【連載】

事例で学ぶiPhone/iPad活用術

60 桜新町アーバンクリニックが在宅医療のネットワークにiPhoneを活用(動画付)

エースラッシュ  [2012/04/27]

交流用大学ノートをクラウドへ!

桜新町アーバンクリニックは、東京都世田谷区でファミリードクターとして活動するクリニックで、往診を中心とした医療活動を行っている。姉妹クリニックである用賀アーバンクリニックとともに、家族全員の体調不良全般を診断するかかりつけ医として親しまれており、その中でも大きな特徴となっているのが、デイサービスや在宅医療といった介護の現場に密着した医療の提供だ。

在宅医療では、医師や看護師のほかにも、薬剤師やケアマネージャー、ヘルパー、リハビリ、デイサービス、患者さんによっては歯科も関わってくる。そのため、お互いの連絡方法が問題になる。

地域包括ケアを支えるプレイヤー

桜新町アーバンクリニック 院長 遠矢純一郎氏

「これまでお互いの連絡方法は患者宅に置かれている大学ノートが主流で、ちょっと確認したいことがあっても、患者さんの家までノートを見に行かなければなりませんでした。ノートへの書き込みとカルテ作成で、内容的には同じものを複数回記載する必要もあり、ムダが多い状態でした」と語るのは、院長の遠矢純一郎氏だ。

1人の患者に携わるプレイヤーも多いが、同じクリニックの患者でも、ケアマネージャーやヘルパーなど、全く別の事業者を利用している点も情報共有を難しくしていた。

医師が考案した在宅医療支援システム「EIR」

そこで開発されたのが、在宅医療支援システム「EIR」(エイル)だ。EIRは、訪問メモ登録、訪問看護指示書、訪問看護報告書、スケジュール管理、お知らせなどの機能を備え、従来、大学ノートに書き込んでいた患者の状態を伝えるためのメモ書きがクラウド上に保存され、関係者はいつでもデータを参照できる。訪問メモ登録には、写真を撮って登録することもでき、より的確に症状を伝えることができる。また、登録した際に、一斉に関係者にメールを送信し、データが更新されたことを知らせることも可能だ。iPhoneやiPadは「EIR」への登録作業と閲覧に活用されている。

「EIR」の特徴

実は「EIR」は遠矢氏自身が考案したものだ。

「こういうものが欲しい、という設計は私が看護師と相談しながら行いました。看護師の中に家族がITシステムの開発を行っている人がいたので、その方に作ってもらった形です。元々グループウェアを作っていた会社なので、比較的スムーズに開発してもらうことができました」と遠矢氏は語る。

「データは指定メールアドレスに送信するだけで入力できるので、当クリニックでは電子カルテ入力時にボタンを押すだけでメールが送信され、EIRにも自動登録されるシステムになっています」と遠矢氏。

EIRへのデータは、基本的に往診を終え、クリニックに戻った後の入力になるが、急を要する場合は、看護師が移動中の車内からiPhoneで登録することもあるという。登録時には医師や看護師、薬剤師といった役職に応じて必要なフォームが表示され、入力された情報は、患者を含めた関係者全員が全て閲覧できる。

往診中の車内でも利用

個人情報を扱うシステムであるため、セキュリティにも気をつかっている。通信はSSLで暗号化し、ログインにはIDとパスワードが必要だ。そして、IDには端末の固有番号と個人認証が紐づけられている。データはソフトバンクが提供するクラウドサービス「ホワイトクラウド」に保管される。

「利用にあたっては患者さん一人一人に許可をいただき、希望があれば患者さんやご家族にも閲覧アカウントを提供しています」と遠矢氏は語る。

「EIR」のiPhone画面

既存アプリ1,750円分で大きく変わる在宅医療

桜新町アーバンクリニックでは、iPhoneをEIRの入力・閲覧以外にも広く活用している。例えば、往診スケジュールは患者さんの都合や病状によって日々変化する往診予定を、Google社が提供するWebサービスであるGoogleカレンダーで管理している。これにより事務所のパソコンやスタッフ各人が持つiPhoneのスケジュールが自動的に同期され、最新の予定がどこでも判るようになっている。具体的なEIRの活用方法は、以下の動画が参考になる。


そのほか、地図確認、患部撮影などもiPhoneで行い、移動中は頻繁にメールもする。EIRに誰かが書き込むと関係者にメールが配信されるが、特に重要な場合はフラグが立てられるため、重要メールだけは迅速に確認する必要があるのだ。

また、往診先で薬や医療資材を使った場合、Googleドキュメントで管理されている在庫情報をチェックし、薬剤が足りなくなりそうになると、資材卸が用意している発注用アプリから即座に追加発注が行われる。患者の生年月日から年齢を計算することも重要だが、これにもアプリを利用する。

在宅医の1日

手書きの処方箋を薬局に送付する際も、カメラ撮影したものを補正してFAXで送信するが、このときもiPhoneアプリが活用されている。

おもしろいところとしては、簡単なお絵かきアプリも使われている。これは患者にさまざまな説明を行うために利用される。これらのほかにもいくつかのアプリが利用されているが、遠矢氏が業務に利用しているアプリ代金の合計は、わずか1,750円ということだ。

遠矢氏が活用するアプリ

「数百円のアプリを集めるだけでいろいろなことができます。EIRの利用料金もかなり安価です。従来は医療系システム開発となると数千万円の予算が必要な上に、実際には使い続けられないものが多いという問題がありましたが、EIRならば誰でも使えるのではないでしょうか」と遠矢氏は語る。

カルテの記述にもiPhoneを利用する。以前は往診を終えてからカルテの入力をする必要があったが、現在はiPhoneのボイスレコーダーを利用して移動中に必要事項を録音し、メールに添付して送付。受け取った看護師がカルテに入力するという仕組みを採用している。

「以前は事務処理の時間を考えると往診にかけられる時間が6時間程度でしたが、手間が減ったために8時間ほど往診ができるようになりました。訪問件数も増え、これまで以上にじっくり診察できるようになったと感じています。また、iPadを利用して包帯の巻き方を指導した動画を撮影し、iPadごと1週間患者さんの家に置いておくことで、患者の家族やほかの医療メンバーが包帯をうまく巻けるようになったということもありました」と遠矢氏。

iPadを利用して包帯の巻き方を指導

EIRの有用さが広く知られるようになり、利用者が増えることが望まれるが、コストの問題は残る。現在はスタートしたばかりのシステムでもあり、各プレイヤー個々には料金が発生しない仕組みになっているが、これが大きく広がった場合にはアカウントごとなどの料金も設定される可能性もある。

「1アカウント100円となった時に使ってもらえるかは疑問です。それくらい介護の現場は厳しい環境にあります。実は現在は郵便やFAXに医療報酬がつくのですが、メールなどを使った場合はつきません。ITにも医療報酬がつくようになれば、こうした有用なシステムが広く使われるようになるのではないでしょうか」と遠矢氏は介護の現場が抱える問題も指摘した。

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