【連載】

ほぼ別世界講座

4 知ってるつもりだった「ミリメシ」の世界--いざ、陸上自衛隊広報センターへ

    時田慎也  [2008/10/15]

    「ミリメシ」とは「ミリタリー(軍隊)」の「メシ(飯)」の意味。『世界のミリメシを実食する』など、ワールドフォトプレスが出版している「ミリメシ・シリーズ」や、ゲームセンターのUFOキャッチャーの景品となったことなどから、一部のマニアしか知らなかった「ミリメシ」の人気に火がついたといわれています。最近はテレビや雑誌、新聞などで取り上げられ、さらに認知度がアップしている様子。

    さて、実際の「ミリメシ」とは何だっ? ということで、いざ陸上自衛隊広報センターへ。ですが……。

    川越街道(国道254線)沿いにある陸上自衛隊広報センターの建物

    展示ゾーンには戦闘ヘリ、戦車、フライトシミュレーターなどが展示されている

    「実は我々も、口にする機会はないんですよ」

    はい。それが広報班高橋係長のお答えでした。

    よく考えれば当たり前で、本当の「ミリメシ」とは非常時、つまり戦闘(もしくは戦闘訓練)の際に兵士に支給されるもの。普段から食べているわけではありません。「ミリメシ」を口にする必要がないというのは、平和だということなのです。

    今回は、特別に駐屯地の内部も見学。昼食は隊員の食堂でいただきましたが、自衛官が駐屯地で食べる食事は「平常食」と呼ばれるとのこと。自衛隊の食事は「基本食」「増加食」「加給食」の3つで、「基本食」は「平常食」「患者食」「非常食(つまり「ミリメシ」)に分けられます。「増加食」は特別な勤務、訓練の際に、「加給食」は極度な緊張が強いられるパイロットなどに支給されます。

    ちなみに、自衛隊の「ミリメシ」は1食あたり約1,000キロカロリー。これは自衛隊では1日に3,300キロカロリーが必要とされているためで、本当の「ミリメシ」もこれに準じています。20~40代男性の平均的エネルギー量は2,650キロカロリーですから、自衛隊の過酷さが想像できますね。

    さて、先ほどから「本当の『ミリメシ』」と言ってきましたが、「ミリメシ」とは、自衛隊のみで消費されるもので、それ以外に流出することはないのです。

    「じゃあ、なんでブームになるねん! 」

    そう突っ込みたくなりますよね、別に大阪弁じゃなくてもいいのですが。

    巷(ちまた)に出回っているのは、実際に自衛隊員が食べるものとは別の物、そう説明すると「なんや、要するにニセモノやないかっ」と言われそうですが、実は「ニセモノ」とも言えないわけで……、その辺は後ほど解説を。

    一般の人が入ることのできない隊員食堂での昼食。ちなみにこの日は「ハヤシライス」と「豚肉とシメジ卵とじ丼」でした

    まずは「ミリメシ」の基本について、です。

    戦争から生まれた元祖「ミリメシ」は缶詰

    良し悪しは別として、戦争によって誕生、発展したわたしたちの必需品というのは少なくありません。「ミリメシ」では、缶詰がそれに当たります。本格的に使用されたのはアメリカ南北戦争の時です。(ところで、兵士が携行する食料は、正確には「レーション」と呼びますので、念のため。でも、ここではこのまま「ミリメシ」を使います)

    それ以前、独立戦争時のアメリカ陸軍の「ミリメシ」は当時の軍隊では最高水準といわれ、後のナポレオン軍と比較しても充実した内容でしたが、それでも補給事情が悪く、食事が支給されないことも珍しくなかったようです。戦争における「ミリメシ」は武器などと同様、大きな課題であり、改善が重ねられていきました。「缶詰」はまさに兵士たちの救世主だったのです。

    武器の進歩により戦争のスタイルが大きく変化した第一次世界大戦時、米軍では、すでに民間で作られていたコーンビーフなどの缶詰が利用されたり、インスタント・コーヒーが取り入れられていました。第二次世界大戦では、防水加工した紙箱が登場するなど容器も進化。ベトナム戦争では、フリーズドライ食品が使われ、あらゆる角度から「ミリメシ」の向上が図られたのです。

    その後も、レトルト、簡易加熱などの技術が開発されていきます。缶詰にはじまり、いずれも今の日常生活に欠かせないものばかりです。

    日本の「ミリメシ」はやっぱり星3つ?

    「ミリメシ」には世界各国の特徴が現れています。

    フランスはグルメのお国柄が反映、イタリアはパスタが欠かせない、英国はなんと言うか地味、韓国はもちろんキムチ付、などなど。

    『世界のミリメシを実食する』の表紙

    日本の自衛隊の場合、缶詰中心の「戦闘糧食I型」(通称、カンメシ)とレトルト中心の「戦闘糧食II型」(通称、パックメシ)があり、前者は保存期間3年、後者は1年となっています。カンメシは、とり飯、牛肉野菜煮、ソーセージ、たくあん漬など、パックメシは、白飯、ビーフカレーなど、さまざま。その内容は、和洋中とバラエティー豊かで、味も世界に誇れるものと言われています。

    カンメシは「乾パン+ウィンナーソーセージ」「白飯+鶏肉野菜煮」「しいたけ飯+味付ハンバーグ」など献立は8種類。それぞれに、たくあん漬が付きます。パックメシは9種類の主食と14種類の副食から成り、基本的に主食2個と副食パックが組み合わさって1食分となります。例えば、「白飯2つ、ハンバーグ、ポテトサラダ、高菜漬」「白飯+ドライカレー、チキンステーキ、ポテトサラダ、卵スープ」「白飯+カニチャーハン、酢豚、中華風わかめスープ、大根キムチ」などです。

    もっと詳しいことを知りたい方は、(別に手を抜いているワケではありませんが)前述の「ミリメシ・シリーズ」をどうぞ。図書館にも置いてあります。

    誰もが食べられる「ミリメシ」って?

