中でのシリコン基板へのパーティクル付着メカニズムを考察し、炭酸水中ではパーティクルが付着しやすいことを報告したほか、TELは、シリコンウェハの乾燥に必須のイソプロピルアルコール(IPA)中の金属汚染の測定に関する発表を行い、FeがPFAボトルの内壁に付着しやすいことを明らかにした。また、日本ポールは、フィルターを用いたIPA液中のパーティクル除去についての報告を行った。

プロセス最適化

プロセス最適化セッションでは、ドライエッチング装置内壁に使われている耐プラズマ性にすぐれたY2O3膜からのパーティクル対策について東芝が発表したほか、TOTOからはエアロゾル堆積法で形成したY2O3膜のプラズマによる腐食に関する報告が行われた。また、ルネサスは、CMP装置でモーター電流をモニタすることにより、リアルタイムで欠陥を検出する手法を報告したほか、GFのシンガポール子会社からは、高耐圧トランジスタのリン汚染によるしきい値電圧変動が、ウェハ裏面からのリン汚染であることをつきとめ、適切な洗浄で解決した話が紹介された。なお、同社は、poly-Si粒径およびリンドーパント分布の最適化によるEEPROMデータ保持期間の改善についても報告を行っている。