「メガネはファッションアイテム」と提案する「Zoff」は、デザイン性と低価格の追求で顧客ニーズをつかみ全国に約160店舗を展開する。そのフランチャイザーであるインターメスティックは、従来型のPOSレジ・システムからiPadを利用するクラウド型のPOSレジ・システムへの移行を進めている。店舗のレジ周りをすっきりスマートに見せるだけにとどまらず、システムのトータルコストを約2分の1に圧縮できたという。

その概要は以下の動画のようなものだ。


Zoff Park 原宿店

iPadのタッチ画面を利用してスムーズに会計

「Zoff Park 原宿店」は、JR原宿駅前に立地する同社のフラッグシップ店だ。ファッション感度の高い客層がデザインのよいフレームを求めて来店する。外国人旅行者も多く、こちらは機能性やかけ心地といった実用性を重視するという。同店の店長、鈴木綾氏はiPadを利用するPOSレジ・システムの導入による変化を次のように語る。

Zoff Park 原宿店 店長 鈴木綾氏

「従来のPOSレジ機はかなりのスペースを占めクレジットカードリーダーやバーコードリーダーなどもあって雑然としていましたが、iPadに切り替えてレジの周辺にスペースの余裕ができてすっきりとした印象になりました。品目や金額などはiPod touchに表示されるのですが、それを見て驚かれるお客様も少なくありません」(鈴木氏)

レジ機能はiPadアプリとして提供されるため、レジ周りはすっきりする(左)。客に向けて設置されたiPod touchに合計金額などを表示する(右)。両者はBluetoothで通信するため配線は不要だ。

iPadやiPod touchを使って洗練した店舗空間を演出することは、メガネのファッション性を重視する同社にとって重要な施策だ。そこで同社が導入したのはソフトバンクがソリューションとして提供する「クラウドPOS」だ。iPadに専用のPOSアプリをインストールし、レシートプリンタやキャッシュドロア、表示用のiPod touchなどを組み合わせて利用する。店舗から入力された売上データはクラウド上に用意されたPOSサーバに集約され、さらに同社の基幹システムへと送信される。

「以前のレジではレンズの品番を一覧表から探して手入力していましたが、クラウドPOSになってからはiPadの画面にレンズ品番の一覧表が表示され、そこから選ぶだけでよくなり、お客様をお待たせする時間を短縮できました。打ち間違えもなくなり、レジ作業に手間は減りました」と語る鈴木氏。2014年12月のクラウドPOSへの切り替え前には店舗スタッフを集めて操作トレーニングを実施したというが、「操作自体は以前のPOSレジ機とそれほど変わらなかったので、予想以上にすんなりと切り替えができました」と振り返る。

クラウド型のPOSレジ・システムでコストは約1/2に

同社がクラウド型のPOSレジ・システム導入を検討したきっかけは、既存システムが導入から10年ほど経て、機能的な不足が顕在化したからだという。

人事総務部 情報システムグループ マネジャー ダイレクトマーケティング事業部 マネジャー 得田雅史氏

「例えばお客様の属性を入力する機能では、年齢層をより細かく入力したくても既存のレジ機ではボタンという物理的な制約があって思うようにカスタマイズできません。従来型のPOSレジ・システムはハードウェア中心に設計されているのでカスタマイズの自由度が低く、独自の仕様を盛り込もうとすると開発費がかさんでしまいます」と語るのは、POSレジ・システムの更新を担当した情報システムグループ マネジャーの得田 雅史氏だ。

同社の店舗は百貨店やショッピングモールといった商業施設にも多く出店している。近年の商業施設では独自の会員カードを発行して精算時にポイントを付与するといったサービスを展開することが多く、出店する側の店舗はこうした独自サービスに対応するPOSレジ・システムのカスタマイズが避けて通れない。ここにタブレット端末を利用したPOSレジ・システムのアドバンテージが生まれるという。

「クラウドPOSはアプリケーションのみで機能のカスタマイズが可能になります。ボタンの数にも物理的な制約はなくなりますし、ページ遷移を利用して多くの情報を盛り込むことも容易です。従来型のPOSレジ・システムに比べてカスタマイズに要する開発コストを圧縮できることに加え、iPadを利用するクラウドPOSの端末価格は魅力的でした。初期投資およびランニングコストのトータルで約1/2にコストを削減できました」(得田氏)

クラウドを利用したリアルタイムの売上レポート

コスト削減に貢献しているのは端末側だけではない。以前のPOSレジ・システムでは自社内に専用のPOSサーバを用意して運用していたという。日々の運用管理に加え、およそ5年ごとに発生するサーバ更新は情報システム部門の業務負荷となっていた。クラウドPOSではソフトバンクのデータセンター内に用意されたPOSサーバをサービスとして利用するため、自社でPOSサーバを運用管理する必要はなくなった。このPOSサーバは、店舗別・時間帯別・客層別・商品別といった断面での売上実績をリアルタイムでレポートするWebアプリケーションも提供している。

「以前のPOSレジ・システムは各店舗の売上データを1日1回のバッチ処理で本社に送信するにとどまっていました。店長やエリアマネージャは前日の売上データを基に販売施策の評価や変更を行っていました。クラウドPOS導入後はインターネット経由でリアルタイムに全国の店舗のさまざまなカットの売上データを参照できるようになっています」(得田氏)

全店舗の売上データはWebアプリを使ってリアルタイムに参照可能だ

店舗の売上に責任を負う店長にもリアルタイムデータは好評だ。

「バックヤードのパソコンを開けば、常に自店舗の売上データを確認できます。日々の売上目標に対する進捗を確認するほか、注力商品が狙っている客層にヒットしているかといった分析もリアルタイムに行えるようになりました」(鈴木氏)

顧客サービスの向上には肌感覚だけでなく客観的なデータも必要と語る鈴木店長

タブレット端末が登場した当初のレジ・アプリは個人商店用の売上管理に限定したものだったが、現在では多店舗で売上データやマスターデータを管理でき、本社の基幹システムとの連携も可能なソリューションも増えてきた。今後、タブレット端末を利用するPOSレジ・システムが普及すると、店舗の業務スタイルも変化していく。同社は、iPad導入によるPOSレジまわりの改革をきっかけに、より広範囲な領域でiPadやクラウドシステムを活用した業務改革を進める予定だという。こうした店舗改革に継続して取り組むことで、同社は海外でも通用するビジネスモデルの構築を目指している。