【連載】
足利銀行は1895年に創業した、栃木県を中心に活動する地方銀行だ。「地域と共に生きる」を経営姿勢としており、本支店99、出張所48の147拠点を展開している。その足利銀行では、投資信託の商品説明にiPadを活用している。
同行では、モーニングスターのiPadアプリケーション「投資信託INDEX」の提供が開始された2010年11月からiPad導入の検討を始めた。投資信託INDEXは、金融機関向けの販促ツールだ。足利銀行では、2011年2月、投資信託営業の販促用に36台のiPadを導入し、同年の3月1日から利用を開始している。
「常時取り扱っている投資信託商品は50種類ほどで、すでに販売を終了している商品を含めると70種類以上が存在します。お客様にすべての資料を広げてご紹介するのは難しく、外回りの訪問営業はすべての資料を持ち歩くことができないため、売れ筋のものや担当者が特に勧めるものに絞り込んで資料を扱っていました」とiPadの導入の背景を語るのは、コンサルティング営業室課長の田部井義康氏だ。
iPadは一部本部でも使っているほか、コンサルティング営業室と支店業務を兼務している27人に貸与されている。この27人は、投資信託を扱う担当者の中でも地域リーダーとなる、チーフCA・エリアFPと呼ばれる人々だ。投資信託業務に従事する行員は、全体で250人ほどいるという。
iPadと「投資信託INDEX」の導入は、現場で高く評価されている。外回りで利用しているのは7名程度にとどまるが、荷物が非常にコンパクトになったと好評だ。また、「投資信託INDEX」の表示が非常にわかりやすいという声も多い。
部分的な拡大や長期的な推移を表示できるチャートは、既存顧客への報告に利用されるとともに、新規営業にも活用される。特に複数商品のチャートを同時に表示する比較機能は、商品特性や分散投資の効果などが伝えやすい。
「印象だけでなく、数値がしっかりと見られることが効果的です。お客様との会話の中で出てきた他行の取り扱いファンドについてもネットですぐに調べ、自行商品と比較することもできます。投資信託のお客様はご年配の方が多いのですが、文字の拡大表示もできますので、興味を持ってもらえる機会が増えました」と、田部井氏はその効果を語る。
過去の販売実績も、店舗とネット販売を分けて確認することができ、ネットと店頭では人気商品が違うことや、実際に成果の出ている商品と人気商品が必ずしも一致しないことなども提示しやすい。これまでの紙のパンフレットでは、漠然としたイメージでしか伝えられなかったことが、iPadであればしっかりとビジュアルで提案できるため、画面を見せるだけで多くの情報を提供できるのだ。
導入当時、担当者が集まった会議で効果的な使い方や成功事例の報告なども行い、ナレッジの共有も図られた。同じチャート比較でも商品によって短期的な画面を見せた方が効果的な場合と、長期的なものを見せた方が効果的な場合がある。そうした商品ごとに効果的なチャートの見せ方、比較方法などのノウハウを行員間で共有することで、大きな効果が生み出されたという。
足利銀行ではiPadの導入による効果測定を独自に行っているが、導入当初の目標を上回る結果を達成しており、効果の大きさを裏付けている。
「導入にあたって期待したのは、1日あたりの面談件数増加、1件あたりのロットの増大、手数料収益の増加、面談数に対する販売率の向上、新規獲得件数の増大でした。このうち、面談件数を除いたすべての項目で、iPad利用者の前年比伸び率が過去最高になりました。もちろん、iPadを利用していないメンバーと比較しても、大きな伸びを見せています」と田部井氏は成果の大きさを語る。
特に重点的にiPadが配布されているのが、足利銀行において最も歴史のある宇都宮支店がリニューアルした、宇都宮支店「あしぎんプラザ宇都宮」だ。ここは他支店から投資信託の顧客が集められる、いわばエース店で、他支店ではiPad利用者が基本的に1支店1名であるのに対して、ここでは5人の行員が利用している。
「5人全員が過去実績と比較して、すべての項目で向上しました。リアルタイムにその場で情報提供ができることや、比較できるのがよかったと思います。運用実績に対するトークも、単なる語りではなくしっかりと裏付けを見せながらできるので、とても効果的です」と語るのは、宇都宮支店支店長代理の柳田智則氏だ。
iPad利用者の1件あたりの契約ロットは、非利用者に比べ約3.5倍となっており、大きく差をつけている。
「今は限られたメンバー以外は、これまで通りパンフレットや本部が作成した実績資料を利用しています。投資信託INDEXに比べると長期的な資料がありませんし、不利なのは確かです。自分も使いたいという声がたくさん集まっています」と田部井氏。
顧客アンケートでも、135名のうち112名がiPadを利用した説明がわかりやすかったと回答。また、111名中83名が商品に興味を持ったと回答している。高齢者を多く含んだ顧客からも、高い評価を得ていることがわかる。
初期導入コストについても、当初の計画どおり回収できたという。
「iPad導入の立案当時は漠然と想像し、希望を書くという状況だったわけですが、実際に運用してから効果測定を行ったところ、提案書どおり半年で初期コストを回収しています。経営層への報告書の作成も企画書どおりだったので、非常に簡単でした」と田部井氏は語る。
現在はメールやアプリのインストールを禁止し、プリインストールアプリの中でも業務に使われないものは「利用不可」と名付けたフォルダに格納して利用を禁止している。使われるのは「投資信託INDEX」とブラウザのみという状況だ。
「メモを含めて顧客情報を入力させないことが、セキュリティです。端末紛失時にはソフトバンクモバイルさんのほうで利用を止めてもらうことになっています。本当はインターネットのニュース等、必要なページ以外は見られないようにしたいのですが、それは現状ではできていません」と田部井氏。基本的に流出して困る情報が入っていないことから、現在は特別なセキュリティ設定は行われていない。
しかし、今後、行内での利用範囲を拡大することも考えられており、それに伴ってMDM等の導入も検討されることになりそうだ。コンサルティング営業室でも、商品説明だけでなく約定などもiPadに取り込みたいという考えがあるという。
「営業部門などでもこうしたモバイル端末を活用したいという声があります。現段階ではそちらで何を導入するかは決まっていませんが、先行してコンサルティング営業室でだけiPadを全店展開してしまうわけにはいきません。iPadの乗り換え期限が来る2012年2月までには決定して欲しいと伝えてあるので、遅くともそのタイミングではなんらかの動きがとれるはずです」と田部井氏は語った。
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