【コラム】

ストリートインタビュー

125 海の底でデジタル機器を操る潜水調査船パイロット(3)

山田久美  [2004/01/19]
ID:087
氏名:櫻井利明
年齢:43歳
職業:しんかい6500運航チーム 副司令
遭遇場所:横須賀市 海洋科学技術センター
携帯電話:NTTドコモ「P504i」
1カ月の携帯電話使用料金:5,000円

しんかい6500の操縦について具体的に教えて下さい。「大きな船ではありますが、実際には小さなボックスを使って操縦しています。船には窓が3カ所あり、チーフパイロットが正面の窓を覗きながら操縦します。また、船の前の部分には2本のマニピュレータがありまして、海底を採取したり生物を捕獲したりします。さらに、場合によっては、研究者がデータを取るための調査機器を持ってくるので、マニピュレータを使い、それを海底に設置することもあります。その調査機器は、1年後に回収したり、設置したその日のうちに回収したりとさまざまです。マニピュレータの爪の幅は15cmなので、その範囲内のものを掴むことができます。片手で持ち上げられる重量は50kgですが、マニピュレータの両手を使ってひとつのものを持ち上げるのは慣れたパイロットでないと操作が難しいですね。マニピュレータの操作は経験を積んで慣れるよりほか、上手になる方法はありません」

しんかい6500のコントローラ

深海に潜るというのはかなり恐怖感を伴う仕事のように思いますが、櫻井さんはどういった経緯でこの仕事に従事されようと思われたのでしょうか。「22年前、三崎水産高校専攻科を出てすぐに当センターに入ったのですが、そのとき、しんかい2000の操縦士を命じられたのです。しんかい6500の8年前にしんかい2000が出来たのですが、最初はしんかい2000の操縦士として雇われたのです。日本には潜水調査船自体が少なく、有人潜水調査船というと、現在でも民間で保有している300m潜水可能な「はくよう」としんかい6500の2隻だけです(しんかい2000は活動休止中)。そのため、まったくの素人の状態から動かし始めました。私自身は、元々船や海が好きで、船の操縦士を目指して学校で学んだのですが、気が付くと、潜水調査船のパイロットになっていましたね。


マニピュレータのコントローラ

抱えるようにして構え、操作する

私も最初の頃は深海に潜るというのは恐怖でしたよ。最近では、潜る前に音響を使って海底の様子を調べたり、母船から無人ロボットで海底をある程度調査したりしてから潜るので安心ですが、海底には熱水が噴出している個所や急ながけなどがありますので、以前は、海底に到着するまですごく緊張しましたね。一度、海底に到着してしまえば、海底を見ながら走れるので割と安全なのですが、着底間際が一番緊張するんですよ。

また、日本近海の場合、どんなにライトをつけていても視界はせいぜい5mくらいで、悪い場合は3m程度なんです。ただ、見えない範囲は音波を出して、はね返ってくる音波で障害物がどれくらい先にあるかを調べるソナーを使っているので、大きな障害物に関しては、見える前からわかっているので大丈夫です」

覗き窓は小さいが、密着して覗けば比較的視界は開ける

窓の向こう側に白いボードが見えるが、深海ではだいたいこの程度の距離までしか見えない

操縦していて面白い点や苦労された点はございますか。「以前、深海には潮流はないと言われていたのですが、深度2,000mや4,000mでもかなり速い潮流があることがわかったんです。しんかい6500の持っている速力には制限があり、それ以上に速い潮流に出くわす場合がたまにあります。そういったときは流されてしまったりすることがあって、思ったように目的地に到着できず、苦労しますね。また、300℃の熱水が出ているような場所も苦労します。地上では水は100℃で蒸発してしまいますが、海底の場合、300℃で吹いているところもあります。研究者によく熱水のサンプルを採取したいとか、熱水の温度を測りたいとか言われるのです。そうすると、かなり熱水に近づかなければならないわけです。しかしながら、近づきすぎると覗き窓が熱水で溶けたり、外皮がこげたりといった危険もあるので、そういった作業ができるギリギリまで近づくのに苦労しますね。

東太平洋海膨。300℃の熱水を吹き上げるブラックスモーカー

大西洋中央海嶺。ブラックスモーカーの周りにエビ(ツノナシオハラエビ)が群がっている

提供:海洋科学技術センター

この仕事をしていて面白いと思う点は、色々な研究者が乗ってこられるので、研究者の方たちから色々な話しを聞くことができ、広く浅く知識を得ることができることです。日本に帰国するのに2、3日かかるときは、母船でも研究者の方たちがセミナーを開いてくれたりします。今回の潜航の目的や今回採取したサンプルによってこんなことがわかりそうだといったことを毎回聞くことができるのです」

しんかい6500の船外には400枚撮りの銀塩カメラ1台を搭載しています。これも貴重なデータとなるので、1回の潜航で400枚撮りきって帰ってきます。近い将来には、デジタルカメラ化したいと考えています。ビデオカメラも2台搭載しています。1台は固定カメラで、常に潜水調査船の前方を撮り続けます。もう1台は自由に動かして生物などを追いかけて撮ることができます。これ以外にも、船内には私たちのチームで所有しているデジタルカメラ、キヤノンの「EOS D30」と銀塩カメラとしてキヤノンの「EOS-1」を持ち込んでいますが、銀塩カメラの場合、日本に帰国して現像に出してみないとちゃんと写っているかどうかわからないので、最近はデジカメを使う研究者が増えています。特にしんかい6500の場合、厚い窓を通して撮影するため、ピントが合いづらいのです。デジカメならば、その場ですぐに画像を確認することができますし、母船に揚収されたあとネットで送信することも可能です。

船体前方にはカメラを備える。連動して動くNo.2ビデオカメラと400枚撮り銀塩カメラとストロボ(写真左)、固定式のNo.1ビデオカメラと投光器(メタルハライド、写真右)

撮った画像は2年間経ったらWebサイトで公開しています。地質の研究者は地質や岩石ばかりに興味を示し生物にはあまり関心を示しませんし、逆に、生物学者が乗ってこられると関心事が生物ばかりですので、面白い地形があっても気が付きませんね。私のように何回か潜っていると珍しい生物や地形に遭遇するとわかりますので、デジカメやビデオを使って撮影させてもらったりしているんです」

海洋科学技術センター所有のEOS D30。銀塩の一眼レフカメラも船内に持ち込まれるが、最近はもっぱらデジタルカメラが利用されている。研究者が直接デジタルカメラを持ち込むこともあるそう

レンズにはゴム製のレンズフード。窓越しでの撮影はレンズを窓に密着させる必要があり、撮影に熱中した研究者が高価な窓にレンズをぶつけて傷つけてしまうこともあるそうで、そうした意味でもこうしたゴム製レンズフードが必要なのだとか

(インタビュアー=山田久美 k-yamada@pc.mycom.co.jp)

*次回に続きます

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