HEMSとスマートグリッド

IoT実用例の1つが「HEMS(Home Energy Management System)」です。

一般的に「家庭で電力を管理する」と聞くと、「電気を使いすぎないように省エネを心掛ける」とか「電気の使いすぎで、ブレーカーが落ちてしまわないよう気を付ける」といったことを連想するでしょう。

しかし最近では、太陽光発電のソーラーパネルを設置し、蓄電機能を備えたハイブリッド車や電気自動車を利用する家庭も増えています。こうした家庭の住宅では、「どれほど発電したか」「どれほどの電気を消費しているのか」「売電できるか」などをリアルタイムに把握して制御する必要があります。「HEMS」はこれらの電気を効率よく運用するシステムです。

HEMSでは、ソーラーパネルなどの電力を発生する装置や電力を消費する装置にセンサーを取り付け、リアルタイムで電力を測定・制御します。これだけでは住宅内に閉じたシステムですが、通信網を介して情報をクラウドへ送信することで、家族がスマートフォンなどから電力消費量を見ることができるようになります。この見える化によって、無駄な電力消費を把握できたり、消し忘れた電灯やエアコンなどがあることを知ることができたりします。

さらに、各家庭で情報を見るだけではなく、そこから送られてくる大量の電力データに基づいて、電力会社がリアルタイムに電力の需要予測や発電予測を行い、それに基づいて安定した電力供給や効率的な電力利用を各家庭に働き掛けることができるようになります。この技術は次世代送信網の「スマートグリッド」と呼ばれ、国内外で取り組みが進められています。

このHEMSへの取り組みは以前から行われていましたが、特に東日本大震災以降、電力の利用効率化や省電力化のために注目が高まってきました。さらに2016年に行われる電力小売りの自由化を目指し、さらなる注目が集まっています。日本政府もグリーン政策大綱においてHEMSを推進すること、2030年を目標に普及させることを表明しています。

HEMS (Home Energy Management System)

スマートホーム

IoTを電力だけではなく、宅内にある家電まで広げるとスマートホームと言われる事例になります。例えば、家電を通信網に接続した場合、外出先から電源の消し忘れに気付いて電源を切ることができます。また「ジオフェンシング」と呼ばれる技術を用いると、自宅の一定距離以内に近づくと自動的にエアコンの電源を入れるといったことが可能になります。

さらに、家電のみならず、明るさや色をスマートフォンから変えられる電球や鍵をシェアして入退室記録ができるスマートロック、温度計や湿度計などのさまざまなモノが情報網につなげることが始まっています。このように多くのモノが高機能化され、情報網につながり始めているのは現在のスマートホームの特徴でしょう。

これらの用途でキーとなるのはやはり「スマートフォン」です。組み合わせると、室内気温が高くかつ帰宅10分前であればエアコンを自動的につけるという動きができますし、誰も家におらず帰宅1分前になったら宅内の灯りをつけるといったことも可能になります。一つ一つのモノはシンプルで小さくても、通信網を介してリアルタイムに情報を送受信して連携させることで、より便利なことが実現できるのです。

現在は手動で設定したモノ同士の連携にとどまりますが、今後は集められた膨大な情報から、人々が行う動きを学習して「連携が自動化される」「消費電力が低くなるように温度設定を自動的に行う」「ロボット掃除機が掃除経路を学習して効果的な掃除経路を見つけ出す」など、人々が意識することなく快適な生活が送ることができるようになると想定されます。

ヘルスケアと見守りサービス

人体のバイタル情報や、生活のデータを集めて活用するIoT事例がヘルスケアです。

心拍数や歩数、消費カロリー、睡眠状態といった1日のバイタルデータを集める活動量計は、そのデータに基づいて食生活や運動などの生活改善に役立てます。また、歯の磨き方のデータを集めて改善を指示してくれるスマート歯ブラシや、睡眠状態を監視してくれるベッドのマットレス、食べる速度を測るフォーク、体重のかけ方などの走り方をチェックする靴の中敷きや靴下など、身の回りのさまざまな生活用品がIoT化され始めています。

現在は、これらのモノはスマートフォンとBLEで接続され、直接スマートフォン上でデータを確認したり、クラウド上へデータを保存したりすることが主流ですが、これらについても将来的には集められたデータから、より的確な改善を自動的に提案、また医療に役立てるようになるものと想定されます。

また、生活データを集めて通信網でリアルタイムに送受信して役に立つのが、見守りサービスです。

例えば、ご高齢者が日常的に使用するポットなどの電気製品、開け閉めするドアにセンサーを取り付けておき、遠隔からその状態を監視し一定時間利用がないなど異常を検知すると通知します。

また、認知症の方の徘徊や子供の迷子においても、充電不要で長期間動作可能なビーコン発信機と多くの方の持つスマートフォンでのビーコン検知データを用いて、早期に場所を特定する検証が行われています。これらについても大量に収集したデータを処理することで、より正確な異常判断や位置特定が可能になることが期待されます。

身の回りのモノとヘルスケア

著者プロフィール

小森田 賢史(こもりた さとし)
KDDI 商品・CS統括本部 商品企画部

モバイル通信(SIP, IMS)の高度化に関する研究開発、IEEE標準化活動を経て、オープンソース系OSを活用したスマートフォン端末の企画開発、IoT機器・プラットフォームの企画開発、新規商品企画を担当する。