東亜薬品工業本社

PCの前にいなければメール対応ができないホスティング型のシステムに不満を感じ、Google Appsへ乗り換えるという事例は多い。そこにSFAを同時導入して連携させることで、アカウント管理コストが発生することを問題視していた経営層に将来的な発展の可能性を伝え、効果の高い導入を実現したのが東亜薬品工業だ。

ホスティング型メールで対応しきれない現場業務

東亜薬品工業は1948年の設立以来、医療用医薬品や医薬部外品、健康食品原料など医療と健康に携わる幅広い分野で成長してきた企業だ。人間や動物の健康 に重要な役割を持つとされる腸内細菌叢を整えるための乳酸菌などの有用細菌を含む製品を製造販売する、プロバイオティクス事業を主力として展開。新培養設備を利用しての培養受託事業なども手がけている。近年は、切迫早産における子宮収縮の抑制剤である医薬品「マグセント注」による産婦人科領域での貢献も注目されている。

培養施設 カルチャープラント(2013年1月竣工)

培養設備一例

そうした科学の最先端にいるように見える東亜薬品工業だが、比較的近年までホスティング型のメールサーバを利用し、各従業員がOutlook等のメールソフトを通してメールの送受信を行うスタイルをとっていた。端末に取得したデータをローカルで扱うPOPメールには、さまざまな問題があったという。

東亜薬品工業 経営管理本部 経営管理部 システム管理課 係長 山科健一氏

「PCに向かってメールを取得するまで内容が見られないというのも問題でしたが、そのせいで出張中にメールサーバの容量を超えてしまい、大切なお客様からの連絡を受信できなかったというような事もありました。当社ではお客様本位の企業として成長する事を理念としているのですが、これはその理念に照らしあわせても大きな問題です。なんとかしなければならないと対応を模索していました」と語るのは、東亜薬品工業 経営管理本部 経営管理部 システム管理課 係長である山科健一氏だ。

現場での問題に対応するために、改めて従来のメールシステムを考えると、PC上にメールが保存されるということは、HDD等が故障すれば重要な情報を損失してしまうリスクをはらんでいるのだということにも気づく。「従業員それぞれへのメールを含むデータバックアップの重要性について教育は行ってきましたが、実際には行われていなかったケースも多かったですね。幸い完全に損失してしまうということはほとんどなかったのですが、障害発生時には復旧のために多大な労力と時間、費用を要しました」と山科氏。

東亜薬品工業では当時、POPメールソフトを指定していなかった。そのため、ユーザーが自分の使いやすいメールソフトを利用できた。これはエンドユーザーにとっては快適さを増すよい環境だったかもしれないが、サポートする側の労力は増える。「PCが新しくなるときにはメールデータを移行するわけですが、システム担当者に大きな作業負担が発生していました」と山科氏は語る。

情報の蓄積・検索・共有に長けたGoogle Appsを選択

課題を見つめ、新たなメールシステムの導入に向けて取り組みだしたのが2010年のことだった。当初はオンプレミスで利用するグループウェアパッケージと、別のクラウド型サービスとの比較検討を行った。この中でGoogle Appsが注目されたのは、メールの蓄積と検索に関する優位性があると認められたからだという。

「企業の組織的成長に欠かせない要素として、有用な情報を利用しやすい形で蓄積し、共有するということが挙げられます。Google Appsは十分な容量を持っているため、蓄積するという部分に優位性があると感じましたし、貯めた情報の活用については、さすが検索のGoogleという印象で、その取り出しやすさは大きなポイントとなりました」と山科氏。

出張時等の利用に向けてモバイル端末からの接続についても検証されたが、東亜薬品工業が特に大切だと考えるメールとスケジュール管理についての機能が、モバイルからも使いやすいことは大きく評価された。

