大阪府大東市にあるケンテックは、金型、金属部品、刃物などの強度を高める表面処理加工を行う会社だ。グループ会社であるファインテックの熱処理技術と真空技術、表面処理技術を駆使し、耐久性・耐摩耗性・耐焼き付け性・耐酸化性に優れたセラミック硬質被膜ファインコーティングを開発。コーティング技術のパイオニアとして、表面処理を行っている。

特に、溶融塩法を用いて、複合炭化物被膜をサブミクロンで生成させる独自プロセス「ファインコーティングナノ」では特許を取得。高い密着性と耐久性が評価されている。

大阪府大東市にあるケンテック(ファインテック)

工場の内部

データ入力で日常的に残業が発生

同社では従来、受注の際、営業マンが仕様書(注文書)のテンプレートをプリントアウトし、営業先で手書き記入していた。同時に熱処理や表面処理加工を行う製品をデジカメで撮影し、会社に持ち帰っていた。同社では、写真が現物管理の重要な情報となっており、工場ではこの写真をもとに製品を判別し、表面加工の作業を行っていた。

ケンテックの代表取締役社長である川端健一氏

そして営業マンは夕方会社に戻ると、事務職員に手書きの注文書を渡し、二人の事務職員が分担してFileMakerで構築したシステムにデータを手入力。受注は毎日100-150件ほどあり、多い日には200件にも達していたという。

「データ入力は事務職員一人あたり1~2時間ほどかかります。作業は営業マンが戻る夕方からになるため、日常的に残業が発生し大きな問題になっていました」と、ケンテック 代表取締役社長 川端健一氏は、新システム導入の背景を語る。

また、手書きの注文書からデータ入力する際には入力ミスもあり、写真とデータの照合にも時間がかかっていたという。

iPad miniから直接データをアップロード可能に

そこで、同社ではFileMaker GoとiPad miniを導入することを決定する。新たなシステムでは、営業マンが客先でiPad miniに受注データを直接入力。これまでデジタルカメラで撮影していた製品写真も、iPad miniのカメラで代用し、自動的に受注データに埋め込めるようにした。

写真が埋め込まれた受注データ

このシステムでは、営業マンは会社に戻ると、自身でiPad miniのデータをサーバに送信する。サーバのマスターデータに変更があった場合は、同時に差分をiPad miniに受信。これにより、事務職員のデータ入力作業は無くなり、残業時間の大幅な軽減につながった。

iPad miniのメニュー。データ連携がデータの送受信を行う部分

社内ではサーバ上のデータをもとに、PCから作業指示書、検査報告書、納品書、請求書などを発行。各種集計も行っている。請求データは受注管理システムからCSVで書き出し、会計システムに取り込んで利用している。また、iPad mini側では各営業担当個別の集金リストや各種集計などを閲覧する機能も備えている。

請求書発行画面

ケンテックが導入したシステム

今回のシステム開発を行ったのは、FileMakerの開発で実績があるジュッポーワークスだ。ジュッポーワークスとは、川端氏がアップルのセミナーで知り合い、それがきっかけで仕事を発注することになったという。

実は、ケンテックがそれまで使用していた受注管理システムは、川端氏の手作りによるものだった。当初は専用のオフコンを利用していたが、使い勝手が悪いため同氏が独自にAccessで再構築。その後、データ量がAccessの制限に達したため、 FileMakerに乗り換えたのだという。

しかし、今回のシステムでは、ジュッポーワークスに外注することにした。その理由を川端氏は、「iPadと連携させるシステムを独学で学び、スクリプトを組んで構築するのは、時間的に無理だと思いました。見積もり費用も想定内だったので、専門家にお願いすることにしました」と説明する。

入力もより効率的に

iPad miniの入力では、顧客情報や加工種類、単価などはマスター中から選択して入力する方式のため、キーボードをほとんど使わずに行える。また、営業マンごとに直近90日分の受注データをiPad miniに取り込めるため、営業マンは過去のデータを参照し、前回はどのような処理が行われたのかを顧客に説明できる。定期的な受注の場合は、過去のデータを再利用し、写真や日付を変更する程度で入力することも可能だ。

案件の中には夕方預かって、翌日の朝に届けるような急ぎのものもあるが、以前は社内でのデータ入力が終わらないと作業指示書が出せないため、工場側の作業が滞ることもあったという。ときには、入力を待たずに営業が持ち帰った紙ベースの情報をコピーして作業を進めていたが、途中で工程が分かれる場合は不便だった。しかし、今回のFileMaker Goの導入で工場側の業務スピードと正確性は大幅に向上したという。

同社がiPadではなく、iPad miniを選択した理由は、持ち歩くのに少しでも軽いほうがいいという点と、写真を撮るカメラの扱いやすさがあったという。

営業マンの中には60代の社員もおり、当初はiPad miniの導入に消極的な人もいたが、今ではiPad miniのほうが入力も早く、効率的だと好評だ。また、業務でiPadなどのモバイルデバイスを利用している企業はまだ少ないため、営業先で珍しがられ、それが社員のモチベーション向上にもつながっている。

ジュッポーワークス ソリューション開発部 課長 山田真澄氏

システム構築を行ったジュッポーワークス ソリューション開発部 課長 山田真澄氏は、「今回のシステムは、なるべくシンプルに、メンテナンスしやすいように工夫しました。マスターデータは、営業の方は変更できないようになっていますが、新規顧客の情報は営業の方が入力したiPad miniのデータを自動でマスターに追加するようにしています」と語る。

当初、データの送受信に時間がかかるという問題もあったが、FileMaker側のサムネイル作成機能を利用して写真データを圧縮するなどさまざまなチューニングを行うことで、時間の短縮に成功している。

山田氏はFileMaker GoとiPadを組み合わせたシステムについて、「データの収集と表示が1つのソフトでできることが魅力です。現在iPadは、情報を表示するという用途が多いのですが、FileMakerであれば、顧客の要望に合わせ、たくさんの情報の中から条件にあったものを検索して表示することができます。今回のシステムは、FileMakerの標準機能だけで作成しました」と語った。

ケンテックでは現在、FileMakerのデータをプリントアウトして工場の作業で利用しているが、今後は、工場側でもiPadとFileMaker Goを導入し、ペーパーレス化を図っていく予定だという。

工場で利用している作業依頼書を説明する川端社長。今後はこちらもiPadに置き換えていく予定だ