Internet of Things(IoT)とはモノのインターネットのことだが、定義の歴史は意外と古く、1999年に提唱されたと言われている。イギリスの無線タグ開発者 ケビン・アシュトン氏が定義したその言葉は、10年以上の時を経て、広がりを見せている。

もっとも、当時の定義と今の一般化されたIoTはやや趣が異なると言える。RFIDの開発者が定義した言葉が語源というところからもわかるように、あらゆるものにセンサーが付加され、そこから得られた情報を上手く活用して、物理的な"モノ"を動かす。それが"モノのインターネット"だ。

インターネットは開かれたネットワークの集合体なので、一つの産業に閉じることはないのだが、主にMachine To Machine(M2M)などで、産業用機器のデータを吸い上げ、保守・運用や、生産状況の把握などのデータに用いられてきた。

一方で、今のIoTは、ウェアラブルデバイスやHEMS(Home Energy Management System)というコンシューマーサイドの話で語られることが多い。これらの利用想定では、あまりセンサーを意識せず、スマートデバイスやそれぞれの機器に付属するディスプレイに様々な情報を集約して管理することを念頭に置いている。インターネットの世界が家庭に1台のPCから1人1台のスマートフォンへと移り変わりつつある世の中で、Webやスマートフォンアプリというインタフェースをベースに、すべての情報を集約して受け取り、自分の思うように動かせる。そんな世の中が、「スマートフォン」という一時代の次の担い手として、盛り上がりを見せているわけだ。

こうした中で、IoT時代の本格的な到来を前に、通信事業者やSIerなどをはじめ、多くの企業が先鞭をつけようとその動きを活発にしている。例えば、この1カ月ほどでも富士通がIntelMicrosoftとの連携・提携を発表したほか、NTTドコモが中期経営計画でIoTビジネスの拡大を発表し、IoT関連のAPIコンソーシアムもソフトバンクと共同で立ち上げた。そのソフトバンクは、7月にIoTなどをテーマに法人向けイベントを開催する。

そんな中でKDDIも4月にミサワホームと共同で、"家のIoT"と呼ぶ住宅に設置する被災度判定計「GAINET」を発表した。これは、ディスプレイ部にLTEモジュール「KYM11」を組み込み、震災時に家の"被災度"を判定してKDDIのクラウド「KDDI クラウドプラットフォームサービス(KCPS)」に送信し、その中央管理システムから、全国のGAINETが組み込んである家の状況を把握できるというもの。これにより、建物の補修・保全が早急に必要な家を瞬時に判断できるため、早期の復旧に繋がるという。

こうした取り組みをはじめ、KDDIのIoTに対するアプローチはどのようなものなのか? 同社ソリューション事業本部 モバイルビジネス営業部の高比良 忠司氏に話をうかがった。

クラウドサービスを含めたトータルソリューションで攻めるKDDI

KDDI ソリューション事業本部 モバイルビジネス営業部 高比良 忠司氏

法人向けには、10年以上前からM2Mとして取り組んでいるため、あくまでMachine(機械)に通信モジュールを提供する立場からM2Mとして定義する高比良氏。

高比良氏「私は法人向けをM2M、コンシューマー向けをIoTと呼んでいます」

もちろん、コンシューマーユーザーとは異なり、データ通信が数時間に1回、数十KBしか飛ばないケースも多々ある。そのため、GAINETでも触れたクラウドサービスのKCPSやビッグデータアナリティクスなどの関連ソリューションを同時に組み上げることで、単なる回線ビジネスからの脱却を図っている。

高比良氏「M2Mはスマホなどに比べるとどうしてもARPUは低い。データが飛ばないため、携帯キャリアにとって稼ぐことのできるビジネスではない。そのため、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)をひっくるめた周辺ビジネスを通して、モノと人の中に業務として組み込んでいき、トータルARPUを上げていくんです。

こうしたM2Mの事業は、経営をサポートするという立ち位置から、回線や端末を納入したら終わりというわけではなく、一回入ったら5年や10年というスパンでその企業をサポートしていくことが重要。キャリアらしいビジネスとして、M2Mだけでは見えてこないものに取り組む必要があるんです」

クラウドサービスを巻き込んだビジネススキーム造りは、KDDIだけでなく、NTTドコモやソフトバンク、海外に目を向ければ米ベライゾンや英ボーダフォンもプラットフォーム戦略として打ち出しており、M2Mを中心とした新たなビジネス機会を狙っている。

高比良氏「通信を繋げることで新しいビジネスが生まれていく。そこにフォーカスした新たな活動をしていきます。通常、キャリアの法人営業は情報システム部門を中心に回りますが、私たちの場合は、チャネルが全くもって違う。ビジネス企画の部門など、しっかりとビジネスサポートをしていかなければならない」

KDDIはこれまで、3GにCDMA2000を採用しており、3.9G(現在は4Gの呼称もOKになった)のLTEにセルラーネットワークを移行しつつある。CDMA2000とLTEは別物の技術であるため、GAINETにも使われたLTEオンリーのモジュール「KYM11」のようなものが他社に先んじて出てきた。ただ、これはコスト抑制の側面が大きいと高比良氏は話す。