    さてさて、ようやく誰もが手に入れられる「ニセモノ」とも言えない「ミリメシ」について。結論から言うと、東京都練馬区にある陸上自衛隊広報センター(りっくんランド)の売店で購入することができます。ここは自由に入館でき、戦車やヘリコプターなどの装備品を間近で見ることができる施設(詳細は後述)。売店では「ミリメシ」のみならず、さまざまなレアなグッズやアイテムが購入できます。

    外にはさまざまな戦車などが並んでいる陸上自衛隊広報センター

    売店の正面には、ずらりと各種ミリメシが陳列されている

    こちらは新商品! 女性自衛官クッキー

    知る人ぞ知る、自衛隊限定キューピーも定番人気グッズのひとつ

    ここに置かれている「ミリメシ」の販売元は株式会社武蔵富装(むさしふそう)。官公庁などに向けて非常食を販売してきた会社で、自衛隊の地方駐屯地向けの「ミリメシ」も10年前から扱っています。その数は年間15万パック。今年からは陸上自衛隊の中央組織にも年50万パックを販売しています。

    そのまま食べられる「サバイバルセットC」(パン缶セット 960円)は賞味期限3年。水をかけるだけであたたかい料理になる「あつあつミリメシ」(写真はすき焼きハンバーグ 650円)は1年間保存可能

    武蔵富装が自衛隊に販売している『本当のミリメシ』。左が地方駐屯地向け、右が中央の陸上自衛隊向け

    この、いわゆる本物の「ミリメシ」を開発してきたノウハウを活かし、「サバイバル食品」として継続的な販売を始めたのがおよそ3年前。「本物」ではないが「ニセモノ」でもないというのは、開発・販売元が同じため。内容や装丁は異なっても、味はほぼ同じというわけです。(ただし、一般向けということで1食あたり700~800キロカロリー)

    「サバイバルセットC」の中には、パンの缶詰、コーンスープと丸かじりチキンが。パンはふんわりと柔らかく食べ応えもあり。スープとチキンは意外とあっさりした味

    「すき焼きハンバーグ」の中には加熱用の袋が入っている

    この袋にご飯とおかずのパックを入れ、150ccの水を注ぐ。1、2分ほどで発熱が始まり、袋は蒸気でふくらむ

    やや濃いめの味付けだが、普通のレストランで出てきても不思議ではないおいしさ

    「長持ちすること、栄養バランスの基準を満たすことなど、さまざまな条件がありますが、何よりもたいへんなのは、味かよいこと、そしてできるだけ安いこと」。 そう話すのは、同社開発部長の庄子さん。「非常食=まずい」というイメージは昔のこと。今は非常食にもうまさが求められているそうです。

    現在ある「ミリメシ」商品は約20種類。販売数は月5,000~1万個にもなります。人気があるのは、ご飯とおかずがセットになった「サバイバル弁当」に、加熱用の袋を入れた「あつあつミリメシ」。「サバイバル弁当」でも充分においしいのですが、やはり温かな料理が食べたいのは、どこでも一緒。

    中でも最も支持を集めているのは「ウインナーカレー」で、ウインナーとカレーの調和とそのボリューム感が受けているとか。ピリカラ味がクセになる「中華風カルビ」、大人気の2つの料理を合体させた「すき焼きハンバーグ」、さといも、にんじん、こんにゃくと若鶏の手羽もと煮がたっぷり入った和風メニュー「とり手羽煮」なども負けず劣らずの人気ぶりとのこと。ぜひお試しあれ。どれもサバイバル気分からほど遠い、贅沢グルメ感が楽しめちゃいます。

    なお、このブームだけではなく、最近は会社が購入していく例がとても目立ってきているとのこと。「ミリメシ」はいわば究極の非常食。災害向け非常食はいろいろとありますが、自衛隊の厳しい条件をクリアしている「ミリメシ」が、本来の機能の面から注目されるのは、考えてみれば当たり前のことです。

    ブームなどに関係なく、必需品として「ミリメシ」を捉えなおしてみることが必要なのでは。と、改めて思った次第なのでした。

    陸上自衛隊広報センター

    住所 : 東京都練馬区大泉学園町
    URL : http://www.mod.go.jp/gsdf/eae/prcenter/
    料金 : 入場無料
    開館時間 : 10時~17時
    休館日 : 月曜日、第4火曜日(祝日にあたる場合は翌日)、年末年始

    陸上自衛隊広報センター以外での「ミリメシ」の購入について

    サイトでの購入 : アルバトロス エンタープライズ / ピーエックス
    会社・団体での購入 : 武蔵富装

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