ロッテ商事は全国の販売ネットワークを通じてGMS(ゼネラルマーチャンダイズストア)やスーパー、コンビニエンスストアなどにロッテの菓子を販売している。その最前線に立つのはロッテプロパー(プロパー)と呼ばれる店舗巡回スタッフだ。小売店との信頼関係を構築し、商品の陳列支援や販促資材の提供、棚作りのアドバイス、顧客からの情報収集などを行うプロパーに、情報管理ツールとしてiPadを配付しワークスタイルの改革に取り組んでいる。

直行直帰のプロパーをサポートするツールを刷新

営業本部 営業企画部 フィールド企画担当 フィールドグループ 酒井喬亮氏

「プロパーとして入社すると一定の研修を受けた後、自宅近辺の担当エリア店舗へ直行直帰で訪問する業務スタイルとなります。他のプロパーや本部社員と顔を合わせるのは会議のみとなる場合も多い。終日かけて実施されるこの会議では、新商品の説明や業務指示といった本部からの情報提供で時間切れとなり、現場で気づいた課題や改善提案などを吸い上げて議論するといった活動に十分な時間を取れていませんでした」と語るのは、同社のフィールド企画担当、酒井喬亮氏だ。

同社ではプロパーにフィーチャーフォンを貸与して、訪問先の店舗で得られた情報などを送信できる自社システムを構築し、勤怠報告も含めた情報ツールとして活用してきた。しかしフィーチャーフォン用システムはプロパーから一方的に情報を送信する「報告ツール」にとどまっており、本部から情報をプッシュする機能はなかった。

「スマートフォンやタブレット端末など、高機能の情報端末が登場してきたこともあり、こうしたツールを使ってもっと多くの情報をプロパーと本部で共有できるようになればと考え導入検討を始めました」(酒井氏)

新商品の情報や業務連絡などを日常的に共有しておければ、月例会議では現場で感じた課題の解決や、プロパーへの助言などにより多くの時間をあてられる。菓子メーカーにとってプロパーの能力は販売成績に大きな影響を与えるため、プロパーへの教育は業績に直結する重要課題だ。そこに費やす時間の創出を主眼としてタブレット端末の導入を進めた。

営業本部 事業計画部 システム担当 主査 大山貴史氏

「プロパーの持つ書類には機密性の高い書類もあります。これらを持ち歩くことは情報セキュリティの観点から望ましくはありません。新たな情報デバイスを使ってセキュリティをより強固にすることも重要な要件でした」とシステム担当の大山貴史氏は振り返る。

iPadを選定し、本部とプロパーの双方向コミュニケーションを実現

タブレット端末の選定に当たって通信キャリア各社の扱うタブレット端末からWindowsタブレットまで、ほぼすべての端末を検証した結果、MDMやWebフィルタリングといったセキュリティ面での運用実績からiPadを選択。自社開発していたフィーチャーフォン用のシステムもiPad用に再開発し、プロパーの使い勝手や収集できる情報量を増やすのはもちろん、本部からのプッシュ型情報配信を可能にするなど多くの機能を追加した。

「以前のツールではプロパーは自分で送信した情報を自分で確認できず、他のプロパーがどんな報告をしているかも見えない状態でした。これに対し新しいツールでは、自分を含めて誰がどのような情報を報告しているかを可視化することで自身の仕事を客観的に見られるようにしました。プロパーの孤立感も解消されモチベーション向上につながっています」(酒井氏)

従来、本部から各エリアの営業担当者を経由して月例会議で配付していた新商品情報やマニュアル、ファックスやメールで送っていた通知などは、プロパーまで情報が届く速度に差があるなど情報の均一化に課題があった。そこでiPadから開ける共有フォルダ「データボックス」を用意して、本部からプロパーに直接ファイルを送付することで、管理の一元管理と配信の迅速化を達成した。

店舗で実施する商品補充、特売陳列、商談といったプロパーの業務報告などや調査報告は、iPadの画面からメニューをタップするだけで完了する仕組みを設け、極力簡単な操作で完結するインタフェースを目指した。入力されたデータは即時にクラウドサーバーに送信されるので、本部社員はパソコンの管理画面からプロパーの報告をリアルタイムで把握できる。勤怠管理はもちろん、翌週の訪問予定をカレンダーに入力して、それをエリア担当営業と共有できるようになり、営業担当者がプロパーの行動に合わせて店舗に同行するといった調整も可能になった。

プロパーにとっては、勤怠や業務報告といった事務的業務をすべてiPadから一元的に処理できるようになり、プロパー自身やマネジメント側もこれらのデータを集約した出勤稼動管理表として閲覧でき、双方の業務効率化に貢献している。

ワークスタイル変革で期待される業務効率化とは

新しい情報ツールの導入により、プロパーに対する新商品の発売情報などはiPadを使って常時共有できるようになり月例会議での資料配布や説明の時間が短縮され、プロパーのスキル向上につながる活動により長い時間を費やせるようになったという。さらに、プロパーの行動履歴を時系列に細かく分析できることが重要だと酒井氏は指摘する。

「優秀なプロパーは、訪問効果の高い店を定期的に巡回し、手厚いサポートを提供することで成績を上げています。どの店に行ったら訪問効果が高いのか、今訪問している店にはどれくらい時間をかけたらいいのか、以前はそうした情報を分析しきれていないという課題がありました。iPadを使ったシステムに切り替えたことで、より詳細な活動効率の分析が可能になりプロパーの効率的な巡回計画を組み立てられるようになりました」(酒井氏)

こうした本部側での情報分析に基づく施策をプロパーにフィードバックしスキル向上につなげていくことが今後の課題となる。しかし月例会議しか対面機会のない現状では、なかなか効率的にノウハウのフィードバックを行うのは難しい。今後はiPadを利用したeラーニング導入を検討しているという。

営業担当者や幹部社員のペーパーレスによる業務改善も進む

プロパーへのiPad配付に先立って、同社では営業担当社員へもiPadを配付してモバイル型のワークスタイルへの移行を進めている。活用しているアプリケーションの中でも、クラウド型のファイル共有ソリューション「スマートカタログ」が好評である。従来の紙カタログを電子化してiPadから閲覧できるようになったほか、CM動画などマルチメディアを使った効果的なプレゼンテーションも可能になった。

さらに自社で構築した仮想デスクトップ環境にiPadから接続できる環境を用意した。得意先との各種書類の確認を外出先で依頼された場合でも、タブレット端末から仮想デスクトップへ接続して確認も可能になった。

「資料確認や返信、簡単な修正であればいざというときに帰社せずとも対応できるのはとても助かります」(大山氏)

こうした外勤社員のワークスタイル改革が着実に効果を上げているのを受け、同社では社内でのiPad活用も進めている。現在着手しているのは、会議でのペーパーレス化だ。紙や印刷にかかるコスト削減に加えて、大量の会議資料を準備する事務方の負荷軽減にもつながっている。

幹部社員から外勤の営業担当者、そして最前線のプロパーまで配付されたiPadは各レイヤーに応じた業務改革に成果を上げつつあるが、酒井氏によれば、プロパー向けのシステム開発はまだ始まったばかりだという。具体的な施策については明らかにできないとしつつ、これまでプロパー任せにしていた業務に対し、iPadで収集するデータに基づいた業務改善を行おうとしているのは間違いない。こうしたワークスタイル変革がどのような成果を生むのか業界全体が注目している。