高比良氏「LTEと3Gのエリア構築が、ほぼトントンになりつつあります。そして、これからのネットワークで安くていいモジュールをと考えた時に、LTEのみのモジュールを提供しなければならないと考えただけです。

IoTは一気に安いものが出てくる世界。一般的に、競争の中で低価格化が求められている状況下で、3Gオンリーのモジュールは30ドル、LTEは60ドルくらいになると言われています。まだコストは割高ですが、たくさん作ってコストを削減しようとしている。自社で作るとかなり大変ですが、その"先"を考えてやっていこうと思っています」

そんな国内M2M市場の成長率は2012年から2018年までに台数ベースで年平均23%に達すると見られている(テクノ・システム・リサーチ調査)。現在のM2Mモジュールの法人利用率は7割で、子供や老人のヘルスケアや農業ICT、監視カメラ、自動車周辺、スマートメーターなど、その利用形態は幅広い。

こうした中で、M2Mに求められるニーズはさらなる多様化を見せている。例えば、機械学習による災害予知や保守サービス、さらにはリアルタイム性やグローバルな機器管理、電力効率化といった具合にだ。

例えばKDDIの導入事例としてダイキンの存在がある。ダイキンは、エアコンの使用状況をモニタリングし、省エネを促進している。エアコンはこれまで、売り切りとなるケースが多く、保守サービスなどを行っていても、3分の1は他社製品に乗り換えてしまい、いつ製品を変えたかすらわからないことも少なからずあったという。そこで、使用量が増える夏場に、1時間のうち10分間を送風にすることで、消費電力を抑え、エコと同時に使用電力も削減。企業にも環境にも優しいソリューションを構築した。

この仕組みは、エアコンの状態をモニタリングして、Web経由で操作できるようにするだけでなく、運転状況もグラフ表示されるため、今一瞬の状況把握だけでない、トータルな状況管理が実現できているというわけだ。万が一エアコンに異常が発生した場合でも、ダイキン側でセンサー情報から問題が把握できるため、瞬時に販売代理店や顧客企業へと連絡が行える。

高比良氏「ここのところ、2020年問題が話題となっています。東京ではオリンピックまでの景気浮揚が期待されると同時に、2020年のオリンピック開催後はペンペン草も生えないんじゃないかという問題です。そこをどう駆け抜けるか考える時に、こうしたダイキンさまのような仕組みを考えられている企業さまが多い。

つまり需要がある際に、製品単体を売って終わりではなく、サービスとして仕組み作りを行い、需要が減ってしまう後でも、継続的な取引を狙うということです。これは、他社との差別化に繋がることです。通信コストの低廉化が進んでいますし、我々も導入しやすいように努力しています。技術革新が進む中で、M2Mは重要な要素になりつつあるのです」

IoTやM2Mでは、集めたデータの分析が会社にとって大きな財産となる。これをコンシューマーサイドでやっているのがGoogleであり、Amazonだが、日本ではこうしたデータをつかんでいる企業は少ない。

高比良氏「全世界に70億人、彼らの生み出す"ヒトログ"は700兆ログにもなると言われています。ただ、こうしたログの多くはOTT(Over The Top)が握っています。様々な企業が自社のログをうまく活用しようとしていますが、単体のログでは、付加価値を生み出すことは難しい。色々なログを組み合わせることが、有益なデータへと繋がるのです。

そこで、私たちとしては、様々な"モノのデータ"を組み合わせて、製造業の皆さんのお役に立てればと思っている。もちろん、個人情報の取扱はセンシティブで、組み合わせることは容易ではない。でも、ヒトログとモノログを結びつけることで、超予測社会というものが実現できる。

ビッグデータは、使う脳みそが普通のデータ分析とは異なり、かなり変わってくる。データサイエンティストという職種がありますが、ビッグデータと一口に言っても、業務を知り尽くして、仮説を何十回も動かしてもちゃんとした答えは出てこない。傾向を見るだけなら1回で終わってしまうが、継続的にマネタイズを目指すのであれば、そこで止めてはだめなわけです。

世の中のモノのデータを、継続的なビジネスに繋げるのはかなり大変。日々、世の中が動いていて、イベントごとにヒトやモノの動きが大きく変わる。瞬間のデータを予測してそこに手を打つ、それを実現するためのビジネスとして動いています」

高比良氏によると、回線ベースでは自動販売機などに組み込むモジュール規模の大きさなどからやや後れを取っているものの、案件数などでは法人シェアを取れているという。ビッグデータアナリティクスなどの話からもわかる通り、回線のみの話ではなく、トータルソリューションとしてのSI力が鍵となっている現在のM2M市場では「回線数だけでは語れなくなっている」(高比良氏)とのことで、多面的な取り組みが重要だ。高比良氏は「一社一社のお客さまの支援をという心づもりでやっていますし、モノだけでなく、ヒトの効率化もM2Mで支援していきたい」としていた。