【連載】

事例で学ぶiPhone/iPad活用術

55 iPhoneを利用した遠隔地画像閲覧システムで救急診療を迅速化(動画付)

  [2012/03/30]

社会医療法人医真会 医真会八尾総合病院(大阪府)では、脳神経外科の医師がiPhoneを活用し、救急患者への対応時間短縮を実現した。

1988年(昭和63年)設立の社会医療法人医真会 医真会八尾総合病院は、大阪市に隣接した立地で、総合病院のほかリハビリテーション病院や介護老人保健施設などを併設して、地域の人々に最良のヘルスケアを提供するように努めている。

社会医療法人医真会 医真会八尾総合病院(大阪府)

医真会八尾総合病院 副院長 脳神経センター部長 黒川真臣氏

副院長で脳神経センター部長も務める黒川真臣氏は、現在の医療現場における問題点を踏まえて、次のように指摘する。

「医師や看護師の減少などによる慢性的な人手不足が、医療崩壊を引き起こしています。そのため、人手を効率的に配置・活用することが、適切な医療を提供するために必須の条件となっています」(黒川氏)

特に黒川氏の専門とする脳神経外科では、その6割から7割が病院に搬送されてくる救急患者だ。

「頭部外傷や脳卒中などは一刻を争うもので、しかもそれらは場所や時間を問わずに発症します。われわれ医師は病院外、例えば外出時や自宅にいるときにも、こうした患者さんが搬送されてきた時には迅速に対応しなければなりません」(黒川氏)

休日や夜間などに救急搬送があった場合、従来は当直の医師(脳外科の専門ではない他科の医師の場合も含む)から電話で連絡を受け、その都度専門医が病院へ駆けつけて診断を行い、経過観察や時には緊急手術などの対応を行っていた。

「当直医による電話の説明だけでは知り得ない情報もあるため、専門の医師が病院へ行って直接診断しなければなりませんでした。週に4~5回はこのような夜間呼び出しが発生し、その度に病院に出向いていたのです」(黒川氏)

診断の結果、手術など緊急の対応が必要ないと判断されれば、駆けつけた専門医は再び帰途につくが、夜間の呼び出しであれば翌日の診療や手術にも差し障りが出てくることもある。

医真会本部 企画部門 情報システム管理担当 主任 藤林賢一氏

「専門医にこのような負担をかけずに、診断が素早くできるシステムはないかと探していました」と、企画部門 情報システム管理担当 主任である藤林賢一氏は振り返る。

そこで出会ったのが、トライフォーによるiPhoneを利用した遠隔地画像閲覧システム「ProRad DiVa」だ。これは、CTやMRIなどの医用画像を、遠隔地からセキュアな環境でiPhone/iPadによって閲覧できるシステムである。

「まず、解像度の高さに驚きました。また、3Gの回線でも200枚程度をひとまとまりとするMRI画像の送信が2~3分ほどで可能です。iPhoneの固有番号による接続確認、画像から個人情報を一切取り除いた匿名化、さらに、サーバへ参照しているだけで各端末には画像が残らないなど、医療現場で最も懸念されるセキュリティの問題についても対策がなされているため、これなら十分に利用できるのではないかということで、まずは試験的に導入しました」(藤林氏)

実は以前にも、こうした画像転送のシステムを検討したことがあったという。しかし、「画像の解像度が低かったのと、通信速度が遅かったため送信できる画像の枚数に制限がありました。そのため、何十枚もの撮影画像から症状を見て処置を決定するといった診断の基準となる、「キー画像」を見極める目が必要でした。当然そこでも専門性が要求されるため、根本的な解決には至らなかったのです」と、藤林氏は当時の苦労を語る。

