2009年がはじまりましたー。でも、世の中にはまだまだ暗くて「どよ~ん」とした空気が流れていますね。「今年はホントどうなるの?」と思っている方はたくさんいるはず。こんな時代を乗り切るためにはどうしたらいいのか、ということで新年第1弾は「坊主バー」をご紹介します。

その名の通り、現役のお坊さんがいるバーで、いろいろと相談に乗ってもらえますし、短い法要、法話も聞けます。悩みがある人もそうでない人も、ぜひ一度寄ってみては?

相談のテーマは99%が恋愛と人間関係

ビルは地下鉄四谷3丁目駅から徒歩7分ほどの場所にある

四谷の荒木町、大人の雰囲気が漂う町の一角のビルの2階にある「坊主バー」。ドアの右手には「南無阿弥陀仏」と書かれた木の札が架かり、ドアの左上隅には「檀家制」の文字が。

「これは洒落、です」と笑う店主の藤岡さん。「お客さんはグループだったり、個人の方だったり、年齢も幅広いですね。週末は結構混み合います」

7席ほどのカウンターとテーブル席が配された店内には、仏壇があり香が焚かれています。BGMはジャズ。最初はもの珍しく感じるかもしれませんが、気分が落ち着く空間です。

「坊主バー」は現在、四谷店と中野店の2軒。荒木町のお店は2000年9月にオープンしました。もともとは大阪のアメリカ村に誕生した「坊主バー」。様々な人が出入りして話をする開放された場所であった寺本来の姿を取り戻すため、「すべての人が水平に出会える場所」としてつくられたのが「坊主バー」でした。大阪の1号店は2008年にその役目を終え、その志は東京の2店に受け継がれています。ちなみに、英語では「Vows Bar」と表記します。「Vow」は誓いや願いの意味です。

奥には座敷風の席も用意されている

藤岡さんは浄土真宗本願寺派のお坊さん。カウンター内でカクテルなどをつくりながら、お客さんの悩みを聞いたりします。いろんな相談がありそうですが。

「お客さんからテーマをいただいてお答えしたり、相談に乗ったりしますが、99%が恋愛関連と人間関係についてですね」

ああ、やっぱり。そうですよねぇ。仕事のことにしても、結局は人間関係が問題ということが多いですし。占いもいいかもしれませんが、お坊さんに話をすると、また違った角度から答えが得られるかもしれません。

店主の藤岡さん。以前に比べると最近のお客さんは穏やかな人が多いとのこと

深刻な悩みを持った人も

でも、このような経済状況でリストラなどの深刻な悩みも多いのでは。それぞれ事情は違うのでしょうが、基本的にはどのようなお話をされるのでしょうか。お店の「会長」の肩書きを持つ浄土真宗大谷派僧侶の田口さんにうかがいました。

「そうですね。実際にリストラの相談もあります。まずは『何でオレがリストラに……』という考えを捨てることです。そのような考えを抱いていると、『では、ほかの人ならいいのか』ということになります」

仏教画や仏壇があり独特の雰囲気。自然にこころが和むのは、やはり日本人だから?

「何でオレが」の裏側には「オレさえよければ」という心理が隠れている。いろいろと考えさせられます。自分の家族さえ、自分の会社さえ、自分の国さえ……、そういった意識を捨てることを、浄土真宗の教えをひもときながら話していただきました。

「1日に朝と夜2回でいいですから、『何でオレが……』という考えを捨てるということを思い出してください。そうお話します。思い出すだけでいいんです」

焼酎、日本酒、ウイスキーなど、ユニークなお酒も置かれている。お酒の棚にも仏像が

田口さんは目が見えないという重度の障害を持っています。子どもの頃から目が不自由で高校のときはウツになったことも。「宗教なんかは大嫌いでしたよ」と言う田口さんは、たまたま出会った浄土真宗の住職の話に感銘を受け、僧侶になる決意を固めました。ご本人の様々な体験も含め、その言葉はとても重みがありますが、かといって難しいわけではありません。ご本人は豪放磊落。明るい口調でわかりやすく話してくれます。

田口さんは1日1回、5、6分ほどの短い法要や法話を行っています。もちろん、それ以外にも個別に相談に乗ってもらえます。「わたしはおじさんの相手が多いですけどね」。田口さんはそう言って笑いましたが、ぜひいろいろ訊いてみましょう。お墓やお寺とのつき合い方などの話もおもしろいし、ためになります。最後に田口さんはこう話してくれました。

「『坊主バー』に来ても、いいことはないかもしれません(笑)。もっとも『いいこと』というのはたいてい『自分にとって都合のいいこと』ですけれど。しかし『いいことがなくても生きていける』術(すべ)はお話しすることができます」

ここならではの日本酒「高野山 般若湯」。「極楽浄土」「無間地獄」などのオリジナルカクテルもある