【連載】

事例で学ぶiPhone/iPad活用術

74 iPadによるシミュレータで営業スタイルを改革

  [2012/06/29]

訪問営業で最も改善したいのは「その件につきましてはいったん社に戻りまして…」というフレーズだろう。見積書を作成した後、再度顧客と面談の日時を調整しているうちに、成約までのリードタイムはズルズルと伸びていく。何とかならないものだろうか?

ALSOKグループの一員として岐阜県で警備事業を展開する日本ガードは、iPad上で警備システムのコントローラを疑似体験できる『セキュリティ・シミュレータ』開発し、営業スタッフに配布した。

iPadを導入する以前の営業スタイルは、一抱えもあるデモ機を顧客の事業所や自宅に持ち込んで、実機の使い勝手を体感してもらうというもの。デモ機自体が重くてかさばるうえ、デモ機の数が限られているため、他の営業とバッティングすれば、別の日程に調整しなくてはならなかった。デモ機と顧客の日程が合わない場合はパンフレットのみを使った提案になり、商品の訴求力が大幅に低下してしまう。さらに、デモ機の調子が悪くてうまく動作しないといったトラブルも抱えていた。

基盤据付型のデモ機(左)は、大型のショルダーバックに入れて持ち運ぶ(右)。顧客先では100V電源を借用して動作させる

デモ機からシミュレータアプリへの転換

機械警備部 EDP室 室長 臼田 実氏

そのため、同社の情報システム部門を統括する機械警備部 EDP室 室長 臼田 実氏のもとには、営業部から2つの要望が寄せられていた。

1つはホームセキュリティなどのデモ機をもっと簡便に持ち運びできるようにしてほしいもの。また、実機の部品を組み合わせているデモ機は、再生を始めたナレーション(「暗証番号を入力してください……」など)を途中で止めて最初から再生させるといった柔軟な操作はできないので、顧客の「そこをもう一度見せて」といった要望に素早く対応する必要もあった。

「iPadが発売された2年前(2010年5月)、これを使えば長年営業スタッフが抱えてきた懸案を解決できるとひらめきました」(臼田氏)。

早速iPad上で警備システムのコントローラを疑似体験できる『セキュリティ・シミュレータ』の開発に着手し、2カ月ほどで完成させた。このアプリをインストールした10台のiPadを営業スタッフが利用したところ、大幅な営業効率の向上を達成した。

その効果について、営業の最前線に立つ営業部 エリアマネージャー 名和茂信氏は次のように語る。

営業部 エリアマネージャー 名和茂信氏

「従来のデモ機をお客さま宅に持ち込んでいた頃は、準備に10分、後片付けに10分は費やしていました。このムダな時間をセキュリティ・シミュレータによって削減できた結果、お客さまとのコミュニケーションに、より多くの時間を使えるようになりました。サービス内容を詳しくご説明したり、お客さまのニーズをていねいに聞き出す余裕が生まれるなど、iPadの導入メリットを実感しています」(名和氏)。

セキュリティ・シミュレータでは、時間創出効果のほかにも、操作を途中で止めたり、素早く別の操作に移行したりといったアプリならではの柔軟性が生まれた。実機を使ったデモでは、ナレーションの再生など一度動開始した動作を途中で止められず、必要以上にデモに時間がかかっていたという。

「iPadの導入によって、デモに要する時間は40%ほど削減されました。また、デモ機の数が足りず、パンフレットのみで提案するといった事態も避けられるようになりました。セキュリティ・シミュレータを使うことで、パンフレットだけの提案に対してお客さまの食い付きは大違いです。最初の提案から、見積もり提出など次のステップに進む案件数は、1.5倍くらいに向上しています」と名和氏は満足げに語った。

iPadで再現されたコントロールパネルを操作すると警報音やナレーションが再生され、実機の操作感や使い勝手を体験できる。瞬時にデモを開始できるうえ、再生や動作の中断といった反応も軽快だ

