小惑星イトカワの探査機「はやぶさ」、衝突する直前の双子のブラックホールの発見、そして金星探査機「あかつき」など、最近、宇宙に関わる話題が続いています。ここ数年の天文ブームはさらにヒートアップの様子。

それならば、天体観測の原点である天文台へ。国立天文台が三鷹にあるって知ってました? 双子のブラックホールを発見したのもここの研究グループなのです。一般に開放されている「見学コース」には興味深いものばかり。そして、宇宙の謎を解明するすごい施設がもうすぐ完成……アルマ(ALMA)って何??

冬は星空が美しい季節なので、たまには夜空を見上げてみよう。この写真には「冬の大三角」も写っている。提供:国立天文台

タヌキも棲む? 自然が豊かな散策スポット

JR武蔵境駅や京王線調布駅などからバスで約15分。三鷹市大沢にある国立天文台は、とにかく緑に恵まれていて、東京とは思えないほど。森林のようなエリアもあり、散策目的で来る人も少なくないそうです。「見学コース」は年末年始をのぞいた、10時から17時(入場は16時30分まで)で、受付でワッペンをもらえば自由に見学することができます。

国立天文台の前身である東京天文台は、もともと港区の麻布飯倉にありましたが、1914(大正3)年から1924(大正13)年にかけて、当時三鷹村だった現在の場所に移転されました。今でこそ、まわりは住宅街ですが、東京オリンピックの頃までは、田園風景が広がる静かな郊外で、天体観測には最適の土地でした。

広々とした敷地には、さまざまな施設が点在していますが、雑木林にはタヌキが生息しているのだとか。ここなら動物たちも快適に暮らせそうなので納得です。訪ねたのは、まだ紅葉が残っている時期。ぜひ四季折々の風景も楽しんでみたいなと思いました。

国立天文台の入り口。自然豊かであることがよくわかる

案内図のピンク色のエリアが、一般にも公開されている「見学コース」

国登録有形文化財指定の観測施設

見学コースで最初に登場するのは「第一赤道儀室」。1921(大正10)年に完成した国立天文台三鷹内で現存する最古の建物で、国の有形文化財に指定されています。中には口径20cmの屈折望遠鏡があり、1939年から60年間にわたって、スケッチによる太陽黒点の観測などが行われていました。ん? ということは1999年まで現役。建物の見た目はだいぶ歴史を感じさせるのですが、意外と最近まで活躍していたわけです。

第一赤道儀室の前の道は「太陽系ウォーキング」。太陽系の距離を140億分の1に縮めた展示で、各惑星のパネルが置かれています。14億kmある太陽から土星の距離は、ここでは100mというわけです。

その先には1926(大正15)年建設の「天文台歴史館」、かつての大赤道儀室が、高さ約20mの堂々とした姿を見せています。内部には、長さ11m、口径65cmの一本形としては国内最大の望遠鏡があり、こちらも圧巻。さらに天井のドーム部分は、造船技師の技術を取り込んだ、たいへん珍しい木造で、その芸術的な見事さは必見です。

第一赤道儀室は貴重な見どころのひとつ。手動式で動かすドームなど内部もじっくり見学しよう

天文台歴史館の外観。この手前が太陽系ウォーキングの道となっている

天文台歴史館の中にある巨大な望遠鏡。木造のドームの直径は15mもある

建物全体が望遠鏡!? アインシュタイン塔

「太陽系ウォーキング」から雑木林の中へ進んでいくと、ちょっと不思議な建物が現れます。「太陽塔望遠鏡」。通称「アインシュタイン塔」で、こちらも国登録有形文化財です。鉄筋コンクリート造で地上5階、地下1階。屋上のドームから光を取り込み、半地下の大暗室でスペクトル(虹色の光の帯)に分けて観測するシステムになっているとのこと。つまり、塔全体が望遠鏡の筒の役割を果たしているわけで、とにかくなんだかすごい。

