上野公園にある国立科学博物館、と聞いて、何を思い浮かべますか? 子どもたちのための施設? 子どもを連れて行きたい施設? おそらく「子ども」のための教育の場であると思う人は多いかもしれません。しかし、あえて言い切れば、これは大人が楽しむための贅沢、かつ貴重な場所なのですっ!

え? 大げさだって? いえいえ、そんなことはありませんよ。あの忠犬ハチ公がいるのを知っていますか? 世界で2つしかない化石があるのを知っていますか? ここって、みなさんの想像以上にスゴイとこなんです。

国立科学博物館の入口には、懐かしの蒸気機関車D51が展示されている

縄文時代にも介護があった!?

国立科学博物館は日本館と地球館から成り立っています。日本館は1931(昭和6)年の開館。2007(平成19)年にリニューアルしました。建物そのものも魅力的なのが日本館。中央ホールから左右に建物が延びていて、飛行機の翼のような形をしています。中央の吹き抜けと周囲のデザイン、その上に施されたステンドグラスなど、芸術的な見どころがいっぱいです。

今回は、広報担当の関根則幸(のりゆき)さんに案内していただきました。日本館ではその名の通り日本の自然や日本人などについて展示されています。3階(北翼)に上がるとフタバスズキリュウが出迎えてくれました。これは1968(昭和43)年、当時高校生だった鈴木直氏が福井県いわき市で発見した首長竜の化石です。ここには日本最古の化石などをはじめ、日本列島の誕生以前から日本列島の成立まで、つまり日本の生い立ちがテーマとなっています。

案内板の前で館内の全体的な説明をしてくれた関根さん

建築のすばらしさもゆっくりと鑑賞したくなってしまう

その下の階では、日本人の先祖たちの様子を知ることができます。「これは興味深いですよ」関根さんは人骨の展示の前で立ち止まりました。「10代後半の女性の骨だとされていますが、手や足の骨が異常に細いんです。何かの病気で寝たきりの生活だったと考えられていますが、ちゃんとこの年齢まで生きていました。まわりの人たちがきちんと面倒を見ていた、いわば介護していたということでしょうね」

縄文人も介護をしていた? なんだか、とっても現代(いま)っぽい。みんなで助け合って暮らしていたことが、すごくリアルに感じられて、急に縄文人に親近感がわいてきました。

フタバスズキリュウは首長竜。いわば爬虫類で恐竜ではないという

介護をされていたと考えられる縄文人の骨

研究者さんたちの情熱も感じよう

「こちらも、ぜひじっくりと見ていただきたい展示です。よく見ると、ちょっと不気味かもしれませんが……」そう苦笑して、関根さんは弥生人や縄文人の復元像を指差しました。さすがに博物館だけあって、その姿はリアルすぎるほどリアル。骨格などから厳密、正確な「人間」が再現されています。蝋人形とは比べ物にならないほど精密な造形であるため、かえってコワイかもしれません。しかし、学術的な追求によって生み出されたこれらの「作品」には、研究者さんたちの熱意が込められているのです。

すっとした顔立ちの弥生人とごつい感じの縄文人。どちらが何人かは、わかりますよね?

皮膚の質感、筋肉の動き、表情の豊かさなど、見れば見るほど「スゴイ」と唸ってしまうほど。やはり、人間を再現するのは何よりも難しいのでは、と思ったら、関根さんが首を横に振りました。「一番大変で、苦労に苦労を重ねて作られた『傑作』は、実はこちらなんですよ」そこにあったのは、……稲。

「へ?」と一瞬、目を丸くしたものの、何気なく、そう、本当に何気なく展示されている稲は、実際に展示されている種類の稲を育て、それを収穫して、水分をアルコール置換し標本化したものといいます。よくよく見れば確かに、スゴイものだといのがジワジワとわかってきます。でも、そのすごさはあんまり見学者に伝わっていないかも。もっと、アピールしてもいいのではと思った次第です。

たいへんな労作である稲の標本。間近でじっくりと観察してみよう

それから、ここにはハチ公の剥製も置かれています。が、案外、これも知られていないかもしれません。というか、その大きさにちょっとびっくり。ハチ公の後ろには、南極にいたジロもさりげなくいますので、見逃さないようにしましょう。

