【連載】

フォントから考える

4 世界の“普通”をつくったHelvetica (2)

 
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身近な「フォント」を読み解いていく本連載。第4回は、前回に引き続き、欧文フォントの大定番といっても過言ではない「Helvetica(ヘルベチカ)」についてです。

前回は、世界中のさまざまなところで使われているHelveticaの魅力について、このフォントの幅広い利用用途や他のフォントとの比較を交えて語っていただきました。今回は、一見すると“普通”のルックスであるHelveticaがどうして、言語の壁を越えて世界的な標準フォントとなりえたのか、エディトリアルデザイナーの佐々木未来也さんに解説していただきます。

佐々木 未来也(Mikiya SASAKI)((株)コンセント デザイナー)

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士。2013年株式会社コンセント入社。月刊雑誌、社内報、書籍などのエディトリアル/グラフィックデザインに従事。現在はWebデザイン、サービスデザインに携わるかたわら、全天球映像作家 渡邊課にて、新しい映像表現の探求をおこなう。

Helveticaはなぜ世界の標準に?

Helveticaの成功の理由を語ることは非常に難しいです。Helveticaが優秀だったから、というだけでは、他にも優秀な書体は数多くありますし、「完全に美しいから」というような、Helveticaそれ自身に理由を求めては面倒なことになりそうです。

そこで、ここでは外部的な理由を考えることにしましょう。「生まれた時代」、そして「大企業による採用」、この2点が単純ではあるものの、大きな要因ではないでしょうか。

デザイン史から見て、20世紀の中頃は「国際タイポグラフィ様式(スイススタイル)」と呼ばれるグラフィックデザインのスタイルが世界的に注目されていました。スイススタイルでは「文字」の扱いが重要視されており、主役とされていたため、強く合理主義を貫くスイススタイルに影響を受けたデザイナーたちは、清潔で、力強く、加えて「文章の意味」を邪魔しない、個性の薄い書体を求めていました。

しかし、そういった主役としての高品質な「書体」には高い需要があったものの、Helvetica以前には選択肢がほとんどありませんでした。Helvetica(当時はNeue Haas Grotesk)はそのような状況の中で登場し、まさに時代の要求に完璧に応えた書体として人気を博しました。

また、スイススタイルは当時、世界のデザインに大きな影響を与える中で、企業ブランディングの領域に広く受け入れられました。結果、Helveticaはさまざまな企業の標準書体として選ばれるようになり、決して揺るがぬ地位を確立していったと考えられます。

その後「退屈」「見飽きた」と敬遠される時期もありましたが、AppleのMacには標準、またWindowsには非常に良く似た字面をもつArialがバンドルされ、登場以来から現在に至るまで、さまざまな企業で採用されつづけている“標準”書体として多くの支持を得ています 。

Helveticaに問題はあるのか?

後知恵となってしまいますが、近年よく挙げられる問題点があります。それは、Helveticaを非常に小さなサイズで使うときに生じます。これから、Helveticaのディテールに注目をしつつ、その問題を考えてみたいと思います。

サンプルをみてみます。前回同様、Gill Sans、Futuraの「ボールド」ウェイトを比較相手にしています。仕様上Futuraのボールドが太くなってしまうのはご容赦ください。特に字間などの調整はしていません。

これらを眺めると、Helveticaの特徴がよくわかると思います。Helveticaは、大文字「G」や小文字「e」「c」などの端部が、Gill Sansに比べて非常に狭いことがわかります。1字1字のまとまりが強い印象ですね。また、Futuraと比較すると、Helveticaは小文字「s」「a」「e」「ç(c)」の構造がいずれもほぼ同一の楕円におさまるような、似た形の構造をしています。

このような点を見比べていくと、全体的にHelveticaは1字1字に個性がでる要素が少なく、コンパクトにつくられており、また構造も統一的であり、言いかえれば、均質で中性的なイメージをつくりあげているということになります。これはHelveticaの魅力のひとつであり、一概に悪いとはいえないのですが、非常に小さなサイズで使う際に問題となる場合があります。

Appleが1年前、OSのデフォルト書体をHelvetica Neueに変更した際、デザイナーたちから注目が集まったのが、この問題点です。高解像度で、小さなテキストがたくさんあらわれるデジタルデバイスという利用シーンにおいては、Helveticaはつぶれて読みづらくなるのでは、と指摘されていました。

余談ですが、先日iPhoneのOS、iOS 9のデフォルト書体が、Helvetica NeueからSan Franciscoに変更されました。好き嫌いはともかく、Helvetia Neueに比べて、小さな文字の読みにくさが改善されているような印象です。

ともあれ、Appleの事例に限らず、昨今のわれわれはデジタルデバイスの影響で、小さなテキストと触れあう機会が増える一方です。Helvetica、そしてHelvetica Neueは、そういった今の状況では、以前より使う場所をうまく考えていく必要性がでてきたのではないでしょうか。

「MS Pゴシック」を扱った時の話と似た話となりますが、機能と形態の美しさを両立することは簡単ではありません。シーソーと同じ原理で、ある目的を達成するためには他の要素をある程度妥協することが求められる瞬間があります。そもそも、機能と美しさの基準というものは、時代によって多少なりとも変化してしまうものでもあります。つくられた当時の問題を解決したデザインといえど、それが未来永劫通用するデザインというわけではありません。

Helveticaは60年近くも廃れることなく親しまれてきた書体です。たしかに小さな文字を扱うのはすこし苦手かもしれません。しかし、この50年積み上げてきた信頼と評判を、すぐさま失うことも考えにくいです。Helveticaはこれからも“標準”書体として、存在感を放つことなく、そっと私たちとともにあると、そう考えています。

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インデックス

連載目次
第4回 世界の“普通”をつくったHelvetica (2)
第3回 世界の“普通”をつくったHelvetica (1)
第2回 クラシカルでやさしい売れっこフォント
第1回 創英角ポップ体はなぜ街に溢れるのか?

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