遠隔カメラの用途は防犯や不正行為防止といった監視目的と思われがちだが、発想を転換して社員のスキルアップによる顧客満足度向上、ひいては利益率改善につなげている企業がある。

リサイクルショップといえば全国に店舗展開して買い取り・販売を行う「大黒屋」「コメ兵」といった大手がなじみ深い。これに対し、洋服・ブランド品の買い取り・販売を行う「エコスタイル」など7店舗のリサイクルショップを運営するスタンディングポイントは、買い取りに経営資源を集中することで、大手とは異なる独自のビジネススタイルを確立する戦略を進めている。

買い取りに特化して業界ナンバーワンを目指す

代表取締役社長 若森寛氏

「当社の主力は中古ブランド品の買い取りサービスです。販売は店舗や在庫などの固定費がかかりますので、店舗を持たずに売却できるネット通販や業者間売買を活用することで販売コストを下げ、その分を買い取り金額に上乗せしてお客様に還元しています」と語るのは若森寛社長だ。

地方の大型店舗など一部の店舗でも販売は行うが、首都圏では買い取り店のみの営業に絞り込む。15~30坪の小型店舗を中心に出店できるのが買い取りに特化するメリットの1つだ。

「2019年までにリサイクルショップ業界において、平均年収で大手を超えることを中期経営目標に掲げて社員にも伝えています。これ達成するためには、大手と同じように全国へ大量出店するのではとても追い付きません。大手のやらないサービス、例えば地下鉄の駅出口までお客様をお出迎えするなど、買い取りの接客にフォーカスして当社のファンを増やすことに注力しています」(若森氏)

そこで重要となるのは、社員やバイヤーのスキル向上だ。特にバイヤーの目利きについては、一朝一夕で身に付くものではない。限られたベテランバイヤーの能力を効率よく活用する方法として、ICTテクノロジーに活路を見出した。

「当初はWebカメラとパソコンを設置して、店舗での査定を本部にいるバイヤーがWebカメラの画像を通してサポートする取り組みを始めました。しばらくはWebカメラに付属しているソフトを使っていましたが、パソコンからの操作性が悪いほか、本部からのサポートは少人数のバイヤーで回しているので、複数の店舗を同時につなげられ移動中でも使えるものはないかと探して、iPadから遠隔でカメラを操作できる『i-NEXT』のソリューションに切り替えました」(若森氏)

店舗に設置された「i-NEXT」のカメラ(左)。遠隔地のiPad(右)から拡大・縮小、上下・左右へのカメラ操作を行い、本部バイヤーがサポートを行う

社員を評価する手段の1つとして遠隔カメラを活用

iPadから店舗に設置したカメラの映像を確認できるようになったことで、本部のバイヤーが移動中であっても、場所を問わずに映像を確認できるようになった。今後、新規出店を増やしていけば社員の移動は頻繁になると予想されるので、携帯性が高まるのは非常に心強い。また、i-NEXTはiPadのタッチ操作で簡単に店舗カメラのパンやチルト、ズームも可能で、顧客の持ち込んだ小さな品物の傷も確実に視認できるという。

「店内に監視カメラを設置すると伝えれば、社員はあら探しをされるのではとネガティブに受け取って委縮してしまいます。そうではなく、社員の良いところを見つけて、評価してあげるために私はi-NEXTを活用していきたいと考えました」(若森氏)

i-NEXTには映像をiPadに録画する機能があるので、顧客が来店したら録画を開始して、店舗スタッフの対応や会話内容を記録する。どのような接客をすれば最後に顧客が笑顔になって帰っていくのか、成功した映像を店長会議で再生してCS(顧客満足度)に関するノウハウ共有につなげているのだ。

