長野県長野市にある稱名寺(ショウミョウジ)は、真宗大谷派の寺院だ。木曾義仲と巴御前の子が開山したと伝わっており、長い歴史を持っている。現在の住職である木曽秀英氏は、22代目となる。

長野市にある稱名寺

稱名寺住職 木曽秀英氏

木曽氏が22代住職になったのは、2006年のことだ。それまでは父親の手伝いをする形で僧侶としての活動はしていたが、本業は高校の国語教師だった。しかし、2006年に先代住職である父親が亡くなったことで、後を継ぐことになったのだ。この時、同氏が真っ先に悩まされたのが、葬儀の案内状を送るための名簿だったという。

「父の葬儀の連絡をするにあたり、きちんとした住所録が見つかりませんでした。おそらく、父の頭の中には入っていたのでしょう。結局、きちんと分類されたものが見つからず、出てきた名簿すべてに案内を送りました。最終的に300枚ほどのハガキを出し、返信のある人が檀家だろうと判断するしかありませんでした」と木曽氏は説明する。

一般に寺院では、なんらかの形で檀家や門徒の名簿を作成している。最も多いケースは、手書きの過去帳だ。過去帳には、故人の戒名(法名)や俗名、死亡した年月日などが記載されており、寺院ではこれで命日を確認する。

ただ、古い過去帳には簡単な家の場所と名前、没日や戒名程度しか書かれていない。近年のものであれば、正確な住所も記載されているが、基本的に亡くなった順に簡単な情報を書き付けてあるだけだ。そのため、住所も「このあたり」という大まかなものしかわからなかったり、故人同士のつながり(親子、兄弟)などの判別も難しいという。

そして、この問題を解決するために木曽氏が導入したのが「FileMaker」だ。

古い過去帳について説明する木曽氏

データベース活用で寺院の業務を効率化

利用しているiMac。なお、FileMakerはWindowsでも利用可能だ

木曽氏は高校教師をしていたため、以前からPCを利用しており、MS-DOS時代から桐というデータベースソフトを使って生徒の管理をしていたという。また、高校では情報科目の授業アシスタントも務めていた経験から、檀家管理にはデータベースソフトを使うのが最適だと考えたのだ。

「住職になった当時、自宅に娘のMacがあり、Windowsだけでなく、Macも使い慣れていました。そこで新たにMacを購入し、FileMakerで管理を始めました。とりあえず、住所録の整理から始め、1カ月ほどで住所はFileMakerに入力しました」(木曽氏)

FileMakerに入力した法名一覧(データは架空のもの)

データを入力するにあたっては、檀家を地区ごとに分けて登録し、世話役となる代表者もわかりやすく表示できるようにしたほか、案内状を送るための名簿作りにも工夫したという。

「案内状は、檀家全てに送る、お墓の持ち主だけに送るという区分だけでなく、遠隔地の檀家にだけ送るなど、いろいろな区分があります。それを名簿から1つ1つチェックをつけて抜き出すのではなく、すぐに印刷できるように用途ごとにスクリプトを作成しました。また、ハガキや封筒サイズなど送付するものに合わせて印刷するテンプレートを用意し、その都度設定し直す必要がないようにしました」(木曽氏)

名簿は用途別に分類されているほか、封筒サイズなどに合わせて印刷するテンプレートも用意

また、法要のスケジュールを作成する際にもFileMakerは役立っている。

毎年、実施すべき法要がある檀家には、その旨を案内するのだが、以前は過去帳をめくりながら手で書き出した「くりだし帳」を作り年始の挨拶時などに通知していたという。今年が何回忌にあたるかにより、法要をする/しないが変わってくるので、毎年作り直す必要がある面倒な作業だ。

これを、データベース化したことから、故人どうしの関連も容易に判別できるようになり、家ごとにまとめたものを作り、その檀家の過去帳が一目瞭然になった。

住所録から1クリックでその家の法名を含めた台帳を表示することもできる。このあたりはデータベースソフトならではの機能。回忌(法要の年)が近い場合は、法要を1回にまとめて行うこともあるという(データは架空のもの)

