保守管理の負担が大きかった従来システム

明治28年創業の渕上呉服店を前身とする株式会社渕上ファインズは、ウェディングドレスのレンタルおよび販売事業を手掛ける企業だ。現在は本社のある九州を中心に、仙台まで34店舗を展開し、レンタル事業では3年弱で九州一にまで成長を遂げている。

渕上ファインズが展開する店舗と取り扱っているウェディングドレス

同社は長らく、国内ベンダーが提供するオンプレミス型のグループウェアを使用していた。用途はメールとスケジューラーがメインで、合計350ライセンスを購入していたという。

そんな同社がGoogle Appsを導入したきっかけは、導入から5年前後経過した従来システムのパフォーマンスが低下してきたこと、そしてサーバ管理や保守業務にかかる負担が大きくなっていたことが挙げられる。ビジネスの性質上、同社では海外からドレスの写真など数多くの大容量ファイルが送られてくる。しかし、当時のメールサーバの容量は全体で10GB程度しかなく、容量オーバーによるトラブルが頻発し、2名の情報システム担当者は対応に追われる状態が続いていた。

また、社内ポータルのバックアップタイムとして、深夜に2時間ほどデータベースを停止が必要という事情もあった。バックアップ中は社内ポータルにアクセスできないどころかメールも使えなくなるため、こうした状況も社員にとって不便な点だったそうだ。

当時の状況について、管理本部の西村正樹氏は「実はGoogle Appsを導入する直前に、500GBのメールサーバへ移行したばかりだったんです。しかし、このような容量拡張はキリがないですし、業務のスピード向上のためにもクラウド化による根本的な解決が必要だと感じました」と語る。

クラウド化に際しては、既存システムの後継サービスや「Office 365」なども候補に挙げて検討が行われた。その結果、最も利便性とコストパフォーマンスに優れたGoogle Appsに白羽の矢が立ったわけである。

まずは使ってもらうため、研修内容の絞り込みを重視

渕上ファインズでは、Google Appsを管理本部・本社・全社という3段階に分けて導入した。まずは2011年9月に導入が決定した後、管理本部内の5名でテスト運用を開始。10月末から11月にかけて本社での導入が行われ、2012年の3月頃より全社対応をスタートした。

西村氏は当時を思い出しながら「Gmailは個人的に使っていましたし、Google Appsのことも事前にある程度知っていたので、システム管理部門でのテスト運用には2ヵ月もかかりませんでした。どちらかというと、社内向けの提案資料を作るためにチェックした感じですね」と語る。

導入時に最も配慮した点が、4月から5月中旬にかけて約1ヵ月半を費やした研修期間だ。同社は社員の90%以上が女性で、なかにはPCに詳しくない人もいる。そこで、研修期間内で教えるポイントの絞り込みに注力。苦手な人にはまず必要最低限の機能のみを教え、実際に使ってみてから質問をもらうスタンスで進めたそうだ。

「メール機能だけを見ても、ラベルや自動振り分け、アーカイブなど従来システムといろいろ違いますし、当然ながらITリテラシーにも個人差があります。これをいきなり埋めることはできないので、たとえ習熟度に差が出ても『まずは使ってもらうこと』を重視しました」と語ってくれた。

同社は現在、全社で計350のユーザーアカウントを導入している。なお、メールに関してはシステム的にデータの移行ができなかったため、8月末まで新旧システムを並行稼働。その間に、各社員が必要なメールを転送するという手法を採用したそうだ。

動作の軽さや高度な検索機能で社員にも好評

社員の反応として一番多かったのは「動作が軽い」という声だったそうで、そのほか、「高度な検索機能で探したいメールがすぐに見つかり、サテライトオフィスから提供してもらった組織カレンダーも使いやすい」(西村氏)と、現場からも好評のようだ。

渕上ファインズは現在、メールやスケジューラー、社内向けポータルサイトなどをメインに利用。さらにGoogleビデオの活用も進んでいる。同社では、海外からデザイナーが訪日した際に、お客様を招待して店舗でファッションショーを実施することがある。その様子を動画としてアップロードしたところ、高い再生数を記録しているそうだ。

「各地域に拠点があるため、有名デザイナーが来日しても会える社員はごく一部です。そこで、デザイナーに会えなかった社員にその様子を伝えることで刺激になるかもしれないと動画をアップロードしたのですが、予想以上の反響があって驚きました。社員たちの間でも、研修教材をビデオで作ったり、社内イベントをビデオで簡単に共有したり、新たな活用術が次々と生まれているのも嬉しいですね」と、西村氏も笑顔で語ってくれた。

そのほか、同社では複数人でビデオ会議ができる「Google+」のハングアウトを導入し、大掛かりなビデオ会議システムからのリプレースを実現した。また、今まではメールで定期的に配信していた社内システム関連の情報をブログに記載し、更新情報を社内ポータルのトップにRSSで表示するといった取り組みも着々と進められている。

将来的には社外からのアクセスも解禁

Google Appsが持つ特徴の1つである社外利用については、現在のところセキュリティ面を考慮し、原則として禁止している。出張が多い社員や迅速な判断が要求される経営者層など、特定のユーザーのみ許可しているという。

「将来的には業務スピードを向上させるべく、社外からのアクセスも許可していく予定です。ただし、今のところは利便性よりもまずセキュリティを最優先しています」

渕上ファインズでは今後、社員たちのコミュニケーションをさらに深めるべく、社内SNSなどの採用も検討しているそうだ。平均年齢が20代という若さあふれる社員たち、そして円滑なコミュニケーションから生み出される数多くのアイデアは、企業にとって正に宝と言えるだろう。