いったん社に戻りまして……」を排除する『見積もりプランナー』

営業部から臼田氏のもとに寄せられていた2番目の要望は、見積書作成に要する時間の削減だ。従来は、顧客先で各種防犯センサーやコントローラなどの機器をリストアップしていたが、それらの価格を積算して正確な見積額を計算するためには、どうしても帰社後にパソコンを使って計算・帳票出力する必要があった。

顧客の事業所や自宅の間取りは千差万別。そこへ各種の防犯機器やサービスを配置してコストと防犯性能をバランスさせていくため、毎回フルカスタマイズの見積書にならざるを得ない。ほとんどの商品価格を記憶しているベテラン営業スタッフでさえ、顧客先では正確な見積額を出せなかったという。

「トータルで大体これくらいという価格はその場でお答えできます。しかし、後で見積書を出したときに値段が高くなっているとお客さまは不満に思われますから、安全マージンを取って少し高めの値段をお答えすることにしていました。そのため正式な見積書に対して10~20%ほどのズレが生じていました」(名和氏)。

最初に提出した見積書で商談が成立するのは半分以下。それ以外の商談では2度、3度と見積書を出し直さないとお客さまは満足してくれない。見積書作成のたびに「いったん社に戻りまして……」の文句を口にする営業スタッフの心中は、システム開発を担当する臼田氏にも痛いほど分かっていた。

「iPad発売後、セキュリティ・シミュレータの開発と同時に、見積もりを作成できるツール『見積もりプランナー』の開発を、ALSOKグループ会社の綜警情報システムに発注しました。このiPadアプリにより、お客さま先で何回でも見積もりをやり直せるようになり、成約までの訪問回数は30%以上削減できました」(臼田氏)。

見積もりプランナーの操作画面。アイテムと個数を選択していくと、自動的に積算金額を表示できる(画面中の金額は一部モザイク処理してあります)


セキュリティの確保は最重要課題

2つの営業支援アプリをインストールしたiPadは現在、営業スタッフ総勢21人のほぼ2人に1台の割合となる10台が導入されている。iPad配布の際には操作研修セミナーを2回ほど実施したことで、スムーズな導入が進んだという。もともと直感的な操作が特徴のiPadだから、利用する営業スタッフにとってもツールを覚える負荷は最小限で済んだ。

その一方、アプリの開発に当たって最も苦労したのはセキュリティの確保だった。セキュリティを提供する側の警備会社である以上、顧客データの紛失といった事故は絶対に許されない。そのため秘匿すべきデータをiPad上に残さない仕組みを実装するなど、セキュリティの確保には最大限の注意を払っている。

iPadの営業ツール活用も軌道に乗った同社では、新たなツール開発の要望が営業スタッフから臼田氏に上がってきているという。これまでは新規顧客の獲得にiPadを使ってきたのだが、今回は既存顧客へのサービス向上に関する要望だ。

同社の防犯システムを導入された顧客が自宅や事業所を増改築した場合、防犯システムも再設計しなければならない。既存顧客へ納入したシステム仕様は社内データベースに格納してあるので、それを客先でiPadに呼び出して商談できるようなアプリを開発してほしいというのだ。

「社内システムと連携させるiPadアプリは、従来よりセキュリティ対策のハードルは格段に高くなりますが、綜警情報システムとも連携を取って実現させたいと思っています」と臼田氏は意欲を見せた

綜警情報システム

「見積もりプランナー」を制作した綜警情報システムは、日本ガード同様ALSOKのグループ会社として1986年2月に設立。ALSOKの警備を担うガードセンターや金融系システムを中心に構築を担当。これまで培ったノウハウを活かし、さまざまなアイディアを形にし、社会に役立つ夢のあるIT会社を目指している。モバイル・ソリューションではセキュリティを重視した開発を得意とする。

綜警情報システム

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