鍵の開錠・交換をはじめ、緊急訪問サービスを手掛けるBESTは、現場の職人が利用する業務用携帯電話をiPhoneに切り替えることで、業務効率の向上を実現。1カ月の訪問件数が約500件から1,000件へと倍増し、その効果は明確に表れた。

家や車といった鍵の開錠・交換を行う出張サービスは、同社創業当時からの本業だ(左)。顧客からのニーズにより、今では、ガラス交換や水回りのリフォームまでを手掛けるようになった(右)

iPhoneで職人手配の効率が向上

鍵の開錠・交換を行うには、鍵師資格を持つことが法律で定められており、同社には15人の鍵師資格を持つ職人が在籍する。同社は、顧客からの電話を24時間365日受け付けており、本社に注文が入り次第、各職人に案件内容や住所を伝達し、各職人が現場に向かうという仕組みだ。

緊急案件がほとんどのこの業界では、限られた職人の手配が重要となる。しかし、職人のスケジュール管理は本社のホワイトボードや紙のメモのみで、各職人がいつどこで何をしているのかを時間単位で一覧できるような仕組みがなかった。そうした状況を導入責任者で代表取締役社長の大澤竜氏は語る。

代表取締役 社長 大澤竜氏

「職人のスケジュール管理が課題となっていることはわかっていたのですが、それを解決するための手法がわからなかったというのが実情でした。しかし、それまで職人が利用していた業務用携帯端末のサポートが終了となると知り、端末移行を検討した結果、iPhoneならスケジュール管理だけでなく、ワークスタイル全般を変えられるのではないかという案が出たのです」(大澤氏)

2010年4月の業務用携帯端末サポート終了を機に、職人の業務用携帯端末をiPhoneに移行。Googleカレンダーで職人全員の業務状況を共有し、業務の見える化を実現。すべての職人がiPhoneでリアルタイムにスケジュールを更新・共有することで、職人手配の効率は大幅に向上した。

具体的には、誰がどこにいるのかを把握できるため、緊急案件を近隣にいる職人に割り振ることが可能になった。さらに、これまで手配が遅れることで機会損失していた部分を補完できるようになったのだ。

「導入前はマニュアルなどがないこともあってiPhoneの操作に慣れるまで時間がかかるのではないかと不安な面もあったのですが、現場の職人は20~30代と若いこともあって、まったく問題ありませんでした。現場での試算や業務メモなど、職人それぞれが積極的に活用しています」(大澤氏)

現場の職人にもメリットがある。ある一定の案件をこなせば、それ以上は案件に応じてインセンティブが与えられるため、効率よく案件をこなせば、自分の報酬が増えるからだ。例えば、職人がある現場で当初の予定よりも時間を短縮して業務を終えた場合、スケジュールを更新することで、新たに注文が入った案件を割り振られる可能性が高まる。そのため、職人は各自スケジュールの更新を頻繁に行うという。このような好循環が生まれた結果、一カ月約500件だった訪問件数は約1,000件へと倍増した。

「現場から新しい活用方法も生まれています。現場でトラブルの解決方法がわからない新人が、iPhoneで現場の映像を撮影してベテランにメールで送り解決方法を教えてもらったというケースもありました。このように、現場から新しい活用方法が生まれてくるのもフィーチャーフォンにはない特徴ですね」(大澤氏)

実際の同社の利用シーンや導入効果は以下の動画ようなものだ。


クレジット決済「PayPal Here」で客単価が約30%向上

同社では、iPhone導入後すぐにソフトバンク テレコムからスマートフォンでクレジット決済を可能にするソリューション「PayPal Here」を導入した。その理由は何だったのか?

「まず導入の初期費用が安いことですね。iPhone導入前の携帯電話はクレジット決済に対応していたのですが、初期導入費が高額でした。弊社では売上の約3割をクレジット決済の案件が占めるため、早急に導入したかったのですが、一方で初期導入費用は安く抑えたいという希望もありました。そこで調べてみると、iPhoneにカードリーダー取り付けるだけで、クレジット決済できるサービスを発見し、料金を見てみると、初期費用はクレジット決済に必要なカードリーダーの1,260円のみと安価なので驚きました。せっかくiPhoneを導入して現場のワークスタイルが変わり始めていたので、PayPal Hereを導入するしかないな、と思いました」(大滝氏)

PayPal Hereは、スマートフォンのイヤホンジャックにカードリーダーを差し込み、クレジットカードを読み込ませることで、クレジット決済が可能となるサービスだ。アプリを起動し、請求金額を入力、クレジットカードをカードリーダーに読み込ませれば決済が完了。サインもiPhone上で行えるほか、クレジットカード利用時に発行される請求レシートはメールやSMSでも送信可能なので、ペーパーレスで完結できるのも特徴のひとつだ。

同社では、職人が現場でiPhoneにPayPal Hereのカードリーダーを付け、クレジット決済が可能であることをアピールしているという。

「iPhoneでクレジット決済ができるPayPal Hereは顧客の関心を引くことが多いので、話の種になります。弊社は、鍵の開錠・交換だけでなく、ガラスの交換や水回りの修理などの業務も行っていますが、顧客はクレジットカードが使えるとわかると、追加で注文することが多く、客単価が上がる傾向にあります。たとえば、ガラス交換の注文を受けて職人が現場に行き、クレジット決済ができることを顧客に伝えると、それなら水回りも見て欲しい、と追加注文が入るケースが多くあります」(大澤氏)

iPhone×PayPal Hereでクレジット決済を顧客にアピールし、客単価は約2万円から約2万6000円へと約30%向上した。

iPhoneで利用できるクレジット決済サービスPayPal Here。アプリを起動し、決済金額を入力、イヤホンジャックにカードアダプタを装着してカードをスワイプさせるだけでカード決済が完了する。初期費用はカードアダプタ1,260円のみという導入しやすいのもポイントだ

今後は案件管理をiPhoneと連動するシステムに

新しいデバイスの導入効果が数字に現れたことで、同社は、さらなるワークスタイルの進化にチャレンジし始めた。3台のiPadをテスト導入し、動画や電子カタログによる提案手法を取り入れたのだ。現場で追加注文などを受ける際、より商品の特徴を知ってもらうには、紙のカタログよりも動画や電子カタログのほうが伝わりやすい。分厚い紙のカタログを持ち運ぶ職人の負担も軽減できる。

「今後はiPadに格納した動画や電子カタログで顧客提案を行うような営業スタイルにして、追加注文の確度を上げていきたいと考えています。理想としては、ひとつのトラブル解決を機に、顧客の宅内をコンサルティングしていくような領域までサービスを広げていくようなイメージですね」(大澤氏)

さらに今後2年以内には、注文依頼から集金まで、一連の案件管理を、iPhoneと連携できるシステムに置き換える予定だという。関西や東北などにも進出を始めた同社。先進的なワークスタイルを取り入れながら、事業は顧客のトータルインテリアコンサルティングへと飛躍させていく。