業務時間のほとんどを社外で過ごす営業担当者にとって、社内LANに接続された自席のPCに戻るまでメール確認や事務処理、資料確認ができないのは大きな制約だ。日中の外回りを終え、会社に戻って1日分のメール処理やスケジュール調整、日報など事務作業を開始するのでは、今の時代の業務スピードに追いつけなくなりつつある。手持ちの資料がなく社内に戻って確認せざるを得ないため、顧客へ「後で折り返し連絡します」と回答することで商機を逃すリスクもある。

社外からも社内情報にアクセスしたい

不動産の売買や仲介を行う株式会社オープンハウス(東京・丸の内)では、営業担当者の業務連絡用にフィーチャーフォンを配付していた。しかしここ最近、現場の営業担当者から外でメールが見たい、資料をPDFで確認したいと要望が出ていたという。

同社は、2013年9月に東証一部に上場後、右肩上がりの成長を続けている。事業の拡大に伴い、業務システムの整備が必要な段階にきていたと語るのは、iPhone導入を主導した情報システム部の鈴木貴臣氏だ。

株式会社オープンハウス 管理本部 情報システム部 クラウド推進グループ 課長 鈴木貴臣氏

「会社のメールアドレスに受信したメールはフィーチャーフォンのMMSに転送して、出先でメールの確認をしていましたが、返信はできませんでした。MMSからの返信は、携帯電話のメールアドレスでお客様へ通知されてしまいます。さらに、そのMMSメールのアドレスへお客様が返信すると、容量制限を超えた場合は『ソフトバンクのメールに送れませんでした』とエラーメールが届いてしまいます」(鈴木氏)

オープンハウスグループの営業業務は、本社に勤務し土地の仕入れを担当するオープンハウス・ディベロップメントの営業部と、各拠点で不動産仲介を担当するオープンハウスの営業部に分かれる。仕入れ部隊は、物件探しや業者周りで終日外出していることが多く、必要な図面はかばんに詰めこんで持ち歩いていたが、すべての図面は持ち運べない。業者とやり取りする際に必要な図面がなければ、折り返し確認となり業務が停滞してしまう。また、仲介部隊も、顧客の内覧中に見せたい図面を持ち合わせていなければ、その場での対応ができない。

株式会社オープンハウス 管理本部 情報システム部 クラウド推進グループ 係長 土屋俊輔氏

Google Appsで外出先からも情報共有

業務の効率化を検討した同社は、外出先からグループウェアを利用できるようiPhoneを導入した。

「上層部からの指示もあり、2014年の11月末に導入の検討を始め、2015年の3月上旬には約750台を配付しました」と語るのは、情報システム部の土屋俊輔氏だ。

iPhone導入後の操作研修は入社2年目、情報システム部の山本哲平氏が担当した。平均年齢28歳。若くして役職者になることも普通だという同社では、若手にもどんどん仕事を任せる。

株式会社オープンハウス 管理本部 情報システム部 クラウド推進グループ 山本哲平氏

「700人の社員に1カ月で研修しました。本社のセミナールームに集まってもらい、1日多いときには3講座ほど。指紋登録などもその場で教えました。最初は、文字入力に戸惑う社員もいますが、iPhoneのすごいところは、1度研修したらなんとなく使えるところですね。研修後、現場の社員もみんな喜んで使ってくれています」(山本氏)

メールシステムは、クラウドサービス「Google Apps for Work」へ移行し、カレンダー機能と連絡帳機能は、「rakumo」のサービスを採用した。Google Apps for Workにもカレンダーや連絡帳機能が備わっているが、あえて別々のサービスを併用したという。

「既存のグループウェアは『サイボウズ』を利用していたため、カレンダーや連絡帳機能は、使い勝手が似ている『rakumo』のほうが現場社員には利用しやすいと判断しました。スピード導入したからには、すぐに現場で使ってもらえるツールにしたかったので、Googleカレンダーは、現場に馴染まない懸念がありました」(土屋氏)

株式会社オープンハウス 管理本部 情報システム部 クラウド推進グループ 会見春香氏

図面のPDFは、Googleドライブを使って共有・閲覧している。物件写真はiPhoneで撮って、そのままGoogleドライブで共有する。Googleドライブに格納しておけば、外出先からでも閲覧できる。

さらに社内の連絡方法にも変化があったと情報システム部の会見春香氏はいう。

「簡単な社内連絡は、Google+のハングアウトを使うようになりました。ハングアウトの利点は、メールや電話と違ってコミュニケーションが取りやすいことです。打ち合わせに入っていても、ちょっと相談して返信をもらうことができます。物事を決めるスピードが速くなりましたね」(会見氏)

akumoカレンダーで隙間時間を有効活用

人事採用の現場でも効果がでていると語るのは人材開発部の東迎訓史氏だ。同社の採用方針は、エントリーしたすべての学生と面接することだという。年間1万人程度の学生との面談を6人のチームで担当しているので、採用時期は分刻みのスケジュールで採用説明会や面接をこなしている。

株式会社オープンハウス 企画本部 人材開発部 課長 東迎訓史氏

「書類選考だけでなく、まずはその人に直接会って誠実さとやる気を見たいので、どんなに時間がなくても全員に面接します。その中でiPhoneは非常に役立っています。iPhoneからrakumoカレンダーにアクセスできるようになって、面接のスライス時間でスケジュールの空き状況を確認したり、調整できるようになりました」(東迎氏)

以前は、社内LANに接続された自席のPCに戻るまでスケジュールの確認ができなかったので、説明会や面接の合間に学生と電話でやりとりした内容はすべて折り返し対応となっていた。

「その場で次の面談を予約できていれば会えたのに、間をあけたことによって連絡が取れなくなってしまったこともたびたびありました」(東迎氏)

面接の進捗管理もスプレッドシートを利用して、メンバー全員で情報共有できるようにした。

株式会社オープンハウス 企画本部 人材開発部 主任 新井資生氏

同じく人材開発部の新井資生氏は、合同説明会の資料もGoogleドライブに格納してiPhoneで持ち運んで効率化を図っているという。

「iPhoneをプロジェクタにつないで説明会の資料を投影しています。以前は重たい紙資料を持ち運んで説明会を実施していましたが、今は資料を持ち運ばなくてよいので移動が楽になりました」(新井氏)

サブタイトル:ポータルサイトで店舗へ情報展開

Googleサイト を利用したポータルサイトも開設した。このポータルサイトを窓口にして、Gmail、rakumoカレンダー、Googleドライブ、rakumoコンタクト(連絡先)、電子承認画面へアクセスできる。

「『AgileWorks』というワークフローシステムをGoogle Appsと連携させて、Googleサイトからログインできるようにしました。電子承認や、経費精算案件が発生すると、承認者にメールで通知が送付され、『未承認〇件です』と教えてくれるので承認作業を見逃しにくくなります」(鈴木氏)

ポータルサイトの画面。この画面から業務に必要な社内システムにアクセスできるようにした

今後について、鈴木氏は「物件情報をマッピングして、訪問履歴や情報共有できるSFAの機能も準備を進めています」と話す。要である物件情報をGoogleマップと連動させて、より一層の業務効率アップを目指す予定だ。