世界規模の市場調査会社IHS主催の「2016年前期ディスプレイ産業フォーラム」が2016年1月27日ならびに28日の2日間開催され、同社のディスプレイ部門やコンシューマエレクトロニクス部門の各分野担当アナリストの諸氏が一堂に会して、フラットパネルディスプレイ(FPD)の世界規模の最新調査結果を発表したほか、今後の動向の解説を行った。

ディスプレイ産業フォーラムの会場風景

中国での大規模投資とAMOLEDへの投資に注目

冒頭、同社シニアディレクターでディスプレイ部門アナリストの田村喜男氏が「FPD市場総論」と題し、「2015年は世界各国の通貨安により、FPD製品需要が低迷した年だった。特に新興国が影響を受けた。このため、LCD(液晶ディスプレイ)の供給過剰が生じパネル価格が急落、結果として収益が悪化した。そのような中にあって中国LCDメーカーは果敢に増産し、シェアを向上させた。現在でも中国政府および地方政府の支援を得て、中国内でさらに多数の工場建設が進んでいる。中国のTianma(天馬微電子)のLTPS(低温poly-Si)-LCDビジネス、および韓国Samsung ElectronicsのAMOLED(Active Matrix Organic Light Emitting Diode:アクティブマトリックス有機EL)の中国への外販が軌道に乗ってきたことが注目される」と2015年のディスプレイ業界を振り返った。

IHSシニアデイレクター兼ディスプレイ部門アナリストの田村喜男氏

また、「2016年は、通貨安の継続などにより世界経済は復調せずFPDへの需要は引き続き弱い。景気回復は2017年以降になるだろう。このためLCDの供給過剰が続き、大型LCDを手がける大手パネルメーカーは赤字決算となるだろう。しかし例外的に車載向けだけは堅実に成長する。一方FPDパネルメーカーはパネルの低価格化を進めるため、部材メーカーへの低価格化要求を強めるだろう。パネルメーカー自身もパネル内部の構造を変えるなど低コスト化のイノベーションを図るだろう。中国LCDメーカーは政府の補助金をもらっているのでなかなか生産調整してこなかったが、いつ生産調整を始めるのか、そのタイミングが注目される」としたほか、「2016年はOLED投資熱が高まる。AppleのiPhoneには、フレキシブル(弓型に曲げることが可能)でフォーダブル(ディスプレイパネルを折り畳むことが可能)なAMOLEDが近い将来搭載される模様だが、実際どうなるか目が離せない。Appleの新たなAMOLED需要に対応した韓国・日本・中国勢の投資動向が注目される。AMOLEDの用途は、スマートフォン、スマートウオッチ、タブレット、テレビなどが主となるが、韓国勢はノートPCやモニタ用途へも展開を進めるだろう。今年は中国勢の果敢な投資動向とAMOLEDをとりまく動きが2大注目トピックスになるだろう」と2016年の展望を語った。

今後成長が期待できるのはAMOLEDのみ

IHSシニアデイレクターでディスプレイ部門アナリストのCharles Annis氏は、「中国投資の大波および有機EL技術が主流へ」と題して講演し、「中国におけるFPD製造設備投資は、2016年に世界全体の67%、2017年には73%に達するだろう」と述べた。中国国内では、2016年から2017年にかけてBOEの6工場をはじめ合計18のFPD工場が建設中あるいは計画中だという。このうち、11工場がLCD、5工場がLCD/AMOLED(アクティブマトリックス有機EL)混流、2工場がAMOLED専用である。中国政府および地方自治体は、FPDの国産化のための資金援助を惜しまず、とりわけAMOLEDなどの先端技術を採用するように奨励しているという。

IHSシニアデイレクター兼デイスプレイ部門設備投資・技術担当アナリストであるCharles Annis氏

ディスプレイ業界で今一番注目されているAMOLEDについては、一言でいえば、「at the tipping point(いよいよ本格的普及がはじまる転換点に到達した状態)」だとし、「Samsungは、2015年の第3四半期から、AMOLED工場の稼働率を従来の5~7割台から一気に95%超へ上げているほか、Appleも近い将来のiPhoneへのAMOLED採用に強い関心を示している」と述べたほか、「2016年のディスプレイ市場は1200億ドル規模と予測されるが、2022年には1480億ドルまで拡大するだろう。LCDは今後10年以上にわたりディスプレイ業界で支配的地位を保つだろうが、金額ベースでは、減少の一途をたどるだろう。今後成長が期待できる分野はAMOLEDだけである。2016年のAMOLEDの売上高は、全ディスプレイ売上高の12%を占めると予測しているが、これが2022年には25%を占めるようになろう」とし、AMOLEDの量産には、未だ多くの課題が残されており、競争も激化しそうだが、今後、年率17%で市場は成長する見込みで、近い将来、主流になるのは確実だと、その成長性の背景を語った。

LCDからOLEDへと本格転換を進める韓国ディスプレイ業界

韓国駐在アナリストのYoonsung Chung氏によると、日本勢の技術優位性、業界再編によるビジネス強化、台湾勢のアメーバ戦略、中国勢の追い上げの包囲網の中で、韓国勢は、LCDメーカーからOLEDメーカーへの転換を本格化させているという。韓国では2~3年以内に、すべての種類のアプリケーション製品に(ノ―トPCやモニタなどにも)OLEDが採用できるようになるとみている。韓国のパネルメーカーたちは、OLED採用商品を従来のような「nice to have(あればいいな)」ではなく、フレキシブルで折りたたみ可能な特徴を生かした「must have(持たなければ支障をきたす)」方向にもっていこうとしている。

韓国では、大手2社ともAMOLED製造ラインを拡張する計画中である。Samsungの第6世代A3ライン(牙山、アサン)は、現在の生産能力(15K枚/月)を2016年から2017年にかけて5~6倍に増やす計画を立てている。対するLG Displayは、第4世代E2ライン(亀尾、グミ)の現在の生産能力(8K/月)を2016年半ばに倍増するため増築中である。大型有機ELテレビ用のWOLED(白色有機EL)パネル製造ラインである第8世代E3/E4ライン(坡州、パジュ)は現在の生産能力34K/月を最大60K/月まで増やす見込みである。2017年には増築により新たに26k/月増産計画がある。2018年に大型有機ELテレビ用途のOLED工場を新たに坡州で稼働させるプロジェクトが進行している。