【連載】

IoTの深層

4 震災の原体験を手のひらに - 位置情報ソリューション「SANフラワー」の目指す先

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加藤電機の「SANフラワー見守りサービス」は、近距離無線用電波の920MHz帯の電波を利用することで、GPSが抱える消費電力などの問題をクリアした位置情報ソリューションだ。広域アンテナの設置に広告モデルを採用するなど、ユニークなビジネスモデルを展開している同社。SANフラワーがどのようにビジネスを展開しているのか、同社 代表取締役社長の加藤 学氏に話を聞いた。

加藤電機 代表取締役社長の加藤 学氏

GPSを使わない位置情報検索

子供の防犯やお年寄りの徘徊などへの対策として、GPSを用いて位置情報を把握する"見守り系ソリューション"。多くの企業がさまざまな形態で提供しているが、中でも加藤電機が提供する「SANフラワー」は、GPSを使用せずに利用者の位置情報を把握するという、異色の位置情報検索ソリューションだ。

位置を知りたい人に持たせる小型の子機「SANタグ」と、その子機を見つけるための「SANレーダー」の2つの機器を用意。SANレーダーで特定のIDを持ったSANタグが周辺にあるかどうか検索し、SANタグが見つかった場合はレーダー上にその方角と距離が示される。それに従って進むと、SANタグ、ひいてはそれを持っている人、付けているモノを見つけられる訳だ。

(左から)SANタグとSANレーダー

SANタグとSANレーダーは、2011年の電波再編によって解放された、近距離無線用の920MHz帯の電波を用いて通信する。電波が届く20m程度の範囲であればSANタグを見つけることが可能だ。また、近くの場所にSANタグがない場合であっても、全国各地に設置されている「SANアンテナ」がSANタグと通信することでおおよその位置を把握。情報をクラウドにアップロードすることで、スマートフォンなどを通じて位置を確認できる。

しかしなぜ、SANフラワーでは位置情報を活用するサービスながらに、GPSを利用しなかったのだろうか。

この点について加藤氏は「GPSの弱点を克服するためだ」と話す。GPSは衛星を4つ以上捉えることで、半径10m程度のピンポイントな位置情報を取得できる。しかし、裏を返せば衛星を捉えることができない場所、例えば山中や建物の中、あるいは災害などで、"がれき"の中に埋もれてしまった端末や、それを持つ人、ペットなどを探すには向いていない。

また、GPSは消費電力が大きいことも弱点になるそうで、「これまでにも『GPSイルカーナ』という商品を提供していたが、端末サイズが大きくなる上に3日で電池が切れてしまうという課題があった」と加藤氏は話す。そうした過去の経験から、場所を選ばず利用でき、なおかつ電波の出力が弱く電力消費が少ない、近距離無線用の電波を用いるに至ったのだそうだ。実際にSANタグは、非常に小型ながら、2時間の充電で1カ月半は持つとのこと。GPSを用いた端末と比較して、消費電力を大幅に抑える結果を残すことができた。

非常に小さいSANタグ。この大きさで電池は1カ月半持つ

阪神淡路大震災が原体験となり、サービスを考案

自動車の盗難防止装置などを開発する加藤電機が位置情報検索のソリューションを提供するに至った理由は、加藤氏の体験にある。1995年の阪神淡路大震災の際に、「いざという時に位置情報を知ることの重要性を意識したことが大きい」と話す。

当初はGPSを用いたソリューションを考えたものの、消費電力や通信費用などの問題から断念。2006年にPHSによる位置情報取得の仕組みを用いた見守りサービス「イルカーナ」を提供したが、それ以降もGPSが抱える問題をクリアするための仕組みを考えていたという。その結果として誕生したのが、このSANフラワーだ。

SANフラワーの仕組みを見ると、出力が弱く、消費電力が少ない電波を用いる点や、全国に多くのSANアンテナを張り巡らせることで、直接電波が届かないエリアでの場所を把握できる点など、イルカーナで採用していたPHSに近い部分も多い印象も受ける。

