サイエンスカフェ。知らない人は、科学の実験をしているカフェを想像するかもしれませんが(そういう場合もありえますけど)、科学の話を科学者や科学に精通した人から聞くカフェのこと。とは言っても、難しい講義なんかではなくて、少人数のアットホームな雰囲気の中で、楽しく気軽に科学をテーマに対話し議論する場所です。

テーマは宇宙から昆虫、エコなどさまざま、カフェの場所も全国に点在しています。「でも、カガクって、ちょっと苦手で……」と言う人も、興味のあるテーマが何かあるはず。顔を出してみれば、科学心にポッと火がつくかも。

そもそもサイエンスカフェとは?

各地のサイエンスカフェを紹介したサイトをご覧いただければ、イメージがつかめるものと思いますが、ひと口にサイエンスカフェと言っても、大学での開催あり、企業が関係している場合あり、ほんとうに小さな町のカフェで開かれることありと多種多彩。

テーマも、タイムリーなインフルエンザなどから、食品、メタボ、老化、鉄道、人類の進化、DNA、ロボット、防災、宇宙、昆虫、花、科学史……、とこちらもさまざま。北国では、雪というテーマも目立ちます。

カフェの内容についても、子どもを対象としていたり、大人向けだったり、家族向けに開かれたり、それぞれの会によって異なります。お菓子やドリンクが付いているカフェも多いようです。ルールも違いますから、興味のある会については先ほどのサイトで確認しましょう。

国立天文台とコラボする「星と風のカフェ」

さて、今回おじゃましたのは、三鷹市にある「星と風のカフェ」。こちらは、NPO法人三鷹はなの会が三鷹市からの委託事業として運営しているアンテナショップで、店内には市内の障がい者施設などで作られた製品が並びます。

「星と風のカフェ」は、気軽に立ち寄りたくなる雰囲気。三鷹駅南口から徒歩約8分、さくら通り沿いにある

オープンしたのは、昨年7月7日の七夕。より多くの人に福祉施設の自主製品を知ってもらうために、福祉関係だけではなく、いろいろな展開を積極的に行っていて、三鷹市にある国立天文台と始めたコラボレーションのひとつが「星と風のサロン」と呼ばれるサイエンスカフェです。昨年10月からスタートしたこのサロンは毎週木曜日に開催され、さまざまなテーマを取り上げてきました。

「テーマによって違いますが、10人から20人くらいの参加者がいらっしゃいます。年齢層は幅広いのですが、熟年層の方が多いでしょうか。みなさん科学のことについて、とってもお詳しいんですよ。でも、若い女性も結構参加されます。特に天文がテーマのときは多いです」と店長の郷智子(ごう ともこ)さん。

そういえば、お店の外には黄色いお星様があったりして、店名のとおりロマンチックな雰囲気が漂っています。星のオブジェ制作やそのほかのデザインなどには、武蔵野美術大学芸術文化学科の生徒さんたちも協力されたそうです。

女性好みのかわいらしいデザインも、あちらこちらに見られる

お店は、三鷹市の障がい者施設などの自主製品のアンテナショップとしての事業を行っている。棚にはさまざまなグッズが並ぶ

手作りのクッキーも人気。こちらはユニークでかわいらしいな「月の満ち欠けクッキー」

コラボしている国立天文台のコーナーもあり、関連グッズを購入することができる

気になった「アストロノミカル・トイレットペーパー」。これを使えば、星の一生がわかる?

参加者からは専門的な質問も

取材した日は、第1回東京国際科学フェスティバル開催中で、通常とは少し違ったスケジュールが組まれていました。この日のテーマは「素粒子カフェ~TVが教えてくれないノーベル賞~」。参加者は8人、うち3人が女性です。

講師は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所理論部協力研究員の泉田(せんだ)賢一さん。これこそまさに別世界……、とひるんでしまいましたが、ユーモアたっぷりの話にちょっと安心。で、このKEK。2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠さんがいらっしゃったところ。益川敏英氏、南部陽一郎氏とともに3人の日本人が同時にノーベル賞を受賞したことは、まだ記憶に新しいはず。小林さんと一緒に写っている写真も見せてくれて、参加者のテンションも上がります。

ユーモアを交えて話をする泉田さん。特定非営利活動法人発見工房クリエイト理事長の肩書きももつ

小林誠氏と一緒の写真。中央が小林氏。その右側奥に泉田さんの顔が小さく写っている

日本人のノーベル賞受賞者はなぜか素粒子関係者が多いとのこと。カミオカンデでニュートリノを検出しノーベル賞を受賞した小柴さんは、運よく超新星からとんできたニュートリノ検出に成功したこと。それは観測可能な超新星が爆発する割合から、だいたい100年に1度のチャンスをつかんだといえること。などなどの話に「へぇ~」とうなずきっぱなし。

また、毎年ノーベル賞を誰よりも待っているのは、実はマスコミであること。でも、ノーベル賞を受賞した小林・益川論文について、正しく報道したマスコミはゼロだったこと。というより、その説明をしてもマスコミ関係者には理解してもらえず、正確なことを言えば言うほど一般の人にはわけがわからなくなってしまうこと。などの話には「なるほど」と納得。ちなみに、小林・益川論文は全体でも雑誌の6ページで、理論に関する部分は、そのうち1ページだけだった、という話にはびっくりしました。

日本には素粒子関係のノーベル賞受賞者がこれまで7人出ている。誰だかわかりますか?

イラストや動画を使って、わかりやすい解説が行われた

しかし、何よりも驚いたのは、参加者のおじさま方の質問の内容。サイエンスファンに過ぎないというものの、クォークとか、自発対称性の破れとか、CKM行列とかの説明にうなずき、難しい質問(あまりにも難しすぎて説明すらできません)がビシバシ飛び出す。うーん。ものすごくアツい。

これって最近はやりの「熟年バンド」的なアツさに近いかも、と感じた次第。みなさん、目がキラキラしてます。「学校の勉強はいやだったけど、ここではなんだかおもしろいかな」文系のワタクシも、難しい内容はぜんぜんわからないのに、そう思いました。サイエンスカフェ、大人を熱中させてますよ。

1時間ほどで解説が終わり、その後はお菓子を囲んでのフリートーク、質問タイムに

ひとりひとりの質問にも、泉田さんは丁寧に説明をする。それにしても、みんな質問内容のレベルが高い……

2時間という時間はあっという間。こういう場所なら、どんどん科学に興味がわいてくる。何よりも、科学者と親しく話ができる機会があるのが、サイエンスカフェのすごいところだ

なお、泉田さんは「分かりやすい特殊相対性理論講座」も主催しています。