iPhoneは性能を競うよりユーザーの使いやすさを追求

2015年9月25日に発売された最新世代となるiPhone 6sについて、清水氏は「LTE Cat.6対応で300Mbpsという通信速度でそれなりの高性能だが、決して世界最高スペックを競ってはいない。むしろユーザーの使いやすさを狙っている。6sよりも高いスペックのスマホはすでに中国で何種類も出回っている。6sに搭載されたカメラ(ソニー製)の画素数は12Mであるが、他社はこの画素数をすでに6年も前に実現している。しかし、アップルは画素競争はせずに総合的な使いやすさを優先させている。たしかにこのカメラは使いやすい。初代iPhone搭載カメラの画素数は2Mで、それが3M、5M、8Mと徐々に増えて、今日の12Mに至ったが、他社よりスローペースだ」と、必ずしも最新スペックを重視していないことを強調したほか、「ディスプレイも業界最高解像度と言うわけではないが、これもカメラと同様な理由による。6sから、あらたに感圧タッチパネルを採用し、従来のタッチに加えて『押しこむ』、『強く押しこむ』機能を追加した点が目新しい。しかし、他社も今後似たような機能を搭載してくるだろう」と、新機能といっても、他社が真似できない技術ではないとした。

iPhone 6sを分解してみると…

テカナリエがiPhone 6sを分解して取り出したプリント基板の写真を図6に示すが、PC用基板をはるかに上回る数の端子が繋がっている。「スマホで一番進化したモノは何かと問われれば、それは端子だと答えることにしている」と清水氏は言う。

図6 iPhone 6sの基板端子の様子 (出所:テカナリエ)

iPhone 6sに搭載されている主要半導体チップの系統図を図7に示す。左側が通信用(Wi-Fi、Bluetooth、NFC、広域無線通信)、中央がプロセッサとその電源管理用、右側がセンサを示す。iPhone 6sには今考えられる通信技術はすべて集約されている。半導体群の中で一番高額な(おそらく40ドル程度)プロセッサはアップル製。それを効率良く使うための電源管理チップは英国Dialog Semiconductor製だ。

図7 iPhone 6sに搭載されている主要半導体チップの系統図 (出所:テカナリエ)

iPhone 6sに搭載されている半導体チップの1/3はセンサチップで、センサの数は、図5に示すように、iPhoneの進化とともにどんどん増えている。

図7に示したように、iPhone 6sで、イメージセンサは日本製だが、他の主要なセンサは欧米製で、独BOSCHの健闘が目立つ。6sから圧力センサ(BOSCH製)が新たに搭載された。

iPhone 6と6sは半導体に大差あり

初代iPhoneから6sに至る8年間に、iPhoneに搭載された主要半導体チップがどの半導体企業から供給されたかを、図8と図9に示す。iPhone 6と6sには見かけ上大きな差は無いと言われており、このため6sの売れ行きがいまいちだが、「半導体チップに限れば大幅に変更されている。iPhone 6ではA8プロセッサとオランダNXPのセンサハブコントローラが搭載されていたが、6sでは、アプリケーションプロセッサにセンサハブコントローラが吸収され、A9プロセッサとして1チップ化されている。iPhone 6のタッチスクリーンコントロラ(Broadcom製)と指紋センサ(NXP製)の2チップが6sでは1チップ化しており、サプライヤもAnalog Devicesに替わっている、iPhone 6と6sでオーディオ・コーデック用(Cirrus Logic製)と電源管理用(Dialog)チップの製造元に変化は無いが、製品番号およびサイズが異なるチップが搭載されている」(清水氏)と、内部が大きく異なっていることを披露。

図8 iPhone用プロセッサおよび周辺チップのサプライヤの変遷 (出所:テカナリエ)

図9 iPhoneのパネル周辺チップのサプライヤの変遷 (出所:テカナリエ)

さらに「残念ながら、iPhoneで使われている価格の高い半導体チップはほとんど欧米製だ。『日本の電子部品メーカーがスマホで大儲け』と言う新聞記事をよく見かけるが、決して高価な部品で儲けさせてもらってはいない」と日本勢の問題点を指摘する。さらに同氏は、「アップルは同じプロセッサをPC、iPhone、iPad、iPodで使いまわしてスケールメリットを生かして効率良く使っているが、日本勢、例えばソニー製品で使われているプロセッサは、スマホはQualcomm、プレイステーションはAMD、ウォークマンは機種により米国Texas InstrumentsだったりFreescale Semiconductorだったり、通信スピーカーは台湾ISSC、スマートウォッチはSTMicroelectronics、多機能リモコンは中国Dragonchip、オーディオアンプはAnalog Devicesという具合にバラバラだ」と、テカナリエの分解結果をもとに指摘した。他の日本勢も同じようなものだと言う。