アメリカ映画で再び脚光を浴びそうな忠犬ハチ公

そのスケールに圧倒される地球館

2004(平成16)年に全館オープンとなった地球館は、日本館の4倍の広さがあり、何よりもそのスケールの大きさに圧倒されます。恐竜、動植物、科学技術、宇宙などなど展示テーマは幅広く、展示物も迫力があるものばかり。実際に遊びながら科学と親しめる「たんけん広場」などもあって、子どもに人気ですが、大人たちも夢中になってしまうはずです。

3階では、100体以上の動物たちの剥製がずらりと並んだコーナーが圧巻。動物たちの姿をじっくり観察することができるので、新しい発見もあることでしょう。ひとつひとつに動物名は出ていませんが、パネルで調べると動物のさまざまな情報と、自然の中で生きている様子を見ることが可能です。

これだけの数が並んでいると、さすがに迫力満点の剥製の大群

上野動物園にいたフェイフェイ(左)とトントンもここにいる

その下2階は、「科学と技術の歩み」をテーマとしたフロアで、江戸時代の科学技術から近代、現代への発展の様子を追うことができます。零戦が間近で見られたり、昔の巨大なコンピューターがあったり、人工衛星が展示されていたり。ひと際、地球館の大きさが感じられます。

この零戦は偵察用として使われていたもの。そのため銃器は装備されていない

たんけん広場にはいろいろな遊び道具があり、物理現象などについて学ぶことができる

国立科学博物館で最も貴重な展示とは?

地下のフロアには、思わず「待ってました!!」と声をかけたくなる(?)恐竜の化石が、ところ狭しと展示されています。それにしても、恐竜の化石って、どうして人の心を、いや男心(「男の子」心?)を刺激するのでしょうか。ま、それはさておき、メインというべき部屋には、いましたっ、ティラノサウルス!

「でも、これはレプリカなんです」と関根さん。「隣のアパトサウルスは本物で、こちらの方がもちろん断然価値はあります」アパトサウルスの化石は外側を鉄骨が支えていますが、これは本物の証。なるほど部分部分、骨が欠けているところがあるものの、実際に発掘された骨を組み合わせているというリアリティーがあります。すっきりとしたティラノサウルスに比べれば無骨(?)ですが、よく見るとその魅力がわかってきます。と言うか、本物なので魅力以前の話ですが……。

手前がティラノサウルス。奥に展示されているのがアパトサウルス

アパトサウルスの化石は外側から支えられている

「しかし、最も貴重なのは実はこちらのトリケラトプスなんですよ」正直言って「地味」というのが第一印象。岩にべったり張り付いたままだし。「このようにほぼ完全な全身骨格の化石というのはとっても貴重で、ロサンゼルスの博物館とここの2体しかありません」なんと、世界で2つだけのものうちのひとつがこれ、なのです。ほかの化石のように、骨の破片をつなぎあわせたり、途中をレプリカで補ったりするのではなく、丸々きれいに残っているのが、このトリケラトプス。幅約6メートルの化石は、正面のティラノサウルスに人気を奪われているみたいですが、ちゃんとした価値はこっちの方が上。化石の中の化石、を見逃さないように!

ティラノサウルスの顔の先に横たわっているトリケラトプス。こちらが「かはく」の最も貴重な財産というべき展示物

インドのネルー首相から贈られた象のインディラの骨格。上野動物園で見た方もいるのでは?

結論。「かはく」はじっくりと巡るべき。音声ガイドを利用したり、ボランティアガイドによる案内ツアーに参加したりするのが賢明です。また、年間1,000円のリピーターズパスは超お徳、「友の会」会員になるのもおすすめです。

科学博物館は何度も訪ねてその価値や楽しさが本当にわかるもの。そして大人こそ、じっくりと「かはく」とおつきあいしてみるべきではないのでしょうか。勉強になるし、毎回発見があるし、遊べるし、そして財布にやさしいし……。ぜひ、今回紹介できなかったところも(そっちがほとんどですが)、単に子どもに振り回されるのではなく、楽しんでみてください。

なお、7月22日(水)には、屋上で日食の観察会もあります。科学博物は、上野の山の上に建っているので、意外と高い場所にあり、周囲も開けていて、観察には適しているそうです。「かはく」の上の日食観察は、やはり何かが違う、かも(皆既日食の様子を衛星からの中継画像で見るイベントはすでに満席)。部分日食を楽しむ方法についてはこちらでも書いているので、参考にどうぞ