ソフトウェア開発、システムの運用管理などを行うインフォメーション・ディベロプメントでは、顧客のデータセンターなどに常駐して業務を行う。社員の85%ほどが顧客先におり、デスクも共用のものがある程度だ。そのような状況で社員とのコミュニケーション手段を模索した結果、約460台のiPhoneが導入された。

緊急時の情報伝達体制を模索

同社では顧客のデータセンターなどに常駐する際は、グループ長を中心に複数名1グループの体制を取る。総務部担当、財務部担当、といったように1つの企業に複数グループが常駐する場合もあるという。

常駐先で使用するデスクや椅子は貸与される場合がほとんどだが、固定電話やパソコンの利用可否、インターネット環境などは顧客のセキュリティポリシー次第となる。

「パソコンを貸与される場合もありますが、インターネット接続など外部へのアクセスは規制されることが多いです。またパソコンの貸与台数が1台であれば、常駐する複数グループがその1台を共同で使うことになります」と、以前の常駐先での様子を説明するのは、ITプラットフォーム・サービス事業本部 iD-Cloud&Securityサービス部 営業戦略統括 グループマネージャーの原田旨一氏だ。

グループ業務管理部 執行役員 部長 榮英司氏

「顧客先にいる85%の社員に対しても、当然のことながら人事通達や期限のある総務関連書類の提出などの周知事項は確実に伝える必要があります。社内ポータルサイトに掲載したり、メールでも発信しますが、常駐先のポリシー次第ではどちらも見られません。その場合、紙に印刷して各現場をまわり、グループ長に手渡ししていました」

iPhone導入前の苦労をグループ業務管理部 執行役員 部長の榮英司氏はこう話す。常駐期間は半年~2、3年程度、長ければ10年に及ぶこともある同社の業務形態では、スムーズな連絡手段が求められていた。

また常駐先でトラブルが発生した際や、台風や電車遅延といった緊急事態でもパソコンや電話を自由に使えないことによる弊害があった。

ITプラットフォーム・サービス事業本部 iD-Cloud&Securityサービス部 営業戦略統括 グループマネージャー 原田旨一氏

「24時間体制でシステムの監視を行うため、3交代制の勤務シフトを組みますが、天候や事故で急に出勤が遅れる場合などはいち早く連絡を取り合う必要があります。また、トラブルがあれば本社への迅速な確認が不可欠です。どちらの場合も固定電話を貸与されていなければお客様にお借りしなければならず、個人の携帯電話を使うこともありました。後者の場合は通話料の会社支給といった問題もあります」(原田氏)

iPhoneの企業利用が新聞などでも取り上げられるようになった2010年4月、よりスムーズなコミュニケーション手段として導入検討が始まった。

情報共有ツールとしてiPhone導入。ワークフローも円滑に

同社では1カ月の試用期間を設けてアンケートを実施し、ニーズの洗い出しが行われた。結果は社内連絡や情報共有を円滑にしたいという意見が多数を占めたほか、当時はグローバル展開が始まった時期でもあったため、経営層の海外出張の増加にともなう決裁承認が遅れがちな状況を受けて、ワークフローの確認をiPhoneで行いたいという意見もあった。紛失リスクや経費面を懸念する声もあったが、課題解決のため導入を決めたという。経営層のほか常駐先のリーダー長も含めたマネージャー職に、iPhone約460台が配付された。

「パソコンの利用が禁止された場所でも、iPhoneが規制対象になることはほとんどありません。持ち込めなくても、ロッカーなどに入れておけば休憩時間などにすぐ周知事項有無の確認ができます」(原田氏)

こうして常駐先でもメールが閲覧可能となり、現場をまわって紙を配る手間がなくなった。

同社がグループウェアとして利用している「desknet’s」はiPhone対応版のサービスも提供しているため、iPhoneから他の社員のスケジュールを確認でき、緊急時でも迅速に連絡が取れるようになったという。トラブル発生時などは、現場で出た対応策の最終確認を本社に仰ぐ。

