スマートフォンはこの10年間で世界を大きく変化させました。先進国を中心に加速度的に普及率は伸び続け、アメリカでは、今や80%(*)を超えています。

*出典:https://www.comscore.com/Insights/Blog/US-Smartphone-Penetration-Surpassed-80-Percent-in-2016

スマートフォン市場の急速な成長と目覚ましい社会へのインパクトは、次は何が出てくるかと人々を期待させています。未来を正確に予測することは誰にもできませんが、例えば、スマートウォッチやAmazonのEchoのような音声制御インターフェースに代表されるパーベイシブコンピューティングが当たり前の時代はもうすぐそこまできています。

【パーベイシブコンピューティング】 Pervasive Computing
ユビキタス(ubiquitous)コンピューティングと同義。「同時に至るところに存在する」という意味であり、 ユビキタスコンピューティングとは、社会や生活の至る所にコンピュータが存在しており、 ユーザがコンピュータの使用を意識することなく、いつでもどこでも情報にアクセスできる環境のことをいいます。

アナリストたちは、ここ数年「モノのインターネット (IoT)」の成長について議論してきましたが、その予想は今ようやく実現されようとしています。IDCによれば、世界的にIoT消費率は2017年中に16.7%上昇し8,000億ドルに、そして2021年までには1.4兆ドルに達すると推定しています(*)。IoTデバイスを活用した広告は、今まであまり議論がされてきませんでしたが、マーケターにとっては、消費者との新しいコミュニケーションツールになることは疑う余地がありません。しかも、その対話は消費者の購買意欲が高まっているタイミングを捉えられるのです。

*出典:http://www.zdnet.com/article/iot-spending-to-surpass-800-billion-in-2017-led-by-hardware-idc/

IoT広告が流通するシーン

IoTは、スマートファクトリーからウェアラブルデバイスまで、幅広いカテゴリーを包括しています。なかには、広告に適していないデバイスもありますが、それらを除けば、IoTデバイスは新たなビジネスチャンスを有しています。総合的に見て、広告業界にとって大きな可能性を秘めているIoTカテゴリーは、家電、ウェアラブルデバイス、そして自動車のダッシュボードです。

1.家電というカテゴリーは、冷蔵庫や洗濯機・乾燥機、食器洗浄機だけでなく、ホームオートメーションまで広げることができるかもしれません。例えば、現在、全米12%の世帯がAmazonのEchoを所有しています。さらにAmazonは、Wi-Fiに接続されたボタン式デバイス「Dash」も家庭に普及させました。この戦略が示すように、家電における広告の活用は、洗濯物や食器の洗剤を補充したいという日常の瞬間を捉えることで、優れた効果を発揮します。ただし、IoT広告の表示は消費者にとって任意であるべきで、例えば無料のアプリを利用する際にのみ表示されるような仕組みが必要です。

2.ウェアラブルデバイスは、動画広告にとってもう一つの新たな可能性となります。一般的に、ウェアラブルデバイス利用者は健康に対する意識が高いです。エクササイズに熱心な利用者であれば、ランニングシューズやエナジードリンクの広告が効果的ですし、健康状態を管理することが目的の利用者であれば、製薬会社や地域のヘルスケア企業の出番となるでしょう。

3.自動車のダッシュボードも同様です。「スマート冷蔵庫」と連携して、帰宅途中のトライバーにパンやミルクを買い足すようにリマインドすることができます。近辺のレストランやガソリンスタンド、修理センターの広告を扱うのも良いでしょう。数年後には、自動運転車が動画広告に新たなチャンスをもたらすかもしれません。

IoTの導入を牽引する産業・業界

また、IoT広告と相性が良い業界として、フィットネスやヘルスケアが挙げられます。次世代のウェアラブルデバイスや医電が登場すれば患者の生体データを医者に送ることも可能になるかもしれません。利用者に健康を意識させるばかりでなく、病気の兆候を早期発見し、解決策を求めることにもつながっていくでしょう。

その他、IoT広告の可能性を最大活用できるカテゴリーは、日常雑貨や食品を扱う小売業界です。例えば、家電が冷蔵庫の中身を管理できるようになれば、今晩の食卓に並ぶレシピの提案や不足する食材の発注など利用者の家事の負荷を一部担うことも可能になりますし、これらが家庭用品メーカーや小売業界の参入ポイントであることは明白です。

導入へのハードル

消費者データの扱い方について、アメリカの消費者はベネフィットになるなら積極的に提供する傾向にあります。一方、ヨーロッパや日本では、匿名だとしても、法規制に加えて、プライバシーに対する利用者の敏感さもボドルネックになる可能性は高いです。つまり、IoTによって生み出されたデータが、それを収集した企業に帰するという明確な前提が成り立たない場合、消費者の個人情報提供に対する姿勢が、IoT広告の発展の可能性を左右する最大の変数となります。

このハードルを乗り越えるための方法として、オプトイン方式によって、受信者である消費者に情報提供の主導権を委ねることが重要です。その上で、データはあくまで匿名であり、利用目的がサービスの改善や進化であり、消費者ベネフィットを明確に伝え理解を得る企業努力や啓蒙活動が不可欠です。

MG(マイケル・ゴーフロン)

元IAB(Interactive Advertising Bureau)デジタルビデオ委員会の共同会長。現在は、ソーシャルビデオ・プラットフォーム、GlassView(グラスビュー)の創設メンバーとして、最高ブランドセーフティ責任者を務めている。これまでに、MTV、コンデナスト社をはじめ、テレビ業界、パブリッシャー大手、広告代理店、動画アドテック企業を経験。20数年に渡るキャリアをデジタル広告業界に捧げている。2014年にはIABデジダルビデオ委員会の共同会長に抜擢され、現在のオンライン広告のおける技術的標準規格の策定・法整備に携わった。