20世紀の文学界における最高傑作のひとつとされる『グレート・ギャツビー』。主演を務めるのはミュージカル界のプリンスと呼ばれ、映像でも活躍する俳優・井上芳雄だ。バラエティ番組などでもミュージカル界のぶっちゃけトークを繰り広げることで人気だが、そのすごさはどこにあるのだろうか。

"プリンス"も市井の人も演じられる

――ミュージカル界においての「大学院卒業」と表現されていた井上芳雄さんですが、現在の印象や魅力について、改めて感じるところを教えてください。

井上芳雄(『グレート・ギャツビー』)

守備範囲が広くなりましたよね。"プリンス"と言われて、二枚目の役をやっていたと思うんですけど、意外と映像や現代劇に出演するときには、全く逆のタイプの役をやる。舞台ではいつもプリンスなのに、映画『おのぼり物語』の主演など、地味な市井の青年の役をやることがプラスになっていて、リアリティを持った等身大の人間を演じられるようになったのではないかと思います。

ノーブルでどんなに汚しても普通に見えないとか、極端な容姿をもっているとか、すごいマッチョとかではなく、「普通の人である」ところがすごく生きていて、それが例えば舞台『負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-』で演じたテロリストの役でも良い評価につながっていました。"プリンス"的な役を演じるために努力していたであろう若者が、普通の人であったり、地下に潜っている人を演じるようになった。開き直って等身大の自分で勝負するというときに、底力がすごく出たんでしょうね。

本当の自分からかけ離れた外国人の役をやっていたことも含めて、いろんな作家のいろんな作品にどんどん出て全部消化していったのではないかと思います。相手のニーズに応えてカメレオンのようになるわけではなく、自然体でいるように見えるんですよ。色々な役を演じながら、軸はぶれていない。それがなかなか、「あっ」と思うんですよね。「すごいじゃん」と。彼は彼であることが、役の説得力になっている。

芯の部分は19歳の頃から変わらない

――それは、井上さんが『エリザベート』でデビューしたときの姿から、想像がついたものですか?

もちろん初々しかったけど、今思うと『エリザベート』のルドルフ役のときもまったく動じていなかったですね。すごいキャリアの先輩たちの中にいると、やっぱり興奮してしまって、バタバタする人も多いんです。ひっくり返ったりとんちんかんなことをやったり、本人がどこかへいってしまったり、緊張が丸分かりだったり、いろんな方がいるんですよ。でも、井上くんにはそれが全然なかった。「鈍いのかな?」と思ったくらいです(笑)。それくらい、落ち着いていました。

――芯の部分、動じない強さが変わらないということでしょうか。

変わらないですね。『エリザベート』の本読みの時って、みんないいところを見せようとして、失敗するんですよ。井上くんはもう、緊張はしていたんだろうけど、サクッと読んでみせましたから。自然体で見せていたことを、今でも覚えていますね。

――ギャツビーは振り幅のある役かと思いますが、プリンスも市井の人もできるという点が、生かされそうですね。

彼が演じるなら、極端な人にはならないと思います。ギャツビーが持っている二面性みたいなところを出せるのが、大変面白いんじゃないかなと期待しています。これだけ有名な作品だと、お客様の7割くらいはギャツビーがどんなキャラクターか知っていて、思い入れもあるだろうし、彼の演技に様々な想像をのせるでしょう。

彼も、どのくらい観客に想像させ、どのくらい想像させないかというところは駆け引きになると思いますよ。と同時に、今はしっかりとした俳優としての地位を築いた井上くんですから、その彼がやるにふさわしい作品にしなければいけないという気合いは入りますよね。

※最終回はミュージカル界の盛り上がりについての思いを伺っていきます(5月6日掲載)。