【コラム】

ストリートインタビュー

123 海の底でデジタル機器を操る潜水調査船パイロット(1)

    山田久美  [2003/11/25]
    ID:087
    氏名:櫻井利明
    年齢:43歳
    職業:しんかい6500運航チーム 副司令
    遭遇場所:横須賀市 海洋科学技術センター
    携帯電話:NTTドコモ「P504i」
    1カ月の携帯電話使用料金:5,000円

    今回は神奈川県横須賀市にある海洋科学技術センターにお勤めの櫻井利明さんです。櫻井さんは有人潜水調査船「しんかい6500」のパイロットで、世界各国の深海に潜られているそうです。

    さっそくですが、お仕事内容から教えていただけますでしょうか。「1990年に開発された有人潜水調査船しんかい6500のパイロットとして、色々な研究者を乗せて深度6500mまでの深海に潜っています。(海洋科学技術センター)全体では年60回の潜航を行っています。60回という回数は年間に予定される研究のための潜航が60回あるということで、台風が来たり海域が荒れていたりすることもあるため、そのうち2~3回程度中止になる場合もあります。

    大体1行動が1カ月間程度で、1行動あたり15回潜航します。それが年に4行動あるため、通算60回の調査潜航という計算です。1行動終わるごとに、ここ(海洋科学技術センター)で潜水調査船の整備が行われ、次の潜航に備えます。それが毎年繰り返されます。


    海洋科学技術センター
    しんかい6500(実物は整備中のため写真は実物大の模型)

    しんかい6500の母船となる「よこすか」

    1行動に関して言えば、例えば、マリアナ海溝の調査の場合、母船「よこすか」でグアム近辺の海域まで行き、目的の海域に着くと、母船から潜水調査船を降ろして、海底に潜っていくのです。調査時間は1日7時間程度で、朝10時~夕方5時まで潜っているという感じです。システム上、1潜航あたり8時間までと設計されています。といいますのも、しんかい6500は母船とはケーブルなどで一切つながっていない単独の船ですので、唯一の動力源が酸化銀亜鉛電池なんです。その電池の駆動時間が、潜航開始から浮上までを含めた1潜航あたり約8時間なんです。ですので、母船に揚収したらすぐに充電をして次の潜航に備えます。潜航、浮上の時間を除いた深海での調査時間は深さにもよりますが3~4時間です。


    しんかい6500の電池。左右の側面に1つずつ備える
    しんかい6500潜航開始の瞬間
    提供:海洋科学技術センター

    母船では、研究者が持ってきた研究のための機材などを潜水調査船に取り付ける準備をしたりします。また、潜航中は音波を使って母船と会話をするのですが、例えば、現在、潜水調査船がどのあたりにいるかといった位置確認などを頻繁に行います」

    「しんかい6500は深度6500mまで潜航できるのですが、1981年に作られた、深度2000mまで潜航できる「しんかい2000」という有人潜水調査船もありまして、私は1997年まではしんかい2000を操縦していました。現在はしんかい6500を操縦しています。本体にかかる水圧が違うだけで、両者間で大きさやシステムにそれほど大きな違いはありません。パイロットとしての仕事内容はほぼ同じです。ただ、しんかい2000の場合、横幅が3m、高さ3mで、正面から見ると丸い形をしていますが、しんかい6500の場合、幅が2.7mと多少細長くなっています。それは水の抵抗を減らして、海底にいくまでの時間を短くするためです。また、しんかい6500の乗員数は3名で、パイロット、Coパイロット、研究者の3人が乗船します。船内は大変狭いので、物理的にも3名が限界ですね。

    整備場ではしんかい6500の隣にしんかい2000
    現在、しんかい2000は活動を休止中。名残惜しそうに「また乗りたい」とおっしゃったのが印象的

    入り口は上部にある。男性であれば入るのに苦労するぐらい狭い

    当然、狭いのでトイレはありません。潜航の際に6個の携帯トイレとダンボールで組み立てるおまるを積んでいきます。私の場合はもう潜航に慣れているので、緊張などはしませんが、初めて乗船される研究者の方などは緊張して前日から食事を摂らない、水分の摂取を極力控えるなどかなり気を遣われているようです。ただ、潜航前にはサンドウィッチなどが配られ、船内で食事もしますよ。

    船内は1気圧で守られているので潜水病などはありませんが、暖房がないので寒いんです。純酸素のボンベを積んでいて、人間が呼吸するのに必要な量の酸素が常に出ていて、逆に二酸化炭素は吸収剤を使って吸収させているのですが、純酸素を使っているため、ちょっとした油分でも発火する可能性があるので、暖房器具は使えないんです。例えば、深度4000mの場合、海水の温度は2℃前後ですので、浸かっていると船内の気温はどんどん下がっていきます。機械の発熱や人間の体温のおかげで、せいぜい15℃くらいまでしか下がらないとはいえ、防寒のため、潜航服を着て調査をしています」

    深海6500mというのはどういう世界なのかなかなか想像がつきませんが、当然、漆黒の闇というわけですよね。「光は全然届きませんね。視程の比較的良い沖縄や太平洋の外洋などで、天気の良い日に潜っても、光を感じることができるのはせいぜい深度400m程度で、それよりも深くなると人間の目では明かりを感じることはできません」

    2つの手のような機器がマニピュレータ

    しんかい6500のパイロットは何人くらいいらっしゃるのですか?「現在、海洋科学技術センターにはチーフパイロットが4人、Coパイロットが5人おりまして、交代で潜航しています。法律上、モーターボートと同じ船舶小型1級の免許を持っていれば操縦資格があります。また、私の所属している研究業務部・しんかい6500運航チームは3班に分かれておりまして、整備士、航法管制士、そしてパイロットやCoパイロットである潜航士がいます。パイロットになる場合でも、最初は整備士として入り、整備から覚えてもらいます。潜水調査船全体のシステムを理解してもらうのです。徐々に潜水調査船内の機器に触れてもらい、熟練したら訓練潜航で一緒に潜り、潜水調査船の操縦方法やマニピュレータの操作方法を覚えてもらいます。そして、深海に潜れる技術が十分身に付いたと判断されれば、Coパイロットとして初めて本番の調査潜航に参加できるのです。Coパイロットになるには約3年間程度かかります。私も最初は整備の仕事から始め、2年後にCoパイロットになりました。以来、20年間、ずっと潜水調査船のパイロットとして働いています。

    また、私は先日、調査航海から帰ってきたばかりなのですが、センターにいる間はしんかい6500の部品のメンテナンス作業などを行っています。現在、しんかい6500は整備のため、ばらされた状態でセンター内に置かれていますが、来年2月にはきれいに組み上げ直し、深海6500mまで行って大丈夫かといった試験潜航を5回行う予定です。その後、Coパイロット養成のための訓練潜航を10回行う予定です。その訓練のときに、マニピュレータの操作方法を訓練したりするんです。試験・訓練潜航が無事に終了すれば60回の調査潜航のため世界の海に出かけていきます」

    日本海溝の写真。地震による地割れだといわれている
    1998年、しんかい6500が初めて有人潜水調査船として潜ったインド洋
    提供:海洋科学技術センター

    *次回に続きます

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