でも、なぜアインシュタインなのか? これはドイツのポツダム天体物理観測所が、アインシュタインの一般相対性理論を太陽光の観測から検証する目的で建設した「アインシュタイン塔」と、同じ構造の建物であるため。その役割などについては、難しすぎて???ではありますが、木々の中に佇む建物の姿はとても風情があります。

その他、「子午儀資料館(レプソルド子午儀室)」や「ゴーチェ子午環」など、ざっくりと言って、天体の位置の観測に使われていた施設があり、内部を見ることができます。こちらの建物も歴史が刻まれた風格が漂います。

その奥の広い敷地にある「天文機器資料館」は、もともと「自動光電子午環」という1982(昭和57)年に建設された、天体の精密位置観測用の施設でした。当時はもちろん、最新鋭の施設でしたが、その7年後にヨーロッパで人工衛星による観測が始まると、わざわざ地上から大気を通して星の観測をする必要がなくなってしまったのです。

アインシュタイン塔へ向かう林の中の道。タヌキが出てきても不思議ではない

独特の雰囲気があるアインシュタイン塔。外壁がタイル張りなのはめずらしいとのこと。パネルの説明を見ると、そのシステムが理解できる

子午儀資料館。中にある子午儀という観測機器は今の価値で1億円もした

ゴーチェ子午環。かまぼこのような半円形の建物が印象的だ

天文機器資料館の中には、いろいろな天文台の収蔵品が納められている

すばる望遠鏡、野辺山の宇宙電波望遠鏡、アルマ望遠鏡などについて知ることができる展示室

宇宙の謎に挑むアルマ(ALMA)望遠鏡とは?

見学コースには小さな展示室もありますが、ここでの注目はやはり「アルマ(ALMA)望遠鏡」。「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」の略で、南米チリのアタカマ高地で建設が進められています。

複数のアンテナの観測データを合成すると、巨大な直径のアンテナに相当する空間分解能(視力)が得られ、このような方法を利用した電波望遠鏡は「電波干渉計」と呼ばれます。アルマ望遠鏡は、パラボラアンテナを66台(!)組み合わせる干渉計式の巨大電波望遠鏡。

アンテナはすべて移動可能で、その間隔を18kmに広げることで、直径18kmの電波望遠鏡と同等の能力を発揮できるわけです。これは、大阪に落ちている10円玉を、東京から見ることができるようなもの。空間分解能はすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡のおよそ10倍を誇ります。

また、波長の短いミリ波(波長は10mm~1mm)やサブミリ波(1mm~0.1mm)は、技術的な問題や空気中の水蒸気などにより、今まで本格的な観測が困難でしたが、水蒸気による電波吸収の影響が少ない、標高約5000mのアタカマ高地に建設されるアルマ望遠鏡により、その観測が可能となります。

宇宙空間の塵やガスは光を放射しませんが、ミリ波やサブミリ波を放射しているので、アルマ望遠鏡の観測が始まれば、生まれたての銀河や惑星の誕生など、光では見えない暗黒の宇宙を見ることができます。

アルマ望遠鏡は、国立天文台を代表とする東アジアと北米、ヨーロッパの国際共同プロジェクト。2002年から始まった建設は、2012年から本格運用の予定。そう、これまで知りえなかった宇宙が解明されるのは、もうすぐのことなのです。

アルマ望遠鏡の完成予想鳥瞰図。とにかくそのスケールの大きさには驚かされる。Credit:ALMA(ESO/NAO/NRAO)

アルマ望遠鏡のようす。人と比べると大きさがよくわかる。提供:国立天文台

ここでは、月に2回、定例観望会が開催され人気を博している。予定等の詳細はHPを参照

中には口径50cmの望遠鏡があり、季節ごとにいろいろな天体観測が行われる

売店では天文関連グッズも販売している。天文関連の解説が印刷されたトイレットペーパーはやはり好評