中陰計算機能も用意

「以前は人の手で3~4日かけて行っていた作業ですが、20分程度で済むようになりました。また、中陰計算といって、葬式後の初七日や四十九日といった7日ごとの区切りとなる日付が必要なのですが、指定日から自動算出する機能も設けたことで、ミスのない計算結果が瞬時に出せるようになりました」と、木曽氏はその効果を語った。

iPhone+FileMaker Goで外出先でも即座に対応

当初は自宅のMacのみで利用していたFileMakerだが、現在はiPhone 5でFileMaker Goを使うことで外出先でもデータが参照できるようになっている。

「FileMaker Goが出て数カ月たったころ、所有していたiPod touchでもFileMakerのデータを利用できることを知り、すぐに導入しました。昨年には、新たにiPhone 5を購入し使っています。データをiPhoneでも参照できるので、急に檀家の方が亡くなられた場合にも、出先で法名(戒名)を考えたりすることができるようになりました。また、挨拶回りの際には名簿からGoogleマップを紐付け、地図を利用しています。大変便利です」(木曽氏)

法名(戒名のことを浄土真宗では法名という)は、家によって使う文字が決まっているほか、同じ法名を付けることができないので、法名を付ける際には、過去帳のデータを参照することが必要になるという。

FileMaker Go 12(無料)の登場により、Mac上のFileMakerのデータをiPhoneでも利用できるようになったという

檀家を訪問する際には、台帳の住所に紐付けた地図を利用

FileMakerでのデータベース化に加え、FileMaker Goの登場により、名簿を含めたすべてのデータをモバイル環境でも利用できるようになり、効率的な業務が可能になったという。

ファイルメーカーが期間限定キャンペーン

ファイルメーカーでは、2013年3月18日までの期間限定で、「FileMaker iOS スターターバンドル」プロモーションを実施中だ。このキャンペーンは、年間ボリュームライセンスを新規に契約した場合に利用でき、バンドル製品には「FileMaker Server 12」と「FileMaker Pro12 Advanced 」が含まれる。また、FileMaker Go 12 for iPad/iPhoneをiTunes App Storeから無料でダウンロードすれば、iPadやiPhoneでFileMakerソリューションを使うことが可能だ。

このキャンペーンでは、パッケージ製品で購入すると通常、18万6,000円(税別)のところを、初年度4万9,800円(税別)と1/3以下の初期投資で導入開始でき、iPadやiPhone向けの業務ソリューションを新規導入する場合に最適な組み合わせのバンドル製品となっている。

ガイドブック片手に開発したテンプレートは寺院向けに無償配布

画面設計はもちろん、利用しているシステムは全て木曽氏自身が構築している。元々コンピュータに詳しかった木曽氏だが、特にFileMakerでの開発経験があったわけではない。

プログラミング経験はなかった木曽氏だが市販の解説本を見ながらスクリプトを作成したという

「システムは、欲しい機能があれば製品マニュアルや市販の解説本を参考にしてスクリプトを書く、という作業を繰り返しながら作成しました。当時はそれほど難しく考えないで作ったのですが、同じものをもう一度作れと言われても今は難しいですね」と木曽氏は笑う。

しかし、ほかのデータベースアプリケーションなども利用した経験から、FileMakerは簡単で、開発の素人でもシステムを構築できると木曽氏は指摘する。

「Accessなども使ったことがありますが、それと比較するとスクリプトが非常に簡単ですね。難しい開発言語を使う必要もありませんし、計算式も解説本を見れば簡単に利用できます」(木曽氏)。

作成したスクリプト。日本語でプログラミングできるので理解しやすかったという

檀家管理は、どの寺院においても共通の課題となっているため、木曽氏は作成したFileMakerのテンプレートを寺院に限って無償提供している。すでに15~16の寺院で使われているという。システム開発会社から連絡を受けたこともあるが、あくまでも提供先は寺院に限っている。また、これを販売するつもりもないという。

「販売するようなものでもないですし、サポートまでは手が回りません。ただ、みんな困っているので、困った時に助けになるものが存在するということが大切だと思っています。使ってみて気に入ってくれたら、FileMaker Proを買って自分の寺院向けにカスタマイズに挑戦してほしいですね。稱名寺としてはすでに必要な機能は揃ったので、今後はさらに古いデータを入力していきたいですね」と木曽氏は語った。