管理人材の不足と端末依存のメール環境がネックに

ホテル龍名館東京 宿泊部 マネージャー 濱田裕章氏

東京駅から徒歩3分という抜群の立地条件に加えて、老舗ならではの充実したサービスで多くの旅行客から支持されている「ホテル龍名館東京」。2009年6月のリニューアルオープンを機に、内外装も美しく一新された。

同ホテルを運営する龍名館では、今まで培ってきた古き良き老舗の伝統を継承しつつ、情報システム関連の改善に着手。2010年8月よりGoogle Appsを導入し、大幅な効率化とサービス向上を実現している。

「ホテル業界はもともとITの導入が遅れていました。他の業界では当たり前のように使われているシステムでも、ホテル業界にとっては新しい取り組みとなります。当社がWebサイトを構築したのも比較的遅かったですし」と語るのは、ホテル龍名館東京 宿泊部 マネージャーの濱田裕章氏だ。

ホテル業界でITの導入が遅れた理由の1つとしては、ほぼすべてのスタッフが現場で直接業務に携わっている点が挙げられる。これにより、一般企業のような専任のシステム管理部門を設けることが難しいのだ。メールを使っている企業でも、フロントスタッフが現場の業務と兼任で管理しているといったケースが多い。

これは龍名館も例外ではなく、PCについて詳しい人がメールサービスを管理し、利用者はOutlookで受信する方式を採用していた。この体制で大きな問題となったのは、メールの送受信が特定のクライアント端末に依存してしまうことだ。

「従来の環境では、特定の端末がある場所まで行かなければメールの送受信が行えませんでした。しかし、フロント業務に就いていると頻繁に持ち場を離れるわけにもいかず、ちょっとした空き時間を見つけて確認に行くしかないのですが、忙しくなってくるとちょっとした時間を作ることも難しくて。大変お恥ずかしい話ですが、お客様から何度か『メールでの対応が遅い』というお叱りをいただいたこともありました」と、今までの苦労について語る同氏。

Gmailでフロント業務とメール確認を両立

こうした現場の状況を改善するべく、同社は2010年夏にGoogle Appsの導入を決定。8月にはアカウントを購入し、実務環境の改善を図っていった。

「当初は、Lotus Notesのようなオンプレミス型のグループウェアの導入を希望していたのですが、それにはコストがオーバーするという問題がありました。管理面では、専任のシステム部門を設けられないので、現場以外の間接部門は極力小さくしたいということもありました。試しに、他社のWebベースのグループウェアを1ヵ月ほど使ってみましたが、比べるまでもなくGoogle Appsのほうが低コストでした。Google Appsはさらに誰でも使える操作性まで備えており、これ以上のものはありませんでしたね」と、同氏は導入時の様子を振り返る。

実のところ、Google Appsを導入したことによって、龍名館の業務は劇的に改善された。まず、Google AppsはWebベースのサービスであるため、メールを確認するためにわざわざ特定のクライアント端末まで移動しなくて済むようになったことが大きい。しかも、端末はPCに限らず、スマートフォンからでも手軽にメールを確認すること可能だ。

「返信とまではいかなくても、メールが届いているかどうかを確認できるだけでレスポンスのスピードがまったく違います。メールが届いていなければフロント業務に集中できますし、仮にメールが届いていたとしても、事前に返信内容を考えておくといったことが可能になるわけです」と、同氏も満足そうだ。

スタッフのモチベーションもアップ

Google Appsの導入はさらなるメリットも生み出した。それは、スタッフ間における情報交換の効率化である。

ホテル業務は基本的にシフト勤務のため、スタッフ全員が集まる機会が少なく、結果として情報共有が難しくなる。従来は紙ベースで伝言を残していたが、多人数での情報共有に向かないのはもちろん、その場に来なければ情報を入手できないのが欠点だ。

しかし、スタッフ全員にGoogle Appsのアカウントを付与することにより、メールを使ったリアルタイムなコミュニケーションが増加。また、Googleカレンダーでのスケジュール管理に加えて、GoogleサイトやGoogleドキュメントを使ったナレッジの共有まで手軽に行えるようになったのである。さらに、本社から間接部門のスタッフがホテルを訪問した際、ホテル内の端末で自身のメールをチェックできるのも便利だ。

同氏は、「最初こそ使い方に慣れずストレスを感じるスタッフもいましたが、1ヵ月ほどで操作に慣れ、各自が利便性を理解した後は非常にスムーズでした。GmailをはじめとしたGoogle Appsの機能で作業効率がアップしたのはもちろん、会社全体で"新しいものに取り組もうという意識"やITリテラシーが大幅に向上したのも嬉しいですね。今まではITにあまり興味がなかった人が率先してGoogleドキュメントで資料を作成したり、個人的にスマートフォンを購入するスタッフが増えたりしています」と、社内におけるGoogle Appsの浸透度の高さを語ってくれた。

同社では今後、Googleサイトによる社内ポータルの拡充やGoogleビデオを使った動画マニュアルなど、より幅広いGoogle Appsの活用方法を検討している。「ここまでスタッフのモチベーションが上がれば、あとはアイデア勝負です。そのうち稟議書など、他のワークフローも欲しいですね」と、同氏の表情も明るい。

老舗が誇る伝統のサービスと先進的な情報システムの融合を果たした龍名館。こうした取り組みは、ホテル業界全体にとっても大きな意味を持つと言えるだろう。