【連載】
セレクトショップ「BEAMS」は、全店で約250台のiPadを導入し、店頭での商品検索など接客ツールに活用している。最新の商品ラインナップを全スタッフが共有できるようになり、年間1,000万円ほどかかっていた印刷代が削減されただけでなく、顧客応対の質向上などさまざまな効果が出ている。
1976年に生まれたBEAMSは、“BASIC & EXCITING”をコンセプトに輸入衣料品や雑貨、オリジナルの衣料品を製造販売しているメンズカジュアルレーベル。レディースのカジュアルライン「Ray BEAMS」や、子供向けの商品を扱う「こども ビームス」など多くのレーベルを展開しており、手がける商品は多岐にわたる。
また、北海道から九州まで全国に90以上の店舗があり、1つの店舗で複数のレーベルを取り扱うため、1店舗あたりの扱う商品の種類も多い。
同社が扱う商品のラインナップは、分厚いファイル数冊分のカラーコピーで管理されていた。シーズンが変われば、当然古くなったものをすべて抜き、新しいものを差し直す。
「全店舗に配布するカタログを作るのに、紙代や印刷代として年間1,000万円程度かかっていました」とiPad導入前の課題を語るのは、販売促進本部 Web制作課 課長の関根修二氏だ。
店舗にはそこで取り扱うレーベルのラインナップ資料のみ配布されるが、顧客からは「雑誌に載っていた半袖で花柄のワンピースはありますか?」など、さまざまなレーベルの問い合わせがある。その店舗で取り扱いのないレーベルの商品についてはラインナップ資料の用意もないため、PCで基幹システムのデータベースを検索し、お客さまにご案内、取り寄せなどもしていたという。
さらに、紙のラインナップ資料では追加で入ってきた商品の更新作業も容易ではなく、探したい製品情報をすぐには見つけられない状態だった。
また、半年に1度行われる次シーズンのラインナップ説明会では、各店舗から集まった代表者が紙の新作商品資料で説明を受け、それを持ち帰って店舗スタッフを指導する。店舗ではカラーコピーができず、店舗スタッフへはモノクロの資料を配っての説明になる。
「その日に不在のスタッフもおり、一度の説明で全員を指導できるとは限らないため、代表者から聞いた話をほかのスタッフから聞くこともあります。ラインナップ説明会に出た代表者は商品の良さを直接聞けますが、聞き伝えを繰り返すことで商品の魅力が伝わりにくくなり、統一されたイメージを共有できないもどかしさがありました」(関根氏)。
最新の製品情報をリアルタイムに全員が共有し、顧客への提案力を向上させる、という目的のために導入されたのが、iPadだ。
基幹システムの商品データベースと連携したビューアサイト「ラインナップサイト」は、全レーベルの全製品情報を、すべての店舗スタッフがiPadやPCから閲覧できる。今シーズンと次シーズンの製品について、品番、品名、上代(店頭販売価格)、納期、色、サイズ、サンプル写真などが掲載されている。
「『商品情報を簡単に共有』することを目的に、『スピード感』と『簡単さ』を追求して作りました」と関根氏。
このラインナップサイトをiPad用のアプリケーションにすることも検討されたが、開発に時間をかけるより、スタッフがすぐに利用を始められることを重視、Webブラウザでの利用という決断を下した。基幹システムのデータベースを参照してSafariで表示させているため、新たなシステム構築などもなく開発はスムーズに進んだという。
「商品が多く、とにかくデータ量が膨大なため、数ページに分ける構造にして、1ページあたりの読み込む時間を短縮しました」と、関根氏はインターフェイスについて工夫した点を語る。
まずはBEAMS丸の内店で利用を開始。最初の約3カ月のみPDFでの運用だったが、「検索をしやすくしてほしい」「商品の表示はこういうふうに分けてほしい」といった使用感や要望のヒアリングを行い、全店舗にSafariから閲覧できるラインナップサイトの状態で展開した。
「まずは素早く導入して使った人の意見を聞き、アップデートして改良する手法を取っています。そうすることで便利さを早く享受し、具体的な問題点の早期解決に取り組めるからです」(関根氏)。
ラインナップサイトでは、ブランド名でのソートのほか、半袖、長袖などで絞り込む「アイテム検索」も可能。半袖商品のなかで、メンズ、レディース、あるいは「Ray BEAMS」などブランドで絞り込むこともできる。
「商品が検索でき、自分の担当するレーベル商品以外も含めて、全商品を全スタッフで共有できるようになりました。これは紙ベースでは絶対にできないことでした」と、便利さを語るのは商品統括本部 レディース本部 主任 デミルクスディレクターの目黒越子氏。
「膨大な紙カタログがiPad1台に集約されたことで、問い合わせにもスムーズにお答えでき、お客さまと商品を一緒に見ながら、スマートなご案内ができるようになりました」(同氏)。
各店舗で利用していたラインナップ資料はカラーコピーのため、洋服のディテールなどの細部は掴みづらかった部分もあるが、iPadでラインナップを見られるようになったことで、スタッフも自ら興味を持ち、納得したうえで顧客に案内できているという。
「接客の内容も個人差なく、質の向上したご案内ができている実感があるので、売り上げにもつながっていると思います。自分の感覚で説明するより、『ディテールのこういう部分がよくて、素材はこうです』というところまでスタッフ全員が案内できるようになりました」(同氏)
現在ではラインナップ説明会の時点で、新作の情報がラインナップサイトに展開される。事前に新作商品を確認して予備知識を持って参加することで、担当者からの説明がより深く理解できるようになった。
「共有のスピードが上がって時間差なく情報が伝わり、スタッフ全員が同じ理解度で商品の魅力をお客さまに伝えられるようになりました」と関根氏もその効果を実感している。 ラインナップサイトの制作・維持は店舗インフラも含め年間500万円。以前の印刷代と比較して単純に経費ダウンしただけでなく、それ以上の効果があるという。
同社にはVMD(Visual Merchandising)として、店舗間でのビジュアル面の不一致がないよう、イメージを統一する担当者を置いている。以前は店舗をデジカメで撮影し、データをPCに取り込み、メールの容量制限を気にしながら画像添付して報告、という作業をしていた。これがiPadを導入したことで、店舗の様子を撮影したその場でメール報告可能になった。
「移動中などPC環境のないところでもお店とやりとりができ、隙間時間を有効に使えて報告作業が楽になりました」と話すのは商品統括本部 レディース本部 主任 VMDの増田雅子氏。
また、「出張の際に『GoodReader』と『Dropbox』を使って売り上げ動向や、月に一度展開される店舗レイアウトの方向性を示したビジュアル計画書などをiPadに入れておくことで、いちいちプリントアウトする手間がなくなりました」(目黒氏)。
iPadが紙の代替として役立っていることがうかがえる。
現在、売上共有や報告業務のできるマネージャー支援ツールの導入が検討されている。全店舗の日次売上情報を閲覧・管理できるだけでなく、本部への報告や通達の受信、またスタッフとの連絡などコミュニケーションも円滑にするソリューションだ。
売上の共有、報告・連絡作業がPCを使わずiPadで可能になりマネージャーの負荷軽減が実現すれば、経営効率化にも寄与するだろう。現状FAXで行っている、各店舗状況の週次報告「ウィークリーレポート」も、今後はiPadで行えるようにし、全面的な紙の撤廃が検討されている。店頭での接客ツールとしてだけでなく、スタッフ全員が積極的にiPadを活用しているBEAMS。今後はソリューションを導入し、スタッフ部門の業務効率化を進めることで、その使い方はさらに進化を続けていく。
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