「CS大賞という表彰制度があり、四半期ごとの社員総会で表彰していますが、今後は、自分たちが目指している接客とは何か、伝えるべきことをきちんと伝えているか、お客様にそれが伝わって笑顔を引き出せているか、買い取り金額に納得いただけているか、そして『また来ます』といってお帰りいただけているかに重点を置いた表彰者の選出にも本システムは有効に使えるのではないかと考えています。模範的なトークを映像によって簡単に共有できるのがiPadとi-NEXTを導入した最大のメリットになれば良いと考えています」(若森氏)

接客トークの改善が利益率改善に

2014年7月にiPadとi-NEXTを導入し、わずか2カ月で早くも具体的な導入効果が利益率改善の数字に表れた。同社は商材を高単価品にシフトしている影響で、単価が上がる反面、利益率は継続して低下傾向にあったという。それがiPadとi-NEXTの導入により減少トレンドが底を打ち利益率は上昇に転じたという。

「Webカメラからi-NEXTに切り替えるタイミングで、買い取り業務の組織体制を見直し、"ほうれんそう"(報告、連絡、相談)のスキームもつくりかえました。経験のあるバイヤーも、いったんは初心に戻って新しい"ほうれんそう"で業務するという取り組みをしたのです。それまで店長を兼務していたバイヤーは、買い取りサポート業務に集中できるポジションに据え、古物市場のデータや異業種のデータなどを徹底的にインプットしました。移動中にもiPadを常時携帯して査定支援ができるようにしたのも改革の1つです」(若森氏)

買い取り金額の精度を高めることで利益率改善につながったのはもちろんだが、顧客とのトークを改善できたのが大きいと若森氏は語った。店舗に来店した顧客を本部から逐一観察し、年齢や来店人数、持ち込んだ商品種別などを緻密にデータ化してケーススタディを積み重ねバイヤーにフィードバックした。

「店舗バイヤーから本部に『この商品を査定してください』と連絡を受けても、『ちょっと待って、その前にいま来ているお客様の性別は? 年齢はどれくらい? ご夫婦できていれば奥さんへのフォローが大事だよ』といった査定金額ではない部分を店舗バイヤーに伝えられるようになりました」(若森氏)

カメラがあることで、顧客の入店時からレジでの会話、表情までを本部で確認できるようになり、より適切なアドバイスを伝えることで最終的な価格交渉を成功に導けるようになった。

店舗のバイヤーを「i-NEXT」を通して遠隔地からモニターし、査定だけでなく接客に対しても的確なサポートを送る

リサイクル業界の半歩先を行く新しいビジネスを目指す

iPadを使った遠隔カメラの活用に続いて、同社では独自のiPad連携POSシステム開発にも乗り出している。リサイクル業界向けのPOSシステムはニッチ過ぎてあまり良い既製品はないという。大手は独自のPOSシステムを使い、それ以外はExcelやGoogleのスプレッドシートで済ませている。

そこへiPadとクラウドシステムを連携させた安価で使いやすい業界特化型のPOSシステムを立ち上げ、これをシステム開発会社と連携して外販することで、今後リサイクル業に参入する企業を支援したいと若森氏は語る。

「B to Cの物販業だけで成長を目指すと、店舗や人員のスケールアップに向かわざるを得ませんが、当社は『全国に100店舗展開』といったビジョンではなく、出店は主要都市だけに絞り、独自のビジネスモデルを盛り込んだPOSシステムの販売など、B to Bのビジネスも展開して、業績を伸ばしていきたいと考えています」(若森氏)

例えば、高級老人ホームの入居説明会に参加して、生前整理・遺品整理・整理収納といった"断捨離"サポートも考案中だ。この3つに関連する資格をバイヤーが取得していくように促している。そして、主催するセミナーに講師として参加し、リサイクル品の買い取り要望があれば後日、顧客の自宅にiPadを持参、i-NEXTを使った遠隔カメラ査定やiPad用POSを使ったリアルタイム見積もりを行う。

このように新しい分野の業務をiPad中心に組み立てることで、新しいビジネスの形をつくっていきたいと若森氏は同社のビジョンを示した。