【連載】
佐賀県議会は議員数38名(平成24年2月末現在)で、年4回の定例会と随時開催される臨時会、常任委員会および特別委員会など、県政に関する各種審議が行われている。各議員は県政の課題に基づきながら先進県の視察や制度の研究、現場調査などといった活動を行い、議会での審議を通して県としての意思を決定、執行機関に政策提案して県政へと反映させている。
その議員と議会を支える県議会事務局は、議会が円滑に運営されるよう多面的に議会活動を補佐する重要な役割を持つ。総務課・議事調査課・政務調査室の2課1室で組織され、35名のスタッフが日々さまざまな業務を行っている。その内容は、庶務全般から本会議に関する事務作業、議会活動に必要な調査、資料作成などが主なものとなる。
その事務局が作成した資料や、県執行部が提供する資料は、ほぼ毎日、各議員にその都度提供されている。その提供手段として、以前はFAXを利用して各議員の自宅または事務所に送信していた。38名全員への送付が完了するには1枚につき1時間ほどが必要で、さらに完了時には必ず事務局職員が送付終了を確認していたという。
佐賀県議会事務局 総務課長の岩瀬茂生氏は、「これだけの人数の議員さんにFAX送信を行うとなると、全員に送信完了するだけでもかなりの時間が必要です。最後のほうでは深夜にFAXが着信することになり、お叱りを受けることもしばしばでした」と苦労を語る。
また議員活動の中では出張なども多く、公務の視察があるときには自宅事務所のほか視察先のホテルへも送付というような二重の手間もかかっていた。不在でFAXを受け取れなかった場合は、情報の一般公表後に初めて議員がその内容を知るといったこともあり、各議員間での情報提供の時間差が問題視されているところでもあった。
「きっかけは2011年の夏、若手議員さんの提案からでした。数人の議員がすでに個人でiPadを所有しており、その利便性を認知していました。そのためFAXによる情報提供に対して、『情報をタイムリーに入手したい、いつでもどこにいても閲覧したい。そのためにはこうすれば便利になる』という考えがあったのです」と岩瀬氏は導入の背景を語る。この要望を受けて、議会事務局と県執行部からの情報提供をすべてメールに切り替え、iPadで受信してもらうという方針が固められた。
事務局では導入に向けて、必要な経費をどのように負担するかを検討した。過去に議員一人一台のPC所持が検討されたが、限りある県財政からの負担は不可能と判断された。だが今回は、iPad本体の実質負担がなくなるキャンペーンを利用し、会派または個人名義での所有とすることで導入に向けて踏み出すこととなった。また、政務調査のみに利用を限定することで、月額通信費を各会派に支給される政務調査費から支払うという取り決めも行って、導入が大きく前進することになる。
メールによる資料配布方法のメリットを理解した議員全員の賛成を得て、2011年10月にすべての議員が導入を完了。
「議員の皆さんも、FAXでの資料配布に少なからず不便を感じていたと思います。iPad導入と同時に資料をPDF化したメールでの送信に切り替えました。ただ、当初は念のため従来のFAXと、iPadへのメール送信の2通りの方法で情報提供を行っていました」(岩瀬氏)
議員の使いこなしに不安はなかったのだろうか。
「iPadの使い方については、皆さんに一度だけ、県の情報課担当職員からの基本操作の説明を行ったのみです。直感的な操作が可能なため、すべての議員さんが早期に使いこなせるようになりました。そのため、2012年1月からはFAX送付を完全に廃止し、メールのみの送信へと移行しました。」(岩瀬氏)
実際の利用シーンについては、以下の動画を参照。
導入後、どのような効果が表れたのだろうか?
「FAX送信はほぼ毎日、多いときには1日に2通3通ということもありましたので、通信費や用紙代なども含めて、年間で50~100万円ほどの経費がかかっていました。それが現在ではゼロになっています。また、その送信作業に費やしていた職員の時間が削減され、送信完了確認などのストレスも解消されたので、費用対効果はそれ以上に大きいと思います」と岩瀬氏。
議員に届ける情報の質も向上した。FAXではモノクロでかつ画質が悪くて分からなかった点も、メールならば拡大も可能なPDFや写真データなどで確認できるため、より細かで正確な情報共有が可能になったという。
また、議員の情報活用もより積極化した。
「今まで議員さんは送られてきたFAXを見るだけという受身の立場でしたが、iPadによって情報を発信したり能動的に入手できる立場に変わったのです。例えば視察先で県民の皆さんからの質問にお答えするとき、すぐに事務局へ問い合わせをして必要な資料をメールで送信してもらうといったことをいつでもできるようになりました」(岩瀬氏)
現地視察では、状況記録や、緊急時にはカメラで撮影した画像をすぐに執行部に送り、即時の対応を求めることもあるという。
「以前はまず電話で報告し、デジカメで撮影したものをいったん事務所に戻ってパソコンから送信といった手順を踏んでいました。このタイムラグが解消されています」(岩瀬氏)
利用者である議員の江口善紀氏は、iPadの利便性を次のように語る。
「毎日のように何枚ものFAXが届いていたのですが、紙のままだと散逸するおそれがありました。それがすべてiPadの中に納まりましたので、後からの内容確認や検索など管理も格段と楽になりました。Web上の調べ物から重要と思われる部分をEvernoteにコピーして自分用のデータベースとして保存したり、議案書や予算書など大量の紙資料も高速スキャナで取り込んで『iBook』に保管し、いつでも閲覧・確認できるようにしています。また視察業務においても、『マップ』で現場の位置関係を正確に把握できる上、『カメラ』で現場の写真や動画も撮影できますから、その後の報告なども訴求力や相手の理解度が格段に上がっています。さらに、同じ会派の議員は全員メールアドレスを登録してありますので、こうした情報や書類データの共有も瞬時に、かつ手軽になりました」(江口氏)
現在、議会開催中の本会議場や委員会へのiPadの持ち込み・利用は認められていない。岩瀬氏は、今後もより多くのシーンでiPadを活用したいと考えている。
「議会では原則利用禁止ですが、議会と並行して行われる勉強会では分厚い紙の資料が利用されているので、こうしたものもメールで配布できればと思います。ただ、メールの添付容量には制限があるため、将来的にはクラウド型のファイル共有スペースなどに配置して全員で閲覧できるようになればと考えています。そうすればほぼすべての資料がペーパーレス化でき、さらなる経費削減にもつながるでしょう」(岩瀬氏)
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