【コラム】
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| ID:99 |
| 氏名:金出武雄 |
| 年齢:59歳 |
| 職業:カーネギーメロン大学教授/産業技術総合研究所 臨海副都心センター デジタルヒューマン研究センター センター長 |
| 場所:銀座 |
| 携帯電話:au 三洋電機製GLOBAL PASSPORT対応端末 |
| 1カ月の携帯電話使用料金:-円 |
日本も少子高齢化すると、将来はロボットに介護してもらうことになるのでしょうか。家電と同じように、ロボットが人間の生活の中に入り込むのはいつぐらいになりますか。「昔、コンピュータと家庭、コンピュータと日常生活は無関係でした。でも今やコンピュータの搭載されていない家電はありません。車もコンピュータの塊のようなものです。そういう視点で考えれば、センサーとコンピュータを結びつけたロボットが人間の生活の中に入り込むのは、ごく自然の流れでしょう。
もっとも、人間の形をしたヒューマノイドロボットが家でうろうろするということになると、まだ20~30年くらいはかかるかもしれません。しかし、ロボットというものを、外界から有益な情報を取り入れて処理し、それに従って、人間の役に立つように行動したり、外界に返したりしてくれる"システム"という風に捉えれば、すぐにでも身近なものとなっていくのではないかと思います。
例えば、私はよく言うのですが、エアコンでも、人がいる場所を感知し、それに合わせて風向きを変えてくれたりするものがあるわけで、それはもうすでにロボットなんです。何も人間の形をしたロボットが団扇であおぐ必要はない。そういう意味では自動ドアも十分ロボットですが、今の自動ドアロボットはあまり賢くない。寒いときに本当は出たくないのにドアに近づくだけで開けたりする。ホテルのドアマンは、"この人はただ外を覗いているだけなのか、本当に出ようとしているのか"の判断ができるから、人が出たい時にだけさっと来て開けてくれますよね。自動ドアにも画像処理の技術などを応用して、人間の表情や行動パターンからドアの開閉を制御できるようになれば、『気の利く自動ドアロボット』ができるんです。
また、情報家電のインタフェースにロボットを使うといった動きもあります。その場合も、単に情報をインターネットから取得してきて人間に提示するだけであれば、すでに十分な技術があるので簡単です。問題は、その家や部屋の中にいる人にとって最も有益で最適な情報を選出できるかどうか、つまり、その人たちが誰なのか、どういった属性を持っているのか、最終的には、今、何を考えているのかといったことをシステム側で認識できる能力があるかどうかが重要なのです。そんなことができるロボット……というか、ここまでくれば『環境』と呼んでもよいものなので、それを「インビジブルロボット」 - すなわち見えないロボット - と私は呼んでいますが、結局、最終的にはそういったロボットが求められていくのではないかと考えています」
ところで、金出教授は、数え切れないほどの実績を残され、米国工学アカデミーの外国特別会員(1997)やACM, IEEE, AAAIのフェローに選ばれているほかJoseph Engelberger賞(1995)、Yokogawa賞(1996)、JARA賞(1997)、Otto Frac賞(1998)、情報処理学会25周年記念誌論文(1987)、Marr賞(1990)、日本ロボット学会論文賞(1998)など多くの受賞をされていらっしゃいますが、その中で、最も印象に残っている研究は何でしょうか。
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金出教授がセンター長を務める産業技術総合研究所 臨海副都心センター デジタルヒューマン研究センターでは、ヒューマノイドロボットの研究開発を行っている。画像は、コンピュータを使って人間全体、つまり、人の体の働きや動き、考え方をシミュレーションしようといった試み |
「いろんなことをやってきたのですが、満足しているというか、広く基礎的なところに貢献できたと思うのは、一貫して取り組んで来た、動きのある画像の処理と認識の研究でしょうか。その中に、まず、『Lucas-Kanadeアルゴリズム』と一般に呼ばれるものがあります。動画像において、前の画像のある点が次の画像のどこへ動いたのかを追跡するための理論とアルゴリズムです。きわめて単純で当たり前といっていいような方法なのですが、変化する画像、いわゆる動画を処理する際の最も基本的な方法として、コンピュータビジョンのあらゆるところに使われています。MPEGなどのコーディングなどでよく使われる動き推定もこの理論が基礎となっています。その後、私の元教え子のTomasi という人の改良も加えて、『Kanade-Lucas-Tomasi法』(短くは『KLT』という)に進化しました。さらに、そのTomasiとやったTomasi-Kanadeの『因子分解法』とよばれる、追跡した特徴点からその動画像に映っている物体の形を再構成する方法も、この分野ではもっとも簡単で効果的な方法として多くの教科書に取り入れられていてうれしいですね。
『NAVLAV』やスーパーボウルの『EyeVision』などのプロジェクトは、やっている最中は面白いし、注目されていいのですが、何年かすると忘れられてしまうものです。それに対して、これらの理論のように、教科書に載って、後々まで残っていくようなものは、一番充実感が大きいですね。教科書に載るということは、これからこの分野を勉強していこうという人たちが、皆、それを覚え、何年にもわたって伝承し、この理論を基に研究を行っていってくれるということですから、誰もが知っているという点で、そして、さまざまなところに影響を及ぼしていくという点で、研究者としては自負心を感じます。
そう考えると、研究には2通りあって、ひとつは概念、コンセプトを創造するもの、もうひとつは事実、システムを残していくものです。事実やシステムは、さらに優秀な新しい事実やシステムが現れれば、その度に次々と置き換えられていってしまいますが、一方、概念とか考え方というものは簡単に置き換えられたり、消えたりするものではありません」
金出教授がお書きになった「素人のように考え、玄人として実行する」(PHP出版研究所)という著書の中で、研究というか問題解決の秘訣と面白さを言っておられますが、コンセプトというのは、どうやったら考えつくものなのでしょうか。「申し訳ないけれど、それは愚問ですね。やはり、常日頃からじっくりと問題について考え、思いをめぐらしていなければダメで、たまたま思い浮かぶということはめったにありません。そういった意味で、考えつくための必要条件はあると思いますが、こうしていれば必ず到達するといった十分条件は多分ないでしょうね。必要条件とは、自分がやっていることの意味を単純化して、いかにやさしくピュアに考えることができるかどうかです。それができる人はコンセプトを作り出すことができる。つまり、コンセプトというものは、複雑に考えることによっては生まれてこないのです。ややこしい問題をどんどん減らしていって単純化し、その中にある一種の秩序の美しさというものを見つけ出すことができれば、それはコンセプトとなりうるのです。複雑過ぎるものは応用が利かず、汎用性がありませんから、コンセプトにはなりえないということです。でも、複雑な問題をそのまま複雑に考えるよりも、複雑なものの中から単純なものを見つけ出すことの方が実はずっと難しいんですよ」
(インタビュアー=山田久美)
*次回に続きます。
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