IoTという考え方

近年、IoT(Internet of Things)という言葉をよく耳にするようになりました。

日本政府が出す「日本再興戦略」改訂2015でも、ビッグデータやAI(人工知能)と並び、ビジネスや社会そのもののあり方を根底から揺るがす改革の要因として扱われています。

IoTは「モノのインターネット」と呼ばれます。

1990年代に世間へ広がり始めたインターネットは、通信網を介し、人々が家に居ながらにしてさまざまな情報を収集できるようになりました。買い物を行い、メールやチャットでコミュニケーションを図り、これが新たな価値を次々と生み出し、生活がとても便利になりました。

現在、これと同じことが"モノ"にも起ころうとしています。今までただの"モノ"でしかなかった"物"が通信網につながり、情報を収集・発信・処理するようになります。この変革によって、これまで人力で処理していた膨大な情報を、リアルタイムで"ビッグデータ処理"できるようになるのです。さまざまな処理が効率化・自動化されて、新たな価値を生み出します。

IoTとは、ただモノが通信網につながることを指すのでなく、そうした考え方も示しているのです。ただ、類似した考え方は、IoTという言葉が台頭する以前からあったことをご存じでしょうか?

代表的なものはM2M(Machine to Machine)です。

M2Mは、モノとモノ同士が人の介在なく情報をやり取りし、処理を行うシステムを指しています。車両管理を行う「テレマティクス」や電力管理の「スマートメーター」などの遠隔監視機能として実用化され、すでに普及しているものもあります。

M2Mは主に"産業分野"で活用されていましたが、これに対してIoTは「宅内」や「ヘルスケア」など、より身近なモノにまで範囲を広げています。また、つながるモノの数も膨大で、その膨大なデータを活用した高い付加価値を生み出す傾向があります。

なお、厳密な切り分けの定義があるわけではなく、M2MもIoTの1つとして扱われることもあります。

Internet of Things

さまざまな分野で活用されるIoT

幅広い概念を持つIoTはさまざまな分野で活用されようとしています。

大規模な例には、都市環境を改善しようという「スマートシティ」があります。これにはいくつかの取り組みが組み込まれており、エネルギー面では「各家庭の電力使用量を一定時間ごとに収集して、電力の供給を安定・効率化」、交通の面では「道路や駐車場などの交通情報を収集して、都市の渋滞を軽減」などの効果が考えられています。

自動車では、各所に取り付けられたセンサー情報に基づいて、自動車の状態や修理の必要性を把握。これを利用して、「安全運転を行っているか」「事故を起こしていないか」を確認できるほか、近年研究が進んでいる「自動運転」では、ほかの車の動きや交通管制といった情報に基づいて、より安全・効率的な運転が可能になると期待されています。

工場においても、機械の管理だけではなく、工場内外の膨大な情報に基づいた最適的な生産、品質管理を行う「インダストリー4.0」がドイツを中心として提案されています。農業においては、気温や水分量などの気象条件や農作物の成長状態を収集し、その時の対応を学習して自動化することで人的労力を削減したり、農業のノウハウを機械化することで容易に次世代へ引き継げたりするような試みが進んでいます。

より身近なところでは、家庭に向けたスマートホームがあります。宅内の灯りやエアコンなどの家電、ドアの鍵を操作でき、家族の帰宅を外でも知ることができるようになります。

さらに生活パターンの情報を収集して、快適に過ごせるように温度を自動で設定してくれる自動化や、省電力化が期待されます。小型のウェアラブルデバイスを用いて、人の脈拍や血圧などのバイタルデータを収集し、健康管理を行うなど医療に役立てる取り組みもあります。

これらの例を見てわかるように、IoTは幅広い分野に広がっています。いずれの分野でも"モノ"が情報を発信・収集して、膨大な情報から「より、価値のある便利なサービスを生み出す」「効率化を進める」という傾向があるのが特徴です。

IoTを実現する仕組み

多くの分野で活用が期待されるIoTですが、1つの技術によって実現されるものではなく、モノから情報を取り出して集積し、処理を行う複合的なシステムとなります。どのようにIoTが実現されるか、分野によって細かな部分は異なりますが、およその仕組みを下図に示します。

IoTの仕組み

大きく分類すると、「情報を収集するセンサー」「カメラ」「車」「灯り」といった物理的に作用する"モノ"があります。そして、これらが情報を送受信するために通信網につながります。

この通信網には3G/4Gなどのセルラー網や、ADSLや光回線などの有線網があります。小型化・省電力化が進むセンサーデバイスなどでは、BLE(Bluetooth Low Energy)やZigbeeなどの省電力通信が利用されることも増えていますが、この場合は通信網につなげるために、ゲートウェイと呼ばれる通信の中継装置が必要になります。なお、モノが「ウェアラブルデバイスや「アクセサリー」の場合は、ゲートウェイの機能をスマートフォンが果たす場合も多く見られます。

そしてこの通信網を介して、膨大な数のモノの情報をクラウド上に集積します。この情報をビッグデータとして処理し、それに基づいて人もしくは機械が自動的に物事を判断、モノの動きを決定し、必要に応じて通信網を介しモノの制御を行います。

このようにIoTの実現には複数の要因が必要です。近年のIoT発展にはセンサーデバイスなどの「モノを安価に製造できるようになった」ことと、「通信網や情報を集積、処理するクラウド技術が発展した」こと、さらにAIに代表される「より高度な情報処理技術」など、多くの要因が集まってIoTが成り立つようになったのです。

著者プロフィール

小森田 賢史(こもりた さとし)
KDDI 商品・CS統括本部 商品企画部

モバイル通信(SIP, IMS)の高度化に関する研究開発、IEEE標準化活動を経て、オープンソース系OSを活用したスマートフォン端末の企画開発、IoT機器・プラットフォームの企画開発、新規商品企画を担当する。