具体的なiPhoneの活用方法については、以下の動画を参照してほしい。


病院外でも院内と同等品質の医療画像が閲覧可能となり、手術開始も迅速化

本格稼働は2010年9月から始まった。脳神経センター(脳神経外科と脳血管内治療科)の医師5名全員が利用している。

医真会八尾総合病院 放射線科・脳血管内治療科部長 高山勝年氏

同病院でカテーテル治療を主に専門とする脳血管内治療科部長の高山勝年氏も、「脳外科の場合、手術を急ぐかどうかは医療画像診断に負うところが多大です。直径何センチといった出血の度合いや患者の状態がどうかといったことを複合的に判断しながら予後の影響なども考慮しつつ、術式やそれをいつ行うかを決定する必要があるのです」と、その煩雑な意思決定を説明する。

「iPhoneに転送された画像は、院内で撮影画像を見るのとほぼ遜色ないほど精細です。ということは、病院にいても外出先であっても、同じ判断を同じ時間で下すことができるのです。CTやMRIなどの画像診断の専門医の私の目から見ても、iPhoneの画質およびサイズでもまったく問題ないと太鼓判を押せます」(高山氏)。

このような専門医師による判断が迅速に行われるようになり、その結果、手術までの時間が短くなった。

「病院に行ってCTやMRIなどの画像を確認してからでないとできなかった判断が、画像が送られてきた時点で判断でき、手術の決定も可能になりました。画像を診た瞬間から診療が始まっているのです」(高山氏)

手術ごとに異なる機器を準備する「機械だし」も事前に可能となり、必要な看護師の配置や麻酔科の医師を呼ぶのも迅速化した。

「従来は医師が病院に到着するまでに30~60分、採血の結果が出るまでに50分、そこから術式を決めて機械だしをして手術を開始していました。今ではこれらの時間にも対応が始まっているので、手術の開始まで1時間ほどは短縮されたのではないでしょうか」(黒川氏)

また、症例によっては専門医同士でディスカッションを行うことがある。

「送られてきた画像を医師同士が見ながらディスカッションをしなければならないので、iPadではなくデータ通信をしながら通話のできるソフトバンクのiPhoneを選択しました。そもそも、医師の持ち物は極力少ないほうが効率的なので、画像閲覧用の端末を別に持つという選択は、はじめからありませんでした」(藤林氏)。

「口頭での説明では判断が難しい場合もありました。今はiPhoneに送られた画像を複数の医師が読影して、判断やアドバイスなどにより方針が決定できます。つまり、質の高い医療を提供できるということなのです」(高山氏)

実際の運用は、搬送された患者のCT画像やMRI画像を放射線技師が撮影し、画像転送のためのボタンを2回クリックするだけで、一斉に指定された医師のiPhoneに通知が送られる。

「導入に際しては放射線科との折衝がありましたが、クリック2回で何枚でも画像を送信できるので、同科で納得感を得ることができました。また、実際に利用する医師も、iPhoneを1~2回触るだけで直感的に操作を覚えることができたため、運用はまったく問題ありませんでした」(藤林氏)

搬送された患者のCT画像やMRI画像を、いつでもどこでもiPhone上で高精細なまま確認できる

夜間呼び出しの回数も減少し、医師の心理的負担も軽減

「われわれ医師は24時間365日、首に輪をかけられているような緊張感を常に感じています。それがこのiPhoneのおかげでいくらか和らいだ気がします。病院から離れられなかったのが、気楽に外出できるようになり、しかも少し遠くにいけるようになった」と黒川氏は心情を明かす。

iPad/iPhoneによる医療画像の転送で、週4~5回の夜間呼び出しが1~2回に軽減されたという。また、こういった呼び出しにはドクターフィー(労働対価)が発生するため、病院のコスト削減にも寄与しているという。

そのほか、医真会では、総合病院で検査した画像や資料などを翌日のシャトル便で関連グループの各施設へ配送している。今後はこれをiPadなどに置き換えて、リアルタイムなデータの共有を進めたいと黒川氏。

「レントゲンの設備がないところでも画像を見せながら診断できるようになります。患者さんの理解がより進むので、医療の質を高めることにもつながるでしょう。また、医師同士のカンファレンスのほか、手術前のシミュレーションなどにも応用できるので、もっと多くの職種のスタッフが参画するグループ診療の仕組みづくりを進めたいですね」(黒川氏)

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