大型パブリックディスプレイにもOLED採用の可能性

氷室氏は、大型パブリック・ディスプレイ市場も担当しており、「この市場は、約300万台/年と規模は小さいものの、メディアとしてのデジタルサイネ―ジというキーワードとともに認知されはじめたところであり、緩やかな動きながら市場の成長余地は十分ある。その一方で、足元では、他のディスプレイ同様に、為替の影響で新興国で価格が上昇し、需要が冷え込むリスクを抱えている。製品のトレンドは、FHD(Full High definition)を維持しつつ大型化で低価格化の方向である」と総括した。デジタルサイネ―ジについては「その真の目的は、情報が必要な人のみならず、興味の無い人にも見てもらう事である。効果的な設置場所を見出し、そのハードやソフトに面白さや驚きがあれば見てもらえる。継続的なビジネスを指向するなら、売りきりではなく、保守などのパッケージで顧客を囲い込む必要があろう」と述べた。

パブリック・ディスプレイへのOLED採用の可能性については「有り得る」としたうえで「技術課題に留意しつつ、空間デザインの観点から、自発光や高コントラストなどのOLEDのメリットが生かせる用途やアプリケーションの提案が必要だ」と語った。

LTPSとOLEDの受注競争が激化

ディスプレイ部門FPD部材市場担当アナリストの宇野匡氏

ディスプレイ部門FPD部材市場担当アナリストの宇野匡氏は、「パネルメーカーの収益が悪化しており、部材メーカーへの値下げ要求が厳しさを増している。同時にパネルメーカーは自ら部材のコストダウンにも取り組んでいる。ドライバICはコストダウン効果の大きな部材であり、テレビパネルの1チップ駆動まで可能になっている」と述べた。また、「大型パネルの投資は中国に集中している。さまざまな部材で中国部材メーカーが参入をはじめている」としたほか、「中国向けスマートフォン用ディスプレイではOLEDとLTPS-LCDが受注競争を繰り広げている。現状ではモジュールの厚みが焦点となっている。OLEDはバックライトが不要なため、薄型のモジュール設計が可能である。LTPS-LCDメーカーは、OLEDの厚みと同程度な厚みのモジュールを実現することを目指して開発をしている」と、LTPSとOLEDの技術競争が激化していくであろうとの予想を披露した。

車載用タッチパネルメーカーは根強く成長

ディスプレイ部門タッチパネルおよびユーザーインタフェース担当アナリストの大井祥子氏は、「タッチパネル市場は転換期に差し掛かった。スマートフォンに替わる大口アプリケーションの出現は期待薄である。そのため数量規模での成長は続くものの、成長率の鈍化による単価下落は避けられず、2013-2015年には金額ベースでマイナス成長となった」と語った。

ディスプレイ部門タッチパネル市場担当の大井祥子氏

また、「この分野は業界再編も進む。特に大型投資を行ってきた生産能力が大きなタッチパネルメーカーが影響を受けやすい。台湾のWintekに続いてCANDO(達鴻先進科技)も撤退を余儀なくされた。一方で、車載用や産業用など特定用途に特化したタッチパネルメーカーは根強い。これらのアプリケーションは、品質や部材、商習慣などが特殊なため参入障壁となっている。民生電子機器の先行きを不安視したタッチパネルメーカーがこれらの聖域にも触手を伸ばそうとしているが、これらの特殊分野は開発期間が長いため、財務状況が悪化しているタッチパネルメーカーには負担が大きい」と、民生タッチパネルメーカーが特定業務向けに参入することは容易ではないことを指摘したほか、「2015年は、従来の静電容量タイプに替わってEmbeddedタイプがハイエンドスマートフォンで増加した。2016年に注目されるEmbeddedタイプはセルフセンシングのインセル(In-Cell)である。追加の設備投資が必要なく、TFT工程内でセンサの形成が可能であるため、多くのメーカーが参入を計画している」と、技術的な付加価値をつける方向性に向くのではないかとの予測を述べた。

最後に同氏は「タッチパネル以外のさまざまなインプットデバイスが採用が進んでいる。タッチパネルと競合する場面もあるが、多くの場面では連携することにより機器の操作性を向上させることができる。今後は部材メーカーが連携するサプライチェーンを整備することも重要になろう」と述べて話を結んだ。