「部長のスケジュールをiPhoneで確認できるので、外出中なのに本社に電話して不在を告げられる、といったワンクッションがなくなりました。電話をかける前に会議中かどうかも分かり、スムーズに連絡が取れるようになりました」(原田氏)

またワークフローシステムの「X-point」(エイレッド提供)を利用しており、iPhoneで決裁のステータスが一覧で確認可能だ。海外出張中の社長もiPhoneからステータスが「承認待ち」の案件を確認でき、「差し戻し」「承認」といった操作ができるため、案件の停滞がなくなった。

iPhoneではメール確認のほか、「申請中」「差し戻され」といった決裁のステータス確認や承認作業ができる

iPadでテレビ会議システムを利用

同社ではiPhoneのほか、経営会議出席者に対してiPadを配付した。2009年より紙の資料を使わずパソコンでの運用に切り替えてペーパーレス化されていたものの、起動に時間を要するなどの不便さを感じていた。

そこで持ち運びやすく、起動も早いiPadで操作できるWeb会議システムを探し、「TeleOffice」を利用することで、iPadの導入を決めたという。

「TeleOfficeは、資料共有型のWeb会議システムです。20拠点ほどと繋げますが、iPadでは資料がメインで映し出され、拠点の映像は直近に発言した3つが表示されます。海外拠点のメンバーとも顔を見ながら会議できるようになり、新たなコミュニケーションツールとしても重宝しています」(榮氏)

音声と映像のほか、共有した資料へのポインタの表示やペンツールでの書き込みが可能なので、パソコンで資料を見ながらの従来の会議と同様の環境が実現している。

共有した資料に書き込みを行えるほか、拠点の映像も表示可能なWeb会議システム「TeleOffice」

同社はクラウドサービスを運用管理までワンストップで提供する「iD-CLOUD」の1つとして、上述のTeleOfficeなどスマートデバイスで使えるソリューション販売も行っている。実際にデモを見せるのにもiPadを利用するが、チラシをPDF化してiBooksに入れたり、自社紹介やソリューション紹介の動画を制作して提案時に見せているという。

「チラシが出先で足りなくなったり、チラシを持って出なかった商材の提案をしたいときなど、PDF化したチラシをすべてiBooksに入れておけばいつでも使えて便利です。また、チラシだけでは伝わりにくかった具体的な操作などを動画で見せることで、お客様の理解度が深まりました。動画は口頭での提案力を補えます」(原田氏)

Web会議を行う経営会議への出席者のほか、営業活動で利用する者など、約100台のiPadが稼働中だ。

営業活動ではiPadでチラシを見せる(左)ほか、動画を用いてより効果的な提案を行っている(右)

自社でiPhone/iPadを使いこなし、ノウハウを広めていく方針

「アプリのインストールについて制限はかけていません。クラウドビジネスを推進する立場ですので、積極的に使ってもらっています。端末紛失時にデバイスの位置がわかる『iPhoneを探す』や、乗換案内のアプリの利用者も多いですが、有料のノートアプリ「Noteshelf」はおすすめです。通常の文字入力のほか手書き入力もでき、ノートをグループごとに保存できるなど多機能です」(原田氏)

デバイスを使いこなすことに前向きな同社だが、紛失対策として社名入りのストラップを付けることを規則とし、端末ロックのパスワードは6桁以上、プロファイルを利用して10分以上画面に触れないと自動ロックがかかる設定などセキュリティ対策も抜かりない。

導入前の課題を解決した同社での今後の取り組みについて、榮氏はこう語る。

「常駐先の社員との情報共有はスムーズになり、iPadでのWeb会議など、社内でデバイスの活用は拡がっています。今後はこのノウハウを顧客に伝えていくフェーズだと思っています。積極的に営業活動でもiPadを活用し、メールサーバなどのシステム構築や運用管理だけでなく、スマートデバイスで使えるソリューションも提案していくことでお客様の業務改善に貢献していきます」(榮氏)