「また、クラウドシステムとしての信頼性、特に可用性については、当時他社の追随を許さないものだと思えました」と山科氏は選択の過程を振り返る。

SFA連携で経営層を説得、現場の効率もアップ

十分な検討をしたうえでGoogle Appsの導入が決定されたのは、2010年8月のことだ。しかし、実際の利用は2011年5月からだったという。なぜ決定から実用までにそれほど時間がかかったのかといえば、システム連携を狙ったからだ。新しいメールシステムの稼働と同時に、SFAシステムの導入も企画していたため、タイミングを合わせたのだ。

「実は導入よりも起案の段階で社内的な苦労がありました。Google Appsを導入することでどのようなメリットがあり、どれだけ仕事が変わるのかということを経営層に伝えるのが難しかったのです。従来は不要だったアカウントごとのランニングコストが発生するということに注目されてしまい、承認がおりないのではないかと感じました。そこで考えたのが、SFAとの同時導入だったのです」と山科氏。

経営層が興味を持っていた、外回りの営業の動きが見えるようになるという点を実現するために、NIコンサルティングの「顧客深耕日報」と組み合わせてGoogle Appsを利用することを提案。NIコンサルティング側から提供されたGoogle Appsとのスケジュール連携機能を利用して、モバイルワークの可能性を広げることで承認されたという。

「現在は必要な従業員と希望する従業員が、スマートフォンからメールやスケジュールを利用し、迅速な対応を実現しています。以前は共有すべき予定を月初めにExcelへ入力していたのですが、現実にはその予定からズレてしまっていることもよくありました。Google Appsを導入してからは現実のスケジュールがきちんと共有できるようになりました。私自身もシステム導入のプロジェクトが多忙を極めて、分単位で会議や来客が立て込み、参加者の空き時間を絶え間なく調整しなければならない時期がありましたが、Google Appsのおかげで無事にこなすことができました」と山科氏は導入の効果を語った。

サテライトオフィスの「組織カレンダー」やハングアウトを活用

東亜薬品工業が利用しているスケジュール機能は、サテライトオフィスの提供するアドオン「組織カレンダー」だ。これは日本企業にとって欠かせないツールだと山科氏は語る。

「サテライトオフィスには導入準備段階から、アドオンの説明を数回してもらいました。いろいろな代理店があり、ただアカウントを販売するだけのところもあるなか、サテライトオフィスは内容に詳しいことや、サポートが充実していることが魅力ですね。組織カレンダーは特に見やすさが魅力的で、現在社内では予定を書き込むのはGoogle Appsの標準スケジュールから、閲覧するのは組織カレンダーからという形で利用しています」と山科氏。情報共有の場として用意しているポータルも、サテライトオフィスが手がけたものだという。

最近ではハングアウトを利用した遠隔会議も盛んになり、移動コストの削減や、外出の多い従業員と内勤従業員とのコミュニケーションにも活用できているという。

「群馬県にある館林工場と東京本社との会議が月数回あるのですが、10対15というような大規模な会議でも十分に対応できています。最初は小さなマイクとスピーカーを使って期待したような性能が得られないと思っていたのですが、ヤマハのYVC-1000というスピーカーマイクを導入してからは不満がなくなりました。10人の移動コストを考えると少々高価なスピーカーマイクを購入した方がずっと効率的ですね」と山科氏はその満足感を語った。

日常の業務でPCを利用する従業員全員を対象に120アカウントで導入して2年半。最初の頃はUIが変わることなどに不満の声も聞かれた。当初はマニュアルを作成していたが、頻繁にUIが変更されるクラウド型サービスにはこの対応はあまり適切ではないと気づいてからは、導入サポートを必要とする入社したてのユーザーなどを重点的にサポートすることで新たな手順書などを作る必要はないと気づいた。

「現在、システムの対応は以前と比較して大きく減っています。Google Appsは簡単で性能がよいという特徴を持っています。導入にあたっては複数のベンダーからよく話を聞くことをお勧めしたいですね。当社では、導入後の発展的な運用についても提案してくれて、組織カレンダーのような有用なアドオンを無償提供してくれるサテライトオフィスにお願いすることで、よい導入にできたと感じています」と、山科氏はこれから導入を検討する企業へのアドバイスを語った。