市場調査会社IHS主催の「2016年後期ディスプレイ産業フォーラム」が7月27日~28日の2日間、東京都内で開催され、同社テクノロジーグループのディスプレイ部門およびコンシューマエレクトロニクス部門やセミコンダクタ部門の各分野担当アナリストの諸氏が一堂に会して、世界規模のフラットパネルディスプレイ(FPD)産業の今年前半の市場調査結果を発表したほか、後半以降の動向を予測した(図1)。

図1 ディスプレイ産業フォーラムの風景

FPD需要は弱いが高まるAMOLED投資熱

図2 IHSテクノロジー・田村シニアディレクター

冒頭、IHSテクノロジーのディスプレイ担当シニアディレクターを務める田村喜男氏(図2)が「2016年下期FPD市場総論」と題してFPD産業全体を概観した。

田村氏は、「2016年前半は、前年から引き続く世界各国の通貨安により、世界経済は復調せず、FPD製品需要は引き続き弱いままである。中国のLCDメーカーがいつ生産調整に入るか注視していたが、大型・中小型とも調整する様子はみられず、増産を続けている。このため、世界規模でLCDの供給過剰が続き、大型LCD大手各社は赤字に転落してしまった。韓国勢(Samsung DisplayおよびLG Display)は、今後の中国のLCD増産を見据えて、パネル生産能力のリストラを加速し、効率の悪い古いLCDラインの閉鎖を前倒ししている。このため、テレビ用大型パネルの供給がタイトになってきており、大型パネルの販売価格は、少なくとも8~9月は価格が上昇するだろう。今後、各社はFPDの低コスト化を進めるため、部材メーカーへの低価格化要求が高まるだろう」と市況全体の概況を述べたほか、AMOLED(Active Matrics Organic Light Emitting Diode;有機EL)について、「AppleのAMOLED需要に対応した投資動向が見られ、今後、AMOLED投資熱がさらに高まるだろう。いまのところ、AMOLEDはスマートフォン用で生産能力がいっぱいの状況だが、いずれはノ―トPCやモニタ用にも展開されるだろう」と投資が供給過剰のLCDから将来有望なAMOLEDへ向かっていると指摘した。

AMOLEDの新規工場着工に空前の投資

図3 IHSテクノロジー・シニアディレクターのCharles Annis氏

次に、IHSテクノロジーの京都駐在シニアディレクターであるCharles Annis氏(図3)が「新しいAMOLED工場に空前の投資」と題して、ディスプレイ製造のファブ・設備投資動向について講演した。

「大手ディスプレイメーカー全体の営業利益率は、2015年第2四半期(8.6%)をピークに下がり、2016年第1四半期にはついに大きくマイナス(-10.6%)になってしまった」とし、「Samsung Displayの第5世代(5G)第5ライン(忠清南道天安市)が2015年秋に閉鎖され、製造装置が中国勢に売却されたのを手始めに、2016年7月までに、韓国で3ライン(Samsung DisplayおよびLG Displayの5~6世代)、台湾で3ライン(AU OptronicsおよびChunghwa Picture Tubes(CPT)の3.25~4世代)、日本(ジャパンディスプレイ(JDI)の3.25~4世代)で2ラインが閉鎖された。今後も2017年1月までに韓国で6ライン(LG Displayが4ライン、Samsung Displayが2ライン)、日本で4ライン(シャープが2ライン、JDIおよびパナソニックが各1ライン)の合計10ラインを全面閉鎖か1部閉鎖(ライン縮小)する計画が明らかになっている。Samsungの第7世代(G7)7-1ライン(忠清南道牙山市湯井)は、そこで使用されてきたLCD装置売却を3社と交渉中で、一端シャットダウンして、2017年もAMOLED製造へ転用される。パナソニック(姫路)も第8世代(G8)ラインの縮小か閉鎖かの決断を迫られている」と、各社ともにラインの統廃合を進めているとする。

一方で、「AMOLED基板投入能力で、韓国2社(Samsung DisplayとLG Display)がほぼ独占状態の圧倒的な規模を誇り、両社はAMOLED用の巨大ファブをさらに増設中である。中国でもBOE、Tianma、Visionox、ChinaStar、Truly、Everdisplayの6社および日本の3社(JDI、JOLED、シャープ)がAMOLEDラインを建設あるいは計画している。これらは韓国勢に大きく遅れて2018年以降に量産が見込まれるが、装置搬入から本格量産までに要する時間が予想より長引く可能性がある。2019年の世界全体のAMOLED 基板投入能力は、2016年比約3倍に増加する」と予測している。

2016年からの3年間は最高の年に

Annis氏は、AMOLED製造に関して「フレキシブルAMOLED製造ファブを新たに設けるには、従来の曲がらないAMOLED製造ファブよりも4割増しの設備投資が必要となる。プロセスが複雑で、より多くの装置が必要になるからである。すでにAMOLEDを手掛けて枯れたプロセスを確立しているメーカーにくらべて、新規参入組は、プロセス選択や開発のためにより多くの開発費が必要になる」と述べた。

同氏は、FPD製造装置への投資に関して、「AMOLEDを中心とした各国のFPD工場増設のおかげで、FPD製造装置メーカーにとって2016-2018年の3年間に渡って売り上げが最高となるだろう。2016年のFPD製造装置市場は、前年比89%増(2016年1月時点での44%増という予測から上方修正)の129憶ドル規模へと驚異の伸びを示し、2017年は130億ドルとほぼフラット、設備投資が一巡する2018年以降は調整局面に入ると予測している」と述べた。製造装置メーカーにとって絶好のチャンス到来と言うことだ。