しかし、加藤電機はモバイル通信事業者ではないため、多数のSANアンテナを設置して運用するためには、ロケーションやコストの問題が発生してしまう。しかも、SANフラワーは月額料金がかからないサービス。それだけに、コストを自社で負担するには難しいように思える。

そこで加藤電機が考えた施策は広告モデルの活用だ。ユーザーがSANタグの位置情報を確認する際に利用するWebサイト上に広告を掲載。アンテナを設置・運用する企業や自治体などに、それらのコストを負担してもらう。既に、イエローハットなどいくつかの企業がこの仕組みに協力しており、全国の店舗にアンテナを設置している。

この仕組みは、過去にイルカーナを関西の自治体で採用した際、協力していたある大学教授の提案がベースになっているとのこと。イルカーナはPHSを用いたサービスであるため、利用には月額料金がかかっていた。そこで教授は、「子供を見守る周辺の商店街の店舗などから、毎月料金を集める」というアイデアを発案したのだそうだ。

カラーバリエーションを用意して誰もが持ちやすいソリューションにした。スマホによる位置確認も簡単にできる

この時は、店舗が支払うコスト負担が大きかったため実現しなかったが、SANフラワー展開の際にはコストを考慮しながらこのアイデアを取り入れ、自社のインフラ整備負担の軽減を達成したというわけだ。

このSANアンテナにはKDDIのCDMA対応通信モジュール「WM-M320」が内蔵されており、アンテナで取得した情報をクラウドにアップロードする際には、このモジュールが用いられている。KDDIの通信モジュールを採用した理由について、加藤氏は「弊社のカーセキュリティ事業でも通信モジュールを使用しているが、最も小型で性能が高いのがKDDIのものだった」と話している。

現在、SANアンテナの設置は620カ所程度とのことで、サービスの価値を高めるには協賛企業や自治体を集め、アンテナの数をいかに増やしてエリアを充実させられるかが大きなポイントとなってくるだろう。その目安となるのが、現在アンテナの立ち上げを進めている愛知県半田市での事例である。

SANアンテナは1つで直径約600mをカバーできることから、約47平方キロメートルの面積を持つ半田市の全域をカバーするには108本があれば全域をカバーできるという。だが、加藤氏によると、SANアンテナで取得したSANタグの情報はクラウドに逐次アップロードされることから、アンテナのカバーエリア内からカバーエリア外に移動した場合は、その周辺を重点的に探すことで場所を確認できるとのこと。それゆえ実際の設置数は、約半数で十分ではないかと、加藤氏は考えているようだ。

協力企業に設置されるアンテナ。お弁当箱大でこちらも小さく、設置企業の負担にならない

半田市ではそのまま設置すると108本必要だが、実運用上は半数程度で事足りるという

加藤電機では、半田市のほかにも、さまざまな地方自治体と協力し、SANフラワーを活用した訓練や実証実験などを進めているとのこと。自治体の要望で特に多い話は、高齢化を背景とした高齢者の徘徊に関する対処だそうで、GPSを用いたソリューションではモジュールのサイズや月額料金などの問題から、なかなかうまくいかないケースが多いとのこと。そうした理由から、持ち歩くモジュールが高齢者が意識する必要のない大きさで、月額料金もかからないSANフラワーが注目されているのだそうだ。

また、SANフラワーは、子供や老人の見守り目的だけでなく、山岳救助などにも役立てられるのではないかと、加藤氏は熱弁を振るう。1つのSANレーダーで検索できるIDは20個までだが、災害や遭難時の捜索隊などに全てのIDを検索できるSANレーダーを提供することで、遭難者捜索への活用も検討しているようだ。

もっともSANフラワーは、製品の量産開始が9月と最近で、現在はまだ投資段階とのこと。それゆえに今後は、エリアの拡大を進めると共に、端末の販売を拡大し、早い段階、できれば来年度には黒字化を実現したいとしていた。

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インデックス

連載目次
第4回 震災の原体験を手のひらに - 位置情報ソリューション「SANフラワー」の目指す先
第3回 ダイキンが目指した"ビジネスの変革"
第2回 PHS回線を利用して貸し農園ビジネス支援に繋げる「ミエファーム」
第1回 KDDIの場合 - 顧客のビジネスモデル変革を支援
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