少子化が深刻な社会問題として顕在化している昨今、特に産婦人科や小児科の病院においては、来院・入院される患者は年々減少傾向にある。そのため、各病院では独自の医療サービを模索している。

吉祥寺の水口病院は「すべてはゲストと家族の笑顔のために」というミッションを掲げ、一般的な病院とは一線を画す試みを行っている。また、同院が掲げている『3つのお約束』には、(1)良質・適切な医療 、(2)心のこもったケア(ホスピタリティ)、 (3)アメニティの充実がある。

そのため、同院を訪れる患者や産前産後を過ごす女性に対して単なる医療サービスだけではなく、応接・ケアなどのホスピタリティや内装を含めたアメニティの充実に日々努めている。

たとえば、診察の呼出時に受付からマイクで名前を呼び出すという病院でよく見られるシチュエーションにおいても、同院はアメニティの充実や空間演出の観点から相応しくないと考えた。そこで、導入を決めたのがiPadを利用しての診察時の呼出であった。

長時間の待合解消のためiPad導入を検討

同院では産科だけではなく小児科も備えている。そのため、特に土曜日ともなると夫や幼児を連れての来院が多くなり、どうしても相当な待ち時間が発生してしまう。同院全体のアメニティ向上などを担うグレースセクションの生田 かおり氏は次のように語る。

グレースセクション ゼネラルマネージャー 生田かおり氏

「当院は吉祥寺という土地柄もあって、待ち時間に公園などへ散歩に出かけたいという希望をお持ちの方がいらっしゃいました。ただ、院内にいなければ診察の呼出を受けることはできません。一方で、当院の掲げるアメニティの充実という面において、マイクで頻繁にゲストの方を呼び出すことは空間演出上そぐわないというマイナスの側面もありました。そこで、解決策として考えたのがiPadを用いた呼出です。iPadでゲストをお呼出できるアプリを使えば、画面をご確認いただくことで『あと5分で診察だな』などと待ち時間が分かる仕組みを採用しました。操作に不慣れなナースであっても3タップでゲストへ連絡できるように簡素なアプリケーションを導入しています」(生田氏)

iPadの導入を検討し始めたのが2014年12月、今まで来院者には番号札を渡していたのを、iPadに置き換えたのが2015年2月なので非常にスピーディーな切替であった。導入に際しては来院者がiPadの操作に困る場面が多いのではと懸念していたが、特に大きな混乱はなくスムーズに導入できたと生田氏は語る。また、iPadの操作に戸惑う患者がいても、同院のコンシェルジュがサポートを行うためストレスなくiPadを利用できるようになる。

受付で渡されるiPadを通じて「何分後に診察か」連絡がくる。英文にも対応している

電子カタログの利用で、通院患者の安心感向上へ

また、同院では呼出機能に加えソフトバンクが提供する電子カタログのアプリケーション「ビジュアモール スマートカタログ」(以下、スマートカタログ)も有効活用している。

スマートカタログは院内の多様な医療サービスの情報提供や医師や看護師、産後のケアを行う助産師などのスタッフを紹介するためのツールとして利用している。

グレースセクション ゼネラルマネージャー・理事長秘書 小熊智子氏

生田氏と同じくグレースセクションに所属する小熊智子氏によると「当院では4Dエコーやレディースドックなどさまざまな医療サービスを行っています。ただし、そういった情報を院内の掲示板や壁に紙のチラシとして貼り付けることは景観的に当医院に相応しくないと考えていました。一方、医療機関として情報提供を来院者へ確実に行う義務があります。スマートカタログであれば、さまざまなチラシを院内に掲載しなくてもゲストへ情報配信を行えます。また、予想以上の効果があったのが医師などスタッフの情報をゲストにお伝えできる点です。診察室に入るまでどんな医師や看護師が自分をケアしてくれるのか分からないのはやはり不安ですよね。ただ、スマートカタログを利用することで医師などの顔写真や医療についてのコメントなどを待合の間に知ることができます。人柄まで知れますので、ゲストの安心感につながっており非常に好評です。結果として、外来されるゲストの予約数も全体的にアップしました」と語る。

また、ユニークなサービスとして同院では出産後に院内で過ごすゲスト(入院患者)のために、アフタヌーンティーの提供を行っている。その際に使用するロイヤルコペンハーゲンなどの上質なティーカップ&ソーサーやマドレーヌなどの菓子類、こだわりの食器やカトラリー、テーブルウェアなどをiPadで紹介している。

さらには、スマートカタログ以外にも待合中の幼児はiPadでYouTubeのアニメなどを楽しめるため、家族で来院した際にも診察室で静かに待つようになったという副次的な効果も出ている。iPad導入によって、思わぬメリットがもたらされたと小熊氏はコメントする。

さらなるiPad活用で院内の方々にも良質な医療サービスを提供

iPadのさらなる活用方法について、たとえば、空間演出の一環として院内に置いてある雑誌を撤廃し、代わりにiPad上で誌面を楽しめる仕組みを導入したり、乳児の沐浴指導の動画を掲載したりなどを考えているという。

調度品など一般的な病室のイメージと異なる。丁寧な対応もホスピタリティの一部

さらなる展開としては、外来患者へ受付時にiPadを渡し利用してもらうだけではなく、院内で過ごす女性の部屋に1台ずつiPadを配布し、アフタヌーンティーサービスだけに止まらず、医療サービスのアンケート回答用にiPadを利用してもらうなど用途を拡大していく予定だと小熊氏は語る。新たな女性医療サービスを追求する同院において、様々なシチュエーションでのiPad活用